ゲント、プチやらかしをする
ー✦ギルドにて✧ー
「はい、次の方...あ、ゲントさん!どうしました?」
「あ、はい、魔物の納品についてですが...」
「ああ、はい。えーと、普通は受付カウンターじゃなくてあちらの納品カウンターで対処するんですが...まぁ、今回は初めてですし、私が見ますよ。ちょうどもうすぐ休みでしたし。」
「ありがとうございます!」
流石だぜ、ご都合主義!
受付嬢さんが奥に声をかけると、少しの悶着のあと、別の女性が奥から出てきてカウンターに立った。
「なんか悪いですね、せっかくの休み時間でしたのに。」
「いいわよ、別に。だって私の休みまであと五分でしたもの。」
対応してくれた方の受付所さんが納品カウンターの方に歩きながら、あっけらかんと言い放つ。
「え」
「新人の育成ってことで早く変わってもらったわ」
さいですか。
まあ、どのみち俺は助かるからいいけど。
あ、そういえば。
「あの〜、すいません、貴女の名前は何でしょうか?」
「あら?まだ言ってなかったかしら。ケーラですよ。にしても、ゲントさんは言葉崩していいわよ?」
「え?いやでも、失礼じゃないですか?」
「冒険者なんて無礼が醍醐味のようなものですよ。気軽でいいって」
「じゃあなんでケーラさんは口調が硬いんです...硬いんだ?」
「そそ、そういう感じよ。で、私の口調が硬いのは仕事柄。」
「それで、魔物の体はどこにあるのかしら?」
「ああ。知り合いが荷馬車に積んで来てくれたんです。今冒険者ギルドの前に停まっています。」
「あら、そう。じゃあ、持って来てください」
と言うことで一旦冒険者ギルドを出て、ティムさんの荷馬車へ。
そして一匹の狼を担いで、また冒険者ギルドへ。
ドン
「はい、ハウルウルフ一匹ですね。あと四匹...」
「あ、まだありま...あるよ。あるぞ?ちょっと待って下さ...待て。」
「え?あ、はい。」
で、もう一回ギルドを出て、一匹担いでまたギルドへ。
ティムさんが手伝おうかと聞いてくれたが、馬車の見張をお願いした。
「はい。ではハウルウルフ二匹で...」
「いやいや、まだありま...ある。」
「...」
でまた馬車へ、そしてまた一匹担いでギルドへ。
それを更に二回繰り返し...
「ふー。これで最後だ。」
「...」
最後の一匹を担いできた頃には話し方もすっかり冒険者風だ。
中二病の頃の経験が活かせたぜ。
「しょ、初日で五匹全部を倒したんですか?」
「ああ、そうだ。」
「...言ってませんでしたっけ?」
「なにをです?」
「このクエストは最近街道沿いにはぐれのハウルウルフが頻繁に出没するようになったので、その数を減らすために出されたクエストなんです。」
「え?ああそうだ...」
「大体クエスト達成期間が五日ですからね。一日一匹が普通なんですよ?それを、ものの数時間で任務達成させるなんて...まぁ、これこそがゲントさんがC級相当と言える謂れですかね。そもそもハウルウルフは群れの規模によって脅威度が変わる魔物ですからね。一匹ではF級でも、五匹いればギリギリE級相当の範疇ですし...」
「あ、あぁ、ありがとうございます」
「それを普通の半分の時間で倒したなら、十分D級と言えるでしょう。」
「はぁ」
「...にしても、このハウルウルフ達、どこで討伐したんですか?」
「いえ、クエスト情報通り、街の北門を出た先にある街道を少し行った先、岩が増えたあたりだ。」
昔、土魔術を使う強い魔物がこの辺りを縄張りにしていたみたいだ。
でも、そいつは何十年も前に討伐されて、その魔物が抜けた穴を人間が開拓してこの土地を確保したそう。
それで街と街道とその周辺のそれはすべて撤去されたが、少し先に行くとその魔物の攻撃でできた最低三メートルのやや細長い巨岩がそこかしこに突き刺さっている。
そういう巨岩の影で狼が寝てたから、気づかずに踏んじまったんだよな〜。
「え?あ、そうですか、え?じゃあ任務通りですね...まぁいいです。それに、こんなにきれいな断面...一撃一殺でしょうね。すごいです、群れに囲まれながらそんな余裕があるなんて...こういうところでも、C級相当だと解りますね。」
「どうも...」
なんやかんやで、クエスト達成報酬の銀貨三枚。
さらに、毛皮の状態が良かったとかで、魔物の売却料金は一匹錫貨六枚、五匹合わせて銀貨が+三枚。
総じて銀貨六枚の収入だった。
...冒険者ギルド登録初日にしてもう利益が出てしまった。
まぁ、たぶんこれからは宿だやらポーションだやらでお金も使うことになるだろうし。
今世界って...ポーション、あるかな?
あるといいな。
そして、ギルドの外で待機していてくれたティムさんのところへ。
「おお、終わったか。して、利益はどれくらいじゃ?」
「全部合わせて銀貨六枚だった。」
「おお、すごいの!さすが将来有望な若者じゃわい!」
ティムさんはまるで孫のことかのように嬉しんでくれた。
俺は銀貨が入った袋から銀貨三枚取り出した。
「はい、ティムさんの取り分。」
「待て待て、そんな話しておらんじゃろうが」
「いいですって、手伝ってくれた分です。」
「いやいや、儂はただ節介を焼いただけじゃわい」
「いえいえいえ、ほら、もう遅いですし今日はこの街に泊まりますでしょう?その宿代ですよ。俺のせいで帰れなくなっちゃったわけですし」
「む、むぅ」
最終的にはなんとか言いくるめて、ティムさんにお金を渡した。
「宿代なんて錫貨五枚もあればいいのにの...」
「錫貨五枚は安すぎですって。お金なんて、冒険でいくらでも稼げますし。じゃぁ、僕はこっちなので。」
冒険者ギルドで、新人冒険者向けの宿を紹介してもらったので、そちらに向かう。
ティムさんはこの街に泊りで用があったときにいつも使っている宿へ行くそうだ。
「それではまた会おうの、ゲントよ!」
「ああ、こちらこそ、ティムさん!」
誤字、脱字、その他諸々の難点をお教えください。
全て読み、善処します。
読んでくれて有難うございます。