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パーティと憂鬱

帰りたい…

ここまで帰りたいと思ったのは生まれてこのかた初めてだと思う。


慣れないドレスにそわそわするし、カツラはチクチクするし、眼鏡は頭が痛くなる。何より、この煌びやかな会場。何でこんなにシャンデリア光らせてんの?!その上、眩いほど白い壁と床。そんな明るくしてどうすんの?意味がわかんない。


「はあ…」


「ごめんね。セリ」


申し訳なさそうにそう言うお姉さまは、夜空みたいな紺色に、星みたいにガラスの散りばめられたドレスを着ている。輝くような銀髪と相まって星の女神様みたいだ。

お姉さまは綺麗。目に優しい。でも、何で私をこんな場所に連れて来たの?!


話は一週間前に遡る。


「お願い!セリア!私と一緒に私の変装姿に変装して学園のパーティに出て!」


「ヤダ」


「即答?!」


嫌だよ。パーティなんて堅苦しいし、帯刀も出来ないし。


「お願い!リオン様の命令なのー」


お姉さまが情けない声で私に泣きつく。


「なんで殿下がそんな命令を?」


「たぶん、私がソフィーをいじめるのを阻止するためよ!『お前は危なっかしいから目付役が必要だ』って言われたもの!」


それは、純粋にお姉さまの事を心配しているのでは…?


「だったら実家から適当な侍女でも執事でも呼びなよ。」


「無理なのよ…この時期お父様とお母様は夫婦水入らずの旅行中で屋敷の大半の者は休暇を出されてるし、残ってる人は屋敷の維持に最低限必要な人だもの」


会ったことは無いとはいえ、両親の仲が良好な事に嬉しくなる。


「はあ…しょうがないなあ」


騎士が忠誠を誓うべき王家の命令とあっては仕方がない。何より、大好きなお姉さまの為だ。あー、メンドくさい…


「ありがとう!セリ!」


この日の自分の言動を、今私は死ぬほど後悔している。



数分前、リオンにエスコートされて会場に入って来たお姉さまはとてつもなく美しかった。リオンはお姉さまのドレスに合わせた紺色のマントを羽織り、その下は王子らしい白の衣装。まあカッコよかったけど、どう贔屓目に見ても私には夜の帝王、もしくは大魔王にしか見えない。


「殿下、なんて素敵なのかしら…」

「アリア様も本当にお美しいわ」


令嬢が口々に囃し立て、男どもは漏れなくお姉さまの銀糸の髪とドレスの合間から覗く豊満な胸に釘付けになっていた。しかし、お姉さまを見た数秒後には青い顔をして目をそらす。大方、お姉さまの横にいる大魔王に睨まれでもしたのだろう。


一曲目を踊ったお姉さまとリオンは私の元にやって来た。


「殿下、アリア様、とても素晴らしいダンスでした」


私は微笑んで主にお姉さまに向かって言う。


「ありがとう、サリー」


サリー、というのはこの変装姿の偽名である。

お姉さまはいかにも淑女らしく微笑む。私は、ご令嬢モードのお姉さまを見たことが無かったので、これが本物の令嬢かと感心してしまった。


「アリア、俺は挨拶回りに行ってくるから少し休んでいろ。サリー、アリアを頼むぞ」


リオンはお姉さまに優しくそう言うと、私の方を見て笑う。その笑顔は『変な虫近づけんじゃねえぞ』と有り有りと語っている。怖っ…


「畏まりました」


私は深々とお辞儀をする。

リオンは軽く頷くと、会場の中央に向かっていった。


「どうしたのかしら、なんだか今日のリオン様ちょっと様子がおかしいの…」


リオンを見送りながらお姉さまが言う。


「おかしいって?」


「会場に入るまでは上機嫌だったのよ。でも急に不機嫌になった気がして…会場中を刺すみたいに見回してるし。」


私はため息をついた。


「お姉さまは鈍いなあ…。殿下はお姉さまに他の男が興味を持つのが嫌なんだよ。独占欲?ってやつ?」


お姉さまはキョトンとした顔をする。


「どうして?」


「お姉さまは殿下の婚約者でしょ?自分のモノが他人に盗られるのが嫌なんじゃない?」


お姉さまはポンと手を打つ。


「そうね!仮にも王子の婚約者が他の殿方に誑かされていたら面目丸つぶれだもの!」


「そうそう、王族とか貴族って本当に大変だよね」


騎士団じゃフったフラれたなんてしょっちゅうだ。圧倒的にフラれた話の方が多いけど。恋愛も自由にできないなんて貴族は本当に大変だ。


大体、このパーティも堅苦しすぎる。と思い始めて頭の中で不平不満を並べ、ため息をついた所で冒頭の会話に戻る。


「はあ…」


「ごめんね、セリ」


「別にお姉さまのせいじゃないよ。パーティに侍女をボディガードとして連れてこいなんて無茶言った殿下のせい…あれ?」


そこまで言って、会場の中央部にいるリオンを見た私は言葉を止めた。


「あれ、殿下と一緒にいるのソフィーと…ソルガ?」


「え?」


お姉さまも驚いたようにそちらの方を見る。


「もしかして、ソルガがソフィーをエスコートして来たって事?」


お姉さまが青ざめた顔で言う。


「なんか困るの?」


「大困りよ!パーティのエスコート役は毎回その時好感度が一番高い男性がするの。つまり、今一番好感度が高いのはソルガって事よ」


ふーんと思いながらリオン達の様子を見守る。


リオンと談笑していたソルガがソフィーの背を押してリオンに近づける。リオンが眉間にシワを寄せて何か言いかけたが、ソルガがそれを阻むようにリオンの耳元に何か囁いた。するとリオンは急に笑顔を浮かべてソフィーの手を取る。


「やったー!リオン様とソフィー踊るのね!」


お姉さまは喜んでいるけど、私は違和感が拭えなかった。


今のやり取りの様子だと、ソルガがリオンにソフィーと踊るように計らったみたいに見える。でも、お姉さまの話通りならソルガはソフィーの事が好きなんだよね?なんでリオンとソフィーをくっつけようとするんだろう…


セリアは別に鈍いわけじゃありません。


ただ、アリアの鈍感視点でしかリオンの話を聞いたことが無かったので、姉妹そろってアホみたいな会話になっちゃうんです…!

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