第四話 0になる日
第四話です!!今日もよろしくお願いします!!
朝、目を覚ました瞬間から嫌な予感がしていた。
カーテンの隙間から差し込む光はいつもと変わらない。窓の外では車の走る音が聞こえ、世界は何事もなく動いている。
それなのに胸の奥だけが落ち着かなかった。
今日は朝霧結衣の数字が0になる日だ。
昨日、公園で会った青年は言った。
数字は死を意味しない。
0になった人間が必ず死ぬわけではない。
それでも俺は安心できなかった。
父さんが亡くなった日、俺は確かに0を見ている。
サラリーマンもそうだった。
数字と死が無関係だと言われても、簡単に信じられるはずがなかった。
⸻
教室へ入ると、窓際の席で朝霧さんが友人と話していた。
その姿を見つけた瞬間、胸の中の緊張が少しだけ和らぐ。
だが次の瞬間、俺は足を止めた。
頭上の数字。
そこには赤い『0』が浮かんでいた。
昨日まで確かに『1』だった数字。
それが今、静かにそこに存在している。
「神谷くん?」
朝霧さんが不思議そうにこちらを見る。
「どうしたの?」
「いや……何でもない」
慌てて視線を逸らした。
数字は0になっている。
なのに朝霧さんは普通だった。
笑っているし、元気そうだし、具合が悪そうにも見えない。
俺だけが焦っていた。
⸻
午前中の授業はほとんど覚えていない。
何か起きる気がして仕方なかった。
階段を下りる時。
校庭へ向かう時。
車の多い通りを歩く時。
そのたびに最悪の想像が頭をよぎる。
しかし何も起きない。
昼休みになり、午後の授業が終わっても状況は変わらなかった。
まるで世界が俺の予想を嘲笑っているみたいだった。
⸻
放課後。
帰ろうとした時だった。
「神谷くん」
朝霧さんが声を掛けてきた。
「今日、少しだけ付き合ってくれない?」
「どこに?」
「行きたい場所があるの」
その表情はどこか真剣だった。
断る理由はなかった。
俺は黙って頷いた。
⸻
連れて行かれたのは高台にある小さな墓地だった。
傾き始めた夕陽が墓石を橙色に染めている。
吹き抜ける風は少し冷たく、街の喧騒もここまでは届かない。
朝霧さんは一つの墓の前で立ち止まった。
「父のお墓」
去年亡くなった父親。
以前聞いた話を思い出す。
彼女は持ってきた花を供えると、その場にしゃがみ込んだ。
「今日、命日なんだ」
静かな声だった。
俺は何も言わず隣に立つ。
「昔ね、父のこと嫌いだったんだ」
朝霧さんは少し笑った。
その笑顔は寂しさを隠しているように見えた。
「仕事ばっかりで、全然家にいなかったから」
夕陽がゆっくり沈んでいく。
空は赤から紫へ変わり始めていた。
「だから最後まで素直になれなかった」
墓石に向けられた視線はどこか遠くを見ている。
「ありがとうも、ごめんも言えなかった」
その言葉を聞いた時、俺は父さんのことを思い出していた。
病院の白い天井。
消毒液の匂い。
そして赤い0。
あの日からずっと、俺は父さんを救えなかった自分を責め続けている。
「でもさ」
朝霧さんが空を見上げた。
「最近思うんだ」
風が吹く。
黒髪が揺れる。
「ちゃんと伝えたかったなって」
その瞬間だった。
俺は目を見開く。
朝霧さんの頭上に浮かんでいた0が、ゆっくりと薄れていった。
まるで霧が晴れるみたいに。
そして数秒後には完全に消えていた。
何も残さず。
跡形もなく。
俺は言葉を失う。
数字が消えた。
だが朝霧さんは生きている。
むしろどこか肩の荷が下りたような表情をしていた。
⸻
帰り道、俺の頭の中は数字のことでいっぱいだった。
数字は死ではない。
少なくとも、それだけでは説明できない。
0になった朝霧さんは死ななかった。
それどころか何かを乗り越えたように見えた。
もし数字が失うものを示しているなら。
もし人生の転機を表しているなら。
父さんの0は何だったんだ。
考えれば考えるほど分からなくなる。
その時、スマホが震えた。
青年からだった。
見ただろ
俺はすぐに返信する。
数字は何なんだ
既読が付く。
少し間を置いて返信が来た。
お前の父親も0になった
心臓が大きく脈打つ。
だから父親の死と数字は別だ
画面を握る手に力が入った。
じゃあ父さんの0は何だったんだ
送信する。
数十秒後。
返信が届いた。
本当に事故だったと思うか?
息が止まった。
画面を見つめる。
意味が分からない。
父さんは車に轢かれた。
俺を庇って。
それをこの目で見た。
事故じゃないはずがない。
だが青年は続けて送ってきた。
お前は事故の日のことを全部覚えてるか?
指が止まる。
その質問に答えようとして、初めて気付いた。
思い出せない。
病院で目を覚ます前の記憶が、一部分だけ抜け落ちている。
父さんが倒れたあと。
救急車が来るまで。
その間だけが、まるで誰かに切り取られたみたいに存在しない。
背筋を冷たいものが走った。
スマホにはさらに一通のメッセージが届いていた。
記憶を失ったのは、お前だけじゃない
その文章を見た瞬間、胸の奥で何かが大きく音を立てた気がした。
そして初めて思う。
父さんの死には、まだ俺の知らない何かがあるのかもしれない。
ご覧頂きありがとうございました!!最近は少しづつPVが増えてきて本当に嬉しいです!!これからもよろしくお願いします!コメント・ブックマークもよろしくお願いします!




