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第三話

今日も読んでくださって、ありがとうございます☆彡


間に合ってよかった(;´・ω・)



「聞いていらっしゃいますの?」

「とぼけた顔で、厚かましいこと」


 う~ん、やっぱり始まっちゃいましたわ。

 悪役令嬢御一行様によるヒロインへの追及イベントです。

 もちろん、非はこちらにあるんですよ。たとえ一方的に言い寄られたとしても、悪いのは女となる世の無常……。


「身の程知らずにも、とろけた顔でアレクシア様を見送ったそうよ」

「んっまあ!恥知らずですわ!」


 とろけたではなくぽかーん顔だったと思いますけど、立場上言い返せません。

 自分たちが取り入っている未来の王妃様の一大事、派閥の勢力にも影響が生まれるかもしれないとなれば、熱くなるのも当然です。

 ここは刺激しないように低頭平身を貫くしかありません。


「ご不快な思いを抱かせたこと、誠に申し訳なく存じます」


 悪役令嬢の基本装備、銀髪の縦巻きロールを輝かせたグロリアーナ・ゴメス侯爵令嬢が、怜悧な美貌を陰らせこちらを見つめてきます。良質なアメジストのような深い紫の目は、不思議なことに不安に揺れています……。

 婚約者に悪い虫が付くというのは、気分のいいものでは無いでしょから、仕方ないのしら?

 対照的に怒りに顔を染めているのが、しっかりと編み込んだ茶の髪と吊り上がった同じ色の目を輝かせるヘンリエッタ・エルナンデス伯爵令嬢と、こげ茶の癖が強いウェーブヘアーのセミロングを、ピンクのリボンで飾った黒い目がアクセントのイングリット・モレーノ伯爵令嬢。


「おやめなさい」


 おや?助さん角さんよろしく両側のご令嬢が嫌味を言った後で、バシッと決めてくるはずのグロリアーナ様が、早々と口をはさんできましたわね?

 しかも先ほどより、更に顔色が悪いです……。


「ですがグロリアーナ様」

「身の程を弁えず殿下に言い寄る虫は、早くつぶしておきませんと」

「良いのです。本来なら近づくことの叶わぬ身分の者でも、共に机を並べて友情を育むことが許されるのが、アプレンデール学院という場所なのですから」

「ゆっ友情どころではございませんわ!この女狐は、殿下に対して口にできないような、破廉恥な振る舞いをしたのですよ!」

「わたくし達はその場に居合わせておりません、不確かな話で他家の令嬢を辱めて良い道理はありませんよ」


 凄い……。その通りですがグロリアーナ様?

 男爵など平民同然と、見下して言い放った貴女はどこへ行ったのですか?身の程知らずの阿婆擦れだと、誹謗されてもおかしくないわたくしを庇うとか?

 どう見ても別人ですわよ?


――もしかしたら!


 会った瞬間の「不味いなぁ」と言わんばかりの顔も、仇を見つけたとばかりに噛み付いてきた二人を止める態度も、不自然で違和感があります。

 俺様殿下がゲーム通りだっただけに、悪役令嬢の違い過ぎる言動……。

 わたくしは彼女の前に跪き、こうべを垂れて釈明します。


「恐れ多くも申し上げます。わたくしはこの学びの場で、永遠の友情を築きたいと夢見る卑しい娘に過ぎません」


 『永遠の友情』そして、悪役令嬢から浴びせられる『身の程知らずな夢を見る卑しい娘』という罵倒を混ぜてみる……。


「!……わたくしは貴女を、『賢く優しい令嬢だと思います』わよ」


 わたくしは跪いたままに目を見開いてグロリアーナ様の顔を仰ぎ見た。

 間違いない、今のはバーソロミュー公子のセリフですわ。やっぱりグロリアーナ様は……。

 見つめあった目は不安に揺れ、躊躇いと怯えを滲ませていらっしゃった彼女は、意を決する様に言葉を紡ぎました。


「フローラル・エターナルと聞いて、貴女は何を思いますか?」

「恋の花は永遠に、もしくは永遠の友情……」

「フレエタですわね」

「はい、フレンドリー・エターナルですわ」

「貴女が求める終わりの姿は?」

「すべてにおける友情です」

「その先は?」

「何も望みません、ただロールが流れるだけでございます」


 恐らくはわたくし達にしか解らないやり取りの後で、グロリアーナ様がホッと息を吐かれました。


「もう行って宜しくてよ」

「ありがとうございます」


 お許しが出たので立ち上がり、俯いたままジーンを伴って立ち去ります。

 背後で助角が不満を漏らしているようですが、そこはグロリアーナ様にお任せします。ついでにアレクシア様も、よろしくお願いしますわね~。



 ***


「お招きいただき光栄に存じます」


 翌日、わたくしはグロリアーナ様から呼び出され、彼女の部屋へ足を運びました。

 格の違いを見せつけるような豪華で広い居間には、部屋の主であるグロリアーナ様がお一人で待っていらっしゃり、勧められるままに席に着きます。

 一人で部屋に入るように言われましたので、ジーンは前の間に控えさせています。


「堅苦しい挨拶は不要です。ここにはわたくし達しか居ないのですもの」

「ありがとうございます」


 お茶を運んできた侍女を下がらせると、グロリアーナ様が口を開きました。


「いつから気づかれていらしたのから?」

「あの日ですわ。突然、なんの前触れもなく皇太子殿下にお手を取られて、初めて思い出しました」

「それは、いきなりで驚かれたでしょうね」

「はい、展開の速さにも驚きました……」


 あの日にあったことをどこまで話すか、思わず言いよどんでしまいます。


「いきなり手を取ることですら淑女に対して礼儀に欠けますのに、抱きしめるなど論外ですわ!」

「はっはい、あの、申し訳が「貴女が悪いわけではありませんわ」」


 謝罪の言葉を遮られます。


「タイミング的に、名を聞かれるルートスタートでしたでしょう?いきなり抱きしめるなんて、ゲームの方でさえ無かったことですものね」

「驚き、ましたわ……」


 同じゲームの記憶を持つらしいグロリアーナ様は、わたくしを責めることは無く終始同情してくださいました。


「グロリアーナ様?貴女はいつからお気づきに?」

「この学園に着いて馬車を降りた時、その瞬間突然に蘇りましたの……。そのまま気を失って、目覚めた時にはこの部屋の寝室に寝かされておりました」

「そうでしたか、それは恐ろしい事でしたでしょうね」


 失脚する未来が待つ悪役令嬢に転生したなんて、さぞ恐ろしかっただろう。


「ええ、でもあの方の婚約者という立場に、執着するつもりはありませんのよ?ヒロインが持って行ってくれるものならば、熨斗を付けて差し上げたいと思っておりましたから」

「のっ熨斗ですか?」

「ええ、そう思うほどに未練はありませんの……。ただ、ラノベの中には、こちらが関わらなくても、罪を着せられる展開が多くありましたでしょ?そうであったらどうしようかと、密かに恐れておりましたの」

「ありましたわね。ですが、その手の話は最後にヒロインが、ウソがばれて断罪されるのでは?」

「そうは思いましても危険はあります。昨日のように、取り巻きの二人が暴走する可能性もありましたから尚更ですわ」


 確かに、グロリアーナ様は何もしなくても、手足となりえる二人の伯爵令嬢が暴走した挙句に、自身が罪に問われる可能性が無視できないほど大きいでしょう。


「ですから昨日も恐ろしかったのですよ……」


 そうおっしゃると一口お茶を飲まれ、顔を上げて見つめられました。


「貴女がフロエタの知識を持っていると気づいても、わたくしもそうだと伝えるのに躊躇いもありました。でも、勇気を出してよかった……」

「わたくしも貴女が同じだと知って心強く思いましたわ……。高々男爵令嬢のわたくしが、皇太子殿下の隣など絶対に無理な話です!」


 ここは大事なので強調させていただきます!


「そうかしら?ゲームでは、伯父のヒメネス侯爵の養女になりますでしょ?」

「地位や後ろ盾の問題ではなく、スキルの問題ですわ!次代の王妃となられるために励まれてきた、グロリアーナ様にはお解りにならないかもしれませんが、今のわたくしでさえ男爵令嬢の猫を被っているに過ぎません」

「猫、ですか……?」


 そうですとも!


「わたくしが父の元に引き取られるまで八年間、中流家庭で育ったのはご存知かと思いますが、細かなルールの違いにずっと戸惑ってきました。この上王妃にふさわしい新たなルールを身に着けるなんて、精神が疲労して焼き切れてしまいますわ!」


――本当にここ大事!


「……そうですか、そうかもしれませんね。それに、沈む泥船に乗るのはお嫌ですわよね?」

「えっあの、えっと、沈むとは限りませんわ?」

「そうかしら?」

「あの、そっそうですわ……」


「「・・・・・・」」


「……もしかしたら、沈むかもしれませんわね」

「かも?……」

「確実な事は誰にも分りませんが……わたくしが隣に立った場合は、高確率で沈む気がいたします……」

「傾国の王妃ですわね」

「うっ!わたくしだけのせいではありませんわ……」

「沈まないかもしれませんものね」

「グロリアーナ様でしたら、きっと大丈夫……」


「「・・・・・・」」


「問題は相手ですからね……」

「ええ、誰とは言えませんけど……」


 わたくし達は、目をそらしたままそっとため息を吐きました。


「お茶を淹れなおさせますわ。すっかり冷めてしまいましたわね」


 テーブルに置かれた鈴を鳴らし侍女を呼び出すと、改めてお茶を勧めてくださいました。

 上質な緑茶の香りが漂います。

 さっきは緊張で香りを楽しむ余裕すらありませんでした。


「美味しい、流石はゴメス家ですわね」

「うれしいわ。でも、記憶が甦ってから指示したからなのよ」


――成るほど、日本人ならではですね。本当においしい玉露ですわ。


「アレクシア殿下の件は、どうなさるおつもりかしら?」

「とりあえず母方の祖父に手紙を書きました。ヒメネス侯爵のお気持ちは、はっきりしませんもの」


 伯父や祖父に関するわたくしの見解を説明しました。まだまだ男社会のこの世界において、わたくし達が決められることは本当に少ないのです。


「今はそれしか打つ手がありませんわね。あの方がもう少し、道理の解る方でしたら良かったのですけど……」


 誰が結婚相手に成るにしろ、次代の王があの方と言うのは頭の痛い話ですわね。わたくし達は、重いため息をつきました。

戦友、Getだぜ!

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