誰がためにキノコは哭く その二
エルヴィティティスの指示と共に、ベニテンズが散開していく。
無帰湖を中心に、エルヴィティティスの縄張りとなるのは南西のエリアだ。
その隣、真南側が蒼なるシアルエイガ、南東の位置に紫なるアンティカスの縄張りと連単している。
今まではシアルエイガに対し何度もアンティカスが侵略し続けていたが、全て撃退され続けていた。
それでも狡猾さと熟練さにより面白いほど、シアルエイガに翻弄される自分自身をアンティカスは一方で満足していた。
さながら将棋の達人と楽しむ子供のようなものであった。
しかし、蒼なるシアルエイガの縄張りは、井口君の功績により半分以上をエルヴィティティスが侵略している。
知恵も、機転も、経験も全てに劣るあの『金色キノコ』にだ。
アンティカスは差別する。
劣等なるものが、自身の身の丈に合わぬ報酬を得ることを差別する。
ましてや自分自身が焦がれた「超えるべきだった壁」が持っていたものなら尚更だ。
アンティカスは嘲笑する。
自重という意味を身をもってあやつに教育しなければと。
一方的なマウントポジションからの、教育的指導にアンティカスは嘲笑を浮かべていた。
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「エルヴィティティス様。さ...作戦などはあるのでしょうか?」
「いぐちぃよ。
そんなものはない。
我らの基本戦略は、犠牲ありきの「量」特攻だ。
私のrootsである『増殖』で、生産される大量のベニテンズを用いて「量」にて相手を圧倒する。
王である最後まで私が取られなければ勝利なのだ。
相手が量にて敗北するか、私の量が相手に届かぬか。
自らを賭して初めて得られる活路というわけだ。
だからこそ、やってくれな?いぐちぃ殿。」
「いやいやいやいやいや。
聞く限りそんな、『ガンガン行こうぜ』で勝てそうにない相手じゃないですか!
今の状況では自殺行為。
おもちゃの様に遊ばれて全滅しか見えません。
勝たずして王と言えるのでしょうか?
とりあえず今は時間を稼ぐことが先決です。
完全に相手の手札もわからない状況で、紫を撃退できる可能性はありません。」
井口君は思っていた。
サラリーマン時代にあった、完全に納期無視で業務無茶振りする上司を、なんとか説得していたあの時のピンチと全くもって一緒ではないかと。
生きるために、止めなければならない。
そのためには何が一番効果的か?
それは今の選択により『悲惨な結末』をどれほど凄惨に伝えることができるかで分かれるのだ。
より悲惨な結果が見えれば見えるほど、よほどのバカでない限りはそちらの選択肢を選ぼうとはしないからだ。
まさか異世界に来て、ここまで社会人経験が役に立つとは思いもしなかった。
とはいえ異世界での、意味不明な生物達とのランダムエンカウントバトル。
そのまま初期状態で挑んだところで、rootsの謎を解かない限り撃破は行かないまでもへ撃退することさえも不可能だろう。




