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井口がためにキノコは哭く その7

 形勢は完全に逆転していた。


 ダンゴムシのグレー一色だった視界は、ベニテンズの赤と白コントラストに様変わりしていた。


 それはそうだ、胞子が掛かると全身からエノキのようなベニテンズを大量に生やし、数秒経たずにニューベニテンズに生まれ変わる。


 しかも、その速度たるや倍々ゲームで、だ。


 ダンゴムシ達も、追い詰めた獲物の立場がまさか逆転するとも思わず、勢いづいたダンゴムシの集団自殺は止まれない。


 突っ込む先からベニテンズに生まれ変わっていく様子は、さながらオセロがひっくり返るようだった。


 「や、やばい。あの状況が胞子一つで打破出来るとかどれだけヤバイんだよ...。


  本気で走馬灯がチラつ...!?えっ...!」


 ダンゴムシ戦に気を取られていたのがまずかった。


 井口君含めたベニテンズ達は、完全に霧に捕捉され周囲を覆い始めていた。


 「完全に忘れてたぞおい...

  ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!


  全員離脱だああぁぁぁぁぁ!」


 大声退避を叫ぶが、時すでに遅く周囲を完全に霧に覆われてしまっていた。


  数体のベニテンズは逃げることが出来きたと思うが、霧の効果かエルヴィティティス含め連絡が取れなくなっていた。


  とりあえず霧に覆われているが、まだ生きてはいるようだ。


  周囲にいたベニテンズも普通に動けているらしい。


  ただ井口ベニテンズだけは、完全に警戒体制になっている。


  どうやら、エルヴィティティス含めた外部と完全に連絡が取れないらしく、井口君を守るモードに移行したらしい。


 俺が守ってやる系キノコとか、好感度爆上げじゃねーかと脳天気な井口君であった。


 また残機として先程死ぬほど生まれ変わらせたダンゴムシ製ベニテンズも60体ほど増えており、戦力も増強出来ている。


 正直霧に触れたらゲームセットと考えていた手前、拍子抜けでもあったが警戒を解く理由にはならない。


 とりあえず斥候を用意し、状況把握しなくては。


 ここからは一瞬でエンカウントする。

 紫に見つかる前にこちらが見つけなくてはならない。


 井口ベニテンズからの指示は、60体ぐらいと元居た4体のベニテンズは動かせるらしい。

 ともかく、接敵の危険性があるならベニテンズを散開させなければ。


 2-3m先さえも見えないぐらい視界も悪く、敵も捕捉できない状態で動けないのは非常にまずい。


 即座にベニテンズを円形に散開させるものの、姿が見えなくなった、ベニテンズから次々と音信不通になる。


  「これじゃあ相手がいつ襲ってくるか全く分かんねえ。


  蜘蛛もヤバいが、視界阻害系は純粋にタチが悪すぎだろ!


  これでエンカウントとした日には、一方的にボコられ確定....」


  と言いかけた瞬間、ねっとりとした声が森に響き渡る。


  「貴様はキノコ(汚物)?なのでしょうか?

   なぜ汚らしいバイ菌共と一緒に居るのです?


   話しなさいな。」


  ついに接敵してしまった。

  最低、最悪のタイミングだ。


  どうする、どうするどうするどうするどうするどう...


  「答えないの?


   ならば必要ありません。

   

   キノコ(バイ菌)は、キノコ(バイ菌)らしくそこらに生えていなさいな。」


   と言われた瞬間、周囲にいたベニテンズが全て普通のキノコになった。

 

   木の幹に生えている良く見る、『ただのキノコ』にだ。


   「ああああああああああああ....


べ...ベニテンズ達が全て普通のキノコになってる!?

    嘘だろ...、60体いたベニテンズが根こそぎ、キノコにさせられるとか....!」


   一瞬で形勢は逆転され、ベニテンズ達は全て無力化させられる。


   圧倒的な力関係に井口君は、ただただ恐怖するしかなかった。


   本能的に相手はいつでも自分を殺せると理解出来てしまっている。


   「ほぅ...あなたはキノコ(クソ菌)ではなかったのですね。

   もう一度だけ聞きますよ。

   あなたは何ですか?なぜキノコ(ゴミ)と居るのですか?」


   次こそ答えなければ、間違いなく他のキノコと同じにされてしまう。


   「人間の井口と...言います...。」


   息をするのも苦しい緊迫した状態で、ひり出すように話す。


   「ほほぅ、人間とはまた珍しい!

    私も長いことこの森で生きていますが、噂でしか聞いたことのない種族ですよ!


    しかし見るからに弱そうな生き物なのに、この森でよく生き残れていましたね。


    どうして生き残れたのです?」


   「ほとんど...運だけです。


    何度も死にかけました。


    その中ギリギリの中で、金色キノコのエルヴィティティス様に助けていただき、今はなんとか生き延びています。」


   「なるほどあのキノコ(猥褻物)に助けられて、一緒に居たのですね。


    納得です、貴方のような非力な生き物が悠々と生き残れるほど甘くはありませんもの。


    では問いましょう、蜘蛛とはもうお会いしましたか?


    このナワバリの主人にして、老獪なる陰湿者!ああ、彼の気配がないのでとても心配なのです。


    ご存知でしたらお答えなさい。」


   「蜘蛛...ですか?

    この森に来てすぐでしたが、運良く倒せて逃げることが出来ました。」


   と発言した瞬間、空間内の温度が急激に下がるのを感じる。


  「運良く?倒せたですって?


   貴方が?弱者を絵に描いたような、矮小な貴方が?運良く?蜘蛛を倒す!


   そんな嘘を誰が信じるのですか!


   私の!大切なあの人(蜘蛛)を!貴方が!

   

   倒せる理由がない!」


   森一面に怖気を撒き散らしたかのように、その声が響き渡る。

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