第一話 「残り三日」
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人が死ぬ前には、数字が見える。
俺はずっと、そう信じていた。
なぜなら幼い頃、この目で見たからだ。
父さんの頭の上に浮かんでいた赤い『0』を。
あの日は雨だった。
細かいことは覚えていない。
ただ、俺が道路に飛び出したことだけは覚えている。
転がったボールを追いかけたのかもしれない。
母さんに怒られていた気もする。
だけど、その直後の光景だけは鮮明だった。
大きなクラクション。
迫ってくる車。
そして――。
「危ないっ!」
父さんが俺を突き飛ばした。
次の瞬間、父さんの体が宙を舞った。
病院の白い天井。
目を覚ました俺は、自分が助かったことも分からないまま父さんの病室へ向かった。
ベッドの上で眠る父さん。
顔には包帯が巻かれていた。
そこで初めて見た。
父さんの頭上に浮かぶ、真っ赤な数字を。
『0』
意味は分からなかった。
けれど、その日の夜。
父さんは亡くなった。
それ以来、俺の中では一つの答えが出来上がった。
数字が0になると、人は死ぬ。
――
そして十二年後。
高校二年生になった俺は、そのことをほとんど忘れていた。
いや、忘れようとしていた。
数字なんて見えなくなっていたし、子供の頃の勘違いだったのかもしれない。
そう思っていた。
今日までは。
――
朝七時四十五分。
通学途中の駅のホーム。
俺はいつものように電車を待っていた。
スマホを見ているサラリーマン。
コーヒーを飲む女性。
退屈な日常。
そのはずだった。
「あ……?」
思わず声が漏れた。
数メートル先に立つ男性の頭上。
そこに、見覚えのある赤い数字が浮かんでいた。
『3』
俺は目を擦った。
もう一度見る。
やはりそこにある。
『3』
「なんだよ、あれ……」
数字は揺らぐことなく宙に浮いていた。
まるで最初からそこに存在しているみたいに。
周囲の誰も気付いていない。
俺だけが見えている。
背筋が寒くなった。
脳裏に父さんの姿が蘇る。
病院。
白いベッド。
頭上の『0』。
「まさか……」
そんなわけない。
だが嫌な予感が離れなかった。
――
翌日。
俺は同じ時間の電車に乗った。
理由は自分でも分かっている。
確認したかったのだ。
昨日の数字が見間違いだったと。
そう証明したかった。
しかし――。
そのサラリーマンはいた。
そして。
『2』
数字は減っていた。
俺の心臓が大きく跳ねる。
「嘘だろ……」
偶然。
ただの偶然だ。
そう自分に言い聞かせた。
けれど足は震えていた。
⸻
三日目。
俺はホームに立つ彼を見つけた。
『1』
数字はまた減っていた。
もう偶然では済ませられない。
俺は思わず男性に近付いた。
「あ、あの!」
男性が振り返る。
「はい?」
「気を付けてください」
「え?」
「その……事故とか」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
男性は困惑した顔をする。
「大丈夫ですか?」
「あ……すみません」
逃げるようにその場を離れた。
頭がおかしいと思われたに違いない。
だけど、あれ以上何も言えなかった。
⸻
その夜。
俺は眠れなかった。
スマホを握ったままベッドに転がる。
時計を見る。
午前一時。
午前二時。
午前三時。
気付けばニュースアプリを何度も更新していた。
そして。
午前四時十三分。
一本の記事が表示された。
『会社員男性、駅前交差点でトラックにはねられ死亡』
写真を見た瞬間、血の気が引いた。
間違いない。
あのサラリーマンだった。
スマホが手から落ちる。
「……そんな」
呼吸が苦しい。
心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。
やっぱりだ。
やっぱりあの数字は。
人の死を示している。
父さんの時と同じだ。
⸻
翌朝。
ほとんど眠れないまま学校へ向かった。
教室に入る。
友達の声。
先生の声。
いつもと変わらない朝。
なのに俺だけが現実感を失っていた。
席に座ろうとして。
そこで足が止まる。
「……え」
教室の窓際。
一人の女子生徒が友達と笑っていた。
長い黒髪。
整った横顔。
名前は確か――。
その頭上に。
赤い数字が浮かんでいた。
『3』
昨日見た数字と同じ。
あのサラリーマンと同じ。
俺の喉が乾く。
女子生徒は何も知らずに笑っている。
普通に生きている。
けれど俺には見えてしまった。
残酷な数字を。
『3』
もし本当に同じ意味なら。
三日後。
彼女は死ぬ。
チャイムが鳴る。
誰も異変に気付かない。
教室の喧騒だけが響いていた。
俺はその数字から目を離せなかった。
絶対に見間違いじゃない。
だとしたら――。
「助けないと……」
気付けば、そう呟いていた。
たとえ頭がおかしいと思われてもいい。
もし本当に死ぬのなら。
今度こそ。
今度こそ、見殺しにはしたくなかった。
初めて書いた作品ですので沢山のコメント・反省点なども教えて頂けたら嬉しいです。




