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第二話

読んでくださって、ありがとうございます☆彡




「でも、まずはわが身が可愛いです!」

「きゃ」


 勢いよく立ち上がったわたくしの後ろで、侍女のプリムラが悲鳴を上げました。

 殿方の暴挙に固まっていたみたいですわね……。侍女として問題ではありますが相手は皇太子ですし、仕方ないのかもしれません。


「部屋に戻りますよ」

「はっはい、あの……大丈夫ですか」

「驚きましたが問題ありません」


 しっかりと答えるわたくしに胸をなでおろし、持たせていた本を抱きしめながら付き従います。一年ほど前から付いている赤みの強い茶色の髪と薄い茶の目をした素朴で愛嬌のある顔立ちの、確か17になったばかり。黄色の小花とストライプの服がよく似合っています。

 気働きがあり労を厭わないのは美点ですが、少し頼りないところがあります。


――陪臣の男爵令嬢に仕える侍女に、多くを望むのも間違いですわね。



 ***


「フローラ様、どうなさったのですか?お顔の色がすぐれませんわ」


 寮の部屋へ戻るともう一人の侍女ジーンが迎えてくれました。 

 薄茶の長い髪を結い上げた水色の目の彼女は、日ごろから頼りになるのです。シックなグレーの服を隙なく着こなす姿を見て、強張っていた体から力が抜けるのを感じました。


「大丈夫よ、少し困ったことが起こっただけです」

「そうですか?では、先ずお召し変えください」


 早速手紙を書こうとするわたくしをやんわり制します。へたり込んで汚した裾を、目ざとく見つけられてしまったようです。


「少し土と草が付いただけですから払っておけば済むのではありませんか?」

「草の汁が時間をおいて変色する事もございます」


 上流であれ中流であれ、令嬢が家事を行うのは恥ずかしい事とされていますので、わたくしはそういった事柄には無知と言っていい状態です。こういう事はジーンに逆らって良いことはないので素直に従います。

 前世でも、家事は今一つでしたのよね……。


 フロエタ同様にこの学院には制服がありません。

 学園物としては珍しいですが、その分登場する子息令嬢は、シーンごと衣装が変わるこだわりの演出がありました。

 鏡に映る自分の姿に改めて『フローラ・ヒメネス』なのだ、とため息がこぼれます。

 イラストよりは淡いピンクブロンドの髪と、ブルーグリーンのやや垂れた目が如何にもヒロインです。

 するりとドレスを剥ぎ取られ、ウエストを引き絞るコルセットを目にした事で、意識下に封印していた苦しさが頭をもたげてきます。


――攻略より、コルセットからの解放運動をしたいですわ


 白とカナリアイエローのドレスから、ローズピンクの物に着替えます。

 ゲームと同じ、風と共に去っていきたいようなドレスが昨今の流行です。

 ジーンやプリムラの服とは、倍はスカートのボリュームが違います。


「このドレス……」

「どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもありませんわ……」


 説明できませんのでそうは言いましたが、白とカナリアイエローのドレスとあの場所は、間違いなくアレクシアに名を聞かれるシーンの物です。

 ルート開始時に着ていたドレスを思い出して、胃が重くなります。今後のシーンで関わるドレスは、すべて封印するしかありませんわね!

 幸い、父からはもちろん伯父や伯母からも、当然ラモス家からもドレスを贈られていますから、陪臣の男爵令嬢としては破格の衣装持ちです。これから起こりかねないスタート時の4枚と、アレクシアルートの残り5枚を封印したところで問題はありません。


「手紙を、マロン氏にしたためます」

「かしこまりました。用意いたしますのでテーブルでお待ちください」


 ヒメネス男爵令嬢であるわたくしは、敬愛する母方の祖父をお爺様と呼ぶことができません。育ての父シダーはもちろん、実の母に対してもそうなのですから仕方がありませんけど、寂しい事です。


 居間に移動して1メートル程のテーブルに着くと、レースの白いテーブルクロスが目に入ります。これは大公家に嫁がれた伯母上からの贈り物、本当に父に甘いのです。

 婚外子のわたくしにまで、気を掛けてくださるほどに……。


「先にハーブティで気持ちを落ち着けてくださいませ」

「ありがとう、いただきます」


 カモミールに少量のアニスシードを加えたお茶は、心が落ち着きますものね。

 心遣いに感謝して、まずは一杯いただくことにします。今日は蜂蜜を入れて頂こうかしら……。

 香りの甘い蜂蜜ですわね。優しい香りが癒してくれます。


「美味しいですわ。心のこわばりが解けるようです」

「それは良かったですわ。ではレターセットをお持ちしますね」


 ジーンはヒメネス侯爵家に代々仕える騎士の家系ムニョス家の娘で、わたくしなどよりよっぽど貴族の令嬢然とした十八歳のお姉さんです。

 わたくしが父の元に引き取られた時から侍女として仕えてくれていて、細かな振る舞いを正してくれた専属トレーナーの様な存在でもあります。

 残念ながら学園の入学資格は家に爵位があることなので、ここに入学することは出来ないのですが、非常に聡明で学ぶ機会を逃したことが惜しまれます。


 それにしても、厄介な相手に見つかってしまったものですわ。

 まさか逆ハールートなんか始まらないでしょうね……。

 手紙を書きながらわたくしの頭の中に巡るのは五人の攻略対象達の事。本来他の四人との友情エンドを終えて、初めて開始することができるアレクシアルートが勝手に始まっていることで、フラグはこちらから立てるものではないと考えられますもの……。


 フロエタの皇太子ルートは、他の攻略対象者の好感度が一定以内の数値でしか始まらない。その条件を満たすのは、友情エンド後の再スターで得られる数値から少し上まで……。

 再スタート後に接触があると簡単に上昇してしまう好感度を上げず、四人を程ほどの好感度に抑えて初めて立てられる本当に面倒な条件でした。

 逆ハールートは、皇太子も友情ルートで終わらせてやっと入れた。俗に永遠の友情フレエタと揶揄された全キャラ友情エンドを強制される、意味不明のゲームでした。


「アレクシア攻略と逆ハーを捨てたプレイヤーも結構いたな……」

「フローラ様、いましたわね。ですわ」


 思わずつぶやいた独り言にすかさず修正が飛んで着ましたわ。前世の記憶が蘇った事で、言葉遣いがぞんざいになりがちです。

 気を付けないといけませんわね。


「気を付けます。ところで、知っておいて欲しいことが起こりました」


 書き終えた手紙を渡しながら伝えると、「かしこまりました」と受け取り部屋を出て行った。


 そういえば言葉は日本語よね。異世界ではなくゲーム世界なのかしら?

 発売当初から突っ込まれていた、名前は英語で苗字はスペイン語、間にラテン語で爵位を表す単語が入っているのに、口に出すときには最後に日本語でも爵位が付いている不思議設定。


 古き時代にこの地を治めていたのはスパーナと呼ばれる者達で、わたくし達の祖先イングロアは彼らに仕える立場だった。やがてスパーナは衰退しイングロアが実権をも持ったが、家名や地名は伝統的にスパロ語が使われている。

 更に古代語のラテンには強い言霊があるとされて、聖典がこれで書かれていることから特別な事柄にのみ使用が許されている……。

 公式で設定が出された時はツッコミの嵐が吹き荒れものです。 


 世界中、日本語で通じるのは楽ですわよね。

 それなのに文字は英語……。

 スチルに出ていた文字がそうだった影響なのかしら?


――話し言葉とは文法すら違う文字を使うなんって面倒過ぎですわ!


 平民の名前は植物から選ぶのが不文律になっているのは、同じ会社から出ていたギャルゲーが関係しているのでしょうか?

 本当に厄介な事になってしまいましたね……。

 思わずため息が漏れます。

 『ゲームの強制力』とかあるのでしょうか?

 あるなら非常に厄介な事になります……。こちらが何も行動を起こしていないのにアレクシアルートのフラグが立ってしまった事からも、手ごわい可能性を考えておかなければならないでしょう。


――最も理想的なのは友情エンドに持ち込むことですわね……


 それが出来れば一番です。

 先行きが不安でも当面は続く王家とのパイプなんて、商人としては願ってもない大金星。持ちこたえて次代に繋ぐかもしれませんし、いつでも切れる距離を保っていれば、巻き込まれて粛清される危険も減らせるでしょう。



「それで、お話というのは?」


 配達の手配をプリムラに指示して、お茶を煎れ直したジーンが切り出してきた。


「先ほど庭園でアレクシア殿下に名を聞かれて、胸に抱き寄せられましたの」

「…………」


 わたくしの告白に、流石のジーンも目を見開き言葉を失っています。

 皇太子殿下に名を聞かれるだけで一大事なのに、公衆の場で女性を抱きしめるような無体を働くなんて考えられない事でしょう。


「ほんとうに……そんな……ありえませんわ……」

「信じられない事ですが事実ですわ。幸い周囲に他の方はいらっしゃませんでしたが、誰にも見られていないとは言い切れません」


 ゲームではこの後で、悪役令嬢とその腰巾着に糾弾される事になっていた。誰かが目撃して耳に入れたのだろう……。

 本当にとんでもない事を仕出かす王子様ですわ。

 婚約者の居る身分ある殿方と噂になるなんて、ダメージは女の側ばかりに掛かってくるのです。言い寄って来たのが男の方だとしても、大差がないのが現実。


「たっ体調不良を理由に実家へ戻られますか?」

「それも手ですわね。ですけど、この学園で得られる人脈を捨てるのも……危険を冒す価値が十分にありますわ」


 貴族社会で生涯を終えるのならば、実家に逃げ込み早急に婚約してしまうのが一番でしょう。

 ですが、中流層の方と結婚して、商人として生きていくつもりなのですから、逃げてしまうのは悪手です。

 ピンチをチャンスにできなくては、商人として大成できませんわ!



 一通り話を聞いたジーンは、一度ゆっくり頷いてから改めて私を見据えて口を開いた。


「それにしましても、他人の耳に入った瞬間に不敬罪として告発される内容の独り言は、お気を付けください」

「あっあれっいえ、以後気を付けます……」


 皇太子殿下を呼び捨てで攻略なんて、どのような意図であれ口に出して良い事ではありませんわね。


「とにかく、今打てる手はありません。今日の分の課題と予習復習をいたします」

「かしこまりました。すぐに教科書と筆記具をお持ちします」


 ジーンはテーブルに勉強道具を置くと、黙って向かい側に座りました。

 入学以来続けている部屋での自習にジーンも参加してもらっています。授業を聞くことは出来なくても、こうして知識を共有することは出来ますもの。

 説明するために気を入れて授業を聞きますし、理解させようと内容を整理することで理解も深まり一石三鳥です。

文章力の低さが辛い・・・★ミ

何度も直したんですけどねぇ

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