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ラカーシャの穴1

おもな登場人物


ピエタ・リンソン — 25歳、イクストランの国のハースフという貴族の記録画家。イクストランの統治者から新城の壁面へ竜を描く命が下ったため、それを描く画家の選考試験に名を連ねようと、実際の竜を見ようとする。このお話の語り部。


クーカ ― 新大陸の先住民、10才の少女。リンソンが行きついた集落の長の娘であり、夜を崇める呪術信仰の巫女。しかし、巫女としての能力を疑われ、排斥されたため、カペロとともに暮らす。

(銃と草からの追加)

集落がイクストラン兵の襲撃にあい、彼女の親代わりのカペロが行方不明となったいきさつから、リンソンと二人ぼっちの旅をすることになる。


ヘラルド・クロセス — 25歳、リンソンを襲った少年チルと組んで盗賊をしていた。そのチルとの関係は、長く続かず、草の取引から仲たがいして、さびれた町へ追いやられた。イクストランでありながら、草を嗜好し、草に溺れてしまった異常者だが、独力で草の神秘を銃の扱いへ活かし、殺し屋稼業に従事する。



hole of the lakersha




1





 レーザボに向かう前に、我々は、タイネスに寄った。ポートンをうろつく事は不用意だ。侠者を三人屠ったポートンでの出来事は、私たちの立場を危うくするだろう。


 私は、タイネスでクーカに服を買い与えた。先住民の服は、丈夫で彼女に似合っていたが、町を転々とするたび、ますます人通りの多くなる中で、これでは目立ちすぎる。なので、女物の農作業着に綿の上着を着せ、髪をまとめてやり、そして、帽子を被せた。クーカは、新しい服に困った顔をした。どれもこれもが、ぶかぶかで小柄な彼女の寸法にあったものが、なかったのだ。しかし、黒いリボンを巻いた麦わら帽は気に入ったようだった。奴隷のふりをするには過ぎた持ち物かもしれないけれど、顔は、隠れる。


 レーザボに向かう道は、さすがに交通量が多かった。タイネスで聞いた話によると、レーザボは、鉄の鉱山で栄えた町で、採掘場で働けば、先住民ですら、給金が貰えるというのだ。町で奴隷を見なくなったというわけではないが、今まで奴隷でしかなかった先住民とイクストラン移民の関係が変わりつつあるのかもしれない。


 四年、山奥で過ごしている間にいろいろと変化して、私の国と同じように線路が配され、蒸気機関車が重宝されているとも聞いた。


 町に着くまで、夜の薄い場所で野宿をした。私は、夜、火を焚いたまま、眠ることができなかった。火を目印に盗賊が襲ってくる。


 明日、レーザボにつくというところで、私は、悪夢にうなされ、飛び起きた。私が、殺した二人組みの男をまた殺してしまう夢だった。チルから貸しを返してもらえたなら、私がやつらから奪った服や銃、馬などは、真っ先に処分してしまおう。


 隣で眠っていたクーカが、私の手を握ってくれた。私が、起きたせいで彼女も目覚めてしまった。


「夜が悪さをしたのね」


 夜のせいでは、ないから心配するな、と彼女の手をとんとん叩き、私は、毛布に包まった。火が炊けないなら、ずっと起きていると彼女は言ってくれた。


 私は、心底、彼女に楽をさせてやりたいと思った。きっと私には、カペロもナダも見つけられないだろう。渡航費を稼ぎ、クーカを本国に連れ帰って、ハースフ候に平謝りするのだ。私のできることはもうそれしかない。竜などとたわ言を言って、なにも見つけられず、先住民の少女を連れて戻った卑劣漢として愛想をつかされる。それは、わかってはいるけれど…


 静かだった夜、唐突に銃声が鳴り響いた。私は、また飛び起きて、あたりをさぐった。私たちのいる場所は、道からすこし外れた低木帯の中だったので、はっきり周囲の様子は、確かめられなかった。私はクーカに荷造りするように言った。


 銃声と馬が地面を蹴る音がする。音が遠いので、我々に向けて発砲しているわけではないらしい。急いで、毛布を馬にくくりつけ、そばにある丘へと移動する。馬を引き、静かに歩く。丘のてっぺんへたどり着き、馬を岩に隠して、身をかがめた。ここは、はっきりと道を見渡せた。


 馬に乗った三人の追撃者が、荷馬車を発砲していた。荷馬車の荷台に据えつけられた松明で夜でもよく見える。馬車の御者の一人が、猟銃で応戦していた。四頭立ての馬車なので速度を活かし、懸命に振り切ろうとしている。


 馬が銃声で怯えてしまう上、道がちょうどカーブに差し掛かり、思うように速度が出ない。それに猟銃一丁では、追撃に太刀打ちできないようだった。


 道が、直線に戻ると、三人の銃士たちは、発砲をやめた。あきらめたのかと思いきや、先頭の男が、鞍の上に立ち、なんとそこから馬の前へ飛び降りた。しかし、彼は、地面に落ちず、空中を走った。なにかを踏み台にするようにして、馬車の荷台の上に飛び移ったのだ。


「アカル乗りよ!」


 クーカが、それを目にして大声を上げた。私は、大急ぎで、その口を塞いだ。あれは、カペロに見せてもらったアカル乗りの技の一つだ。


 馬車に飛び移ったアカル乗りが、御者の一人を突き落として、馬車を止めさせた。


「アカル乗りがあんなこと、するなんて…」、私へ小声でささやくクーカ。


 そう、アカル乗りは、聖人であるはずだった。先住民の文化では、アカル乗りの力は、あくまで信仰心をおしはかる尺度であって、戦いに使われるものでは、なかった。彼らは、人々に夜の尊さを教え説き、夜から人を守ることが主な役割なのである。私にとってカペロが、そうだったし、クロセスの話のアカル乗りもそうだった。


 御者は、それ以上、抵抗することはなかった。追撃者らが、荷台をあらためてから、馬車を反転させて、町のほうへと帰っていった。


 私は、思いついて、自分の荷物から日記帳に描いたチルの絵を取り出し、クーカに見せた。夜目が利く彼女には、人相が判別できるかもしれない。


「違うと思う」


 あのアカル乗りは、チルでは、ないのか。


 クーカが、アカル乗りを追いかけて、ナダについて聞くと、うるさくまくし立てたので、なだめるのに苦労した。例え、あのアカル乗りが、何か知っていても慎重に行動したかった。しかし、彼女が、興奮して眠ろうとしないから、私は、町の方へと馬を走らせた。




 翌朝には、レーザボへ到着した。町中は、多くの人が、せわしなく動き回っていた。町の背後の山のふもとには、たくさんの煙突が伸び、採掘場と製鉄所が一体になった施設がそこにあった。


 クーカは、長旅の疲れと睡眠不足でふらふらだった。部屋数の多そうな大きな宿を選んで、彼女に食事を取らせて、眠らせた。こういった町では、人の出入りの多い宿の方が、目につきにくい。宿帳にはお馴染みの偽名を書き、前払いをした。そして、クーカを部屋に残し、町に出た。


 チルは侠者である。町の雰囲気を肌で感じて、その手の輩が、集まりそうな後ろ暗い場所を確認しておくつもりだった。


 今になって思うと、侠者の相手をしなければならないとは、気が重い。そこいらのゴロツキへボスに会わせろと言ったそばから、弾丸が飛んでくることだって覚悟すべきだろう。用心棒代わりにクロセスがいれば、心強かった…いや、いざこざが余計に広がるか。


 一通り、町の全体を歩いてみた。頑丈そうな石造りの銀行があり、娼館が軒並みしている通りもあった。


 気になったのは、やはり採掘場だ。物見やぐらが、三つも立っていて、その上には、ライフルで武装した守衛が近寄ってくるものを見張っていた。山を囲うように高い壁に囲まれてもいる。まるで刑務所だ。


 他の通行人は、そこで立ち止まることさえしないので、私もゆっくりと眺めることができなかった。あの盗賊まがいのアカル乗りといい、製鉄所といい、レーザボには、他の町にはない、きな臭さがあった。


 私は、宿に帰る途中、一つの酒場へ入ってみた。昼間から酒を飲む人間は、ろくなやつがいないとは言うが、今は、そのろくでなしに用がある。スイングドアを押し開いて、中を見ると、一番奥のテーブルについた男たちが三人、カードをしていた。その中には、先住民も一人混じっている。


 彼らは、私をちらりと見たが、ゲームを続けた。


 私は、カウンターで果実酒を一杯頼んだ。バーテンダーは、私に銃を預からせてもらうと言った。カードをしている男たちのベルトには、しっかり銃が入っているのが、丸見えであった。なるほど、彼らは特別か。私は、銃から弾を抜いて、バーテンダーに渡した。


 私は、バーテンダーに世間話を持ちかけた。店の景気だとか、最近のあったことなどだ。男は、擦れたふうに私の言葉を受け流した。


「どこも一緒だ」


 私は、あまり酒を飲めないけれど、舐められないように一息で飲み干して、昨夜、見た馬車が襲われた話をバーテンダーに聞かせてやった。カードをしている男たちにも聞こえるように声を張った。アカル乗りのことは、ひとまず伏せた。


「仕事を探しています」


「穴掘り仕事が腐るほどある。山の詰め所へいきな。銃は取り上げられるがね」、バーテンダーは、うっとうしそうに言った。


「探しているのは、夜の仕事です。私は、夜にいくらか知識があるし、アカル乗りについても理解がある」


 バーテンダーは、私の言ったことにまるで関心を寄せずに、もう一杯注ぐかどうか聞いてきた。私は遠慮した。銃を返してもらい。弾を込めるのは店の外で、と警告を受け、店を出た。


 私は、視線を感じた。カードをしていた男たちが、席を立つのがわかった。彼らは、あくまでも手下の部類だからか、動向の節々もおおざっぱだ。向こうの所作で意図が手に取るようにわかる。カペロと夜の山を歩いた日々は、私の中で無駄にはなっていない。私は、その一味に尾行された。


 やつらをみすみすクーカのいる宿まで引っ張っていくのは、まずい。通りかかった雑貨店で、豆の缶詰を買って、釣りは要らないと言った。そのかわり、しばらくガンベルトを預かってもらうことにした。店を出ても、彼らは、まだ追ってきた。


 私は、例の採掘現場の前まで行って、バーテンダーに教えられた詰め所に入った。案の定、労働希望者と間違えられた。私は、あやしい男の三人組みがここを見張っていると事務員に知らせてやった。事務員は、騙されてすぐさま、私のホラを守衛へ伝える。すると、ヒゲをはやした厳ついたち守衛たちが、小銃を携えて、詰め所から出て行った。


 尾行していた男たちが、守衛にとがめられているうちに私は、事務員へ丁寧に挨拶して、ガンベルトを受け取りに戻った。


 採掘場は、本国の都市銀行以上の警備だった。ここには、なにかある。



 夜になってからも、町をすこし出歩いてみた。暗くなってからの通りは、昼間のそれと段違いに人通りが少なかったが、誰一人いないというわけではなかった。酒場は、どこもにぎわっていたし、労働者が、仲間と酒瓶を片手に娼館通りの方へと足を運ぶ。銃を携えた強そうな男が、町を練り歩いて、採掘場のやぐらには、かがり火が灯され、見張りが町を見下ろしている。


 チルは、本当にここにいるのだろうか?レーザボで新しい仕事をしているという話、あまりに手がかりが少ない。明日からは、クーカをつれてアカル乗りの盗賊を探すことにした。



 そうして取りとめのないことを何日も続けた。先住民のアカル乗りといえど、大きい町でたった一人を見つけるのは、困難だった。クーカのことを案じると、手荒なことはできず、酒場の連中相手に思い切れなかった。


 旅費が底をつき始め、私は、クーカを宿に残し、鉱山で働いた。彼女を宿の部屋で、じっとさせておくため、イクストランの文化を説明する以上に、また怒鳴りつけなければならなかった。

 クーカは、私たちの生活を理解してはいたが、感情的に割り切れない部分があるようだった。集落から出てから、ほとんど、彼女から目を離さないようにしていたので、私が、急に離れようとすることに戸惑ったのだ。町の人は、誰もが親切にしてくれるわけではない。それにつけ、クーカは、先住民だ。部屋にいてもらうほかに私に彼女を守る術はなかった。


 鉱山での私の仕事は、土砂を片付けるというというものだった。それぞれの労働者には、担当区域が決まっていて、持ち場を外れたのが見つかると罰則があると、初日に教えられた。規則にうるさいけれど、仕事をしっかりこなしていると、一日五セーブルの日当が出た。宿の安部屋暮らしなら、質素でも生活していける金額だ。

 しかし、本国へ戻る旅費と稼ぐとなると、途方もない年月がかかる。港までの汽車代でも百セーブルはするのだ。



 鉱山へ働きに出て、ちょうど二週間たった日、詰め所へ出勤すると、先日撒いたイクストランの男二人が、私を待っていた。


 銃を宿に置いて来ていた。こういうことは、予測できることだったのに、私は、なんて馬鹿なのだ!


 回れ右をして、扉へ駆けた。イクストランの男は、言った。


「タームさん、待ってください」


 守衛が、扉に立ち塞がる。背後のイクストランの男が続ける。


「今日の出勤は結構です。そのまま宿にお帰りを」


 男は、私に今日の分の日当を渡してくれた。様子が変だ。


「どういうことでしょう?」、なぜその偽名で私を呼ぶ?


 私は、万全を期して、鉱山労働者事務所に登録する際にグレーク・スペンサという名を用意していた。


「宿にお帰りいただけばわかります」


 男が言って、守衛が、扉からずれた。


 私は、町の通りを駆け抜けた。どうして、あのゴロツキどもが鉱山事務所と結託しているんだ?


 なんにしろ、やつらは、私が宿帳に書いた偽名を見た。宿を突き止められたのだ!クーカになにかしたのか!


 私は、親切な女将に声をかけられたが、話を聞いている時間はない。大急ぎで階段を駆け上り、自分の部屋に飛び込んだ。


 扉を開くと、クーカが居心地悪そうに奥のベッドで三角座りをしていた。


 その隣、イーゼルにかかった書きかけの絵を眺めている青年の後姿があった。窓際の先住民が、私を見た。絵を眺めていた青年が顔を上げた。


「失礼しています。ラント・タームさん」


 彼は、先住民らしい少年の面影残る、無邪気な黒い瞳をしていた。二人とも白いシャツに皮の上着を着て、こざっぱりとしている。窓際にいる痩身で吊り目の男は、腰に銃を差していた。


 青年は、見たところ、武装はしていない。どうしてかわからないが、私は目頭が熱くなった。


「まさか、こんなふうにまた会えるとは思わなかった。よくここへきていることがわかったね」


「ラント・タームとは?」


 前より大人びてはいるけれど、彼はまぎれもなく、チルだった。


「思いつきの偽名だよ」


 クーカが、ふらっとベッドから降り、私の側にくる。私は、彼女にそこにいる青年がチルであることを教えてやった。


「その子には、驚きました。あなたの名誉を傷つけるつもりはないのですが」


 彼は、昔と同じで、必要以上にかしこまったイクストランの言葉を操った。


「いろいろあって、この子と旅をしている」、私は、わき上がる弁解の言葉を飲み込んで、苦笑いをした。


 そう思わせるように旅をしてきたのだから当然か。


 私の腕にしがみつくクーカに一呼吸の間、勘案の視線を向け、チルは、話題を変えた。


「ポートンでクロセスと一緒だったと聞きました。彼の居場所は、わかりますか?」


「どうしてそのことを?」


「起こった事件は、なるべく耳に入るように努めています」


「すまない。あれは」


「言いとがめているわけではありませんよ―あなたは手を出しするどころか、私どもの兄弟を救った、と聞きましたからね―クロセスに仕事を頼みたいのです。行方が知れない」


「ポートンの郊外で別れたきりだ。意見の食い違いがあって、それから…」


 物分りがよさそうにうなずくチル。


「なぜ鉱山で働いているのです?」


「冗談は、よしてくれよ。君たちに旅費を奪われたからじゃないか」


「なるほど…すみません。それは気が回らなかった。そういえば、あなたのお供を二人死なせてしまった」


 チルは、遠い目をして白々しく言った。


「いや、おたがい様さ。こうして君のほうから、出向いてくれたことは、感謝する。でも、ご覧の通りの生活だからね。偉くなった君から、旅費をせびりにきたつもりはないんだ。ただ、あの銀貨百枚は、利子無しで君への貸したということで収めてくれないか?」


「ええ。ずっと、あなたのことが気になっていました。怪物の絵を描いてくれたでしょう。私は、あの絵をお守りにしてきました。今では、銀貨百枚よりも高価なものを差し出すことができます」


「私は、多くを望まないよ。彼女の望みは叶えてあげたいけど」


「何でも叶うようになりますよ。一日五セーブルの労働もいいでしょうが、人には適材適所というものがあります。自分には、味方が必要なのです。信頼できるイクストランの味方が」


 チルは、ポケットから金属の徽章を出して私に見せた。子供がおもちゃを自慢するようににっこり笑って、磨き上げられた鉄のレリーフを指先で叩く。その円形のメダルには、竜の浮き彫りがあった。そのデザインが、私が、チルと出会ったときに書いた落書き程度の竜にそっくりだった。


「これは、あなたの怪物です。いいでしょう?あなたの国からきた職人が、製鉄所にいます」


 風刺画のようなラフな竜のデザインはともかく、丸みを帯びた外観は、洗練されている。チルは、私にバッジを手渡した。


「差し上げます。明日、私の家に来て欲しい。そこのかわいいお嬢さんも一緒におもてなしさせていただきます。積もる話は、そこでおこないましょう」


「行くのかい?」


「はい、今日は予定が立て込んでいます。それを持って、西の雑貨屋の裏にある小屋を訪ねてください。ご存知でしょうか?」、私は、うなずいた。


「なかにいるものが案内します。ああ、それと、この町の店でバッジを見せるとよくしてくれます。酒も食事も無料です」


 チルは、窓際にいた男に目配せして、私に一礼した。


「待ってくれないか?アカル乗りのことを…」


「明日の夜、雑貨屋の裏、我が家で会いましょう」


 そして、クーカに笑みを送りながら、「バッジを失くさないで、友の証です」と言って、男とともに部屋を出て行った。


 クーカが、私の手のひらのメダルを顔に近づけて見つめた。


 クロセスの一件から、チルについて彼女の意見を聞いてみる。私には感じられないことを彼女は、感じ取っているかもしれない。


「彼をどう思った?」


 彼女は、首を横に振り、ベッドに腰掛ける。


「なんだか…霞を見てるみたいだった。あの人もアカル乗りで草を飲む人だとは思うけど…変。カペロやナダは、形があったもん」


「形?」


「うん、気持ちの形。カペロは大きな木みたいで、ナダは、鳥みたい」


 漠然とした恐れか。それは、私も感じた。彼の立ち振舞いは、変わっていないように見えるが、言葉の節々は、大物然としていた。大抵の人が抱く彼への印象だろう。だが、私には、恐れ以上に彼から偽りのない好意を感じた。そして、漠然とした期待も抱いた。





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