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自治権は五十年に一度、更新される。
そして今年は、まさにその時期に当たるのだ。
皇家側は自治権更新の代わりになにか、有利に働く材料がほしかった。それがエファイテュイアの存在だ。
彼女との婚姻を拒否すれば当然自治権は更新されないだろう。そもそも自治が許されているとはいえ、皇家と完全に関わりなくしてはキトが成り立たない。つまり、拒否はできない。
万が一、自治権更新がなされなければ、アイルディア公爵家に従うキトの貴族はきっと黙っていない。簡単に捨ててしまえば、キトと帝都レキ=アードで内乱が起こる可能性も否定できないのだ。そして、帝都に反発しても勝ち目は薄く、結局は反乱分子として圧政をしかれることにもなりかねない。
愛娘を皇家に嫁がせる以外に、キトを救う道はない。
帝都は距離的に言えばさほど遠くはないのだが、南北の間には広いデリトナ荒野が存在する。この荒野を抜けるのに、貴族の一行であれば一日半かかり、速馬で駆け抜ければ一日程度だ。
だが、このデリトナ荒野は乾燥した大地で、気候が厳しい。また、最近キトを騒がせている蛮族はこの荒野に住み着いており、通行する馬車をよく襲う。安全な道中など望めない場所なのだが、ここを通る以外に帝都に向かう道はなく、それゆえこのニ都市の交流は常に妨げられている状態なのだ。
お互い簡単に行き来はできないのである。皇家としても、このデリトナ荒野があるから比較的容易にキトの自治権をアイルディア公爵家に渡したのだと言われていた。持っていてもこのデリトナ荒野がある限り、その土地への往復は命がけであり、レキ=アードとしても利用価値が少なかったというわけだ。
「さて、どうしたものかな」
「父上様、本当にこれで……」
泣き疲れて眠ってしまったエファイテュイアの枕もとに腰掛けるディルザードが父を見上げた。だが、彼も深く嘆息し、この決定が本位でないことがわかった。
「内乱だけはなんとしても避けたい。お前もいずれこの自治権を継承し公爵となる身なるぞ。可愛い姫のために何万ともいる街人を危険に晒すことが本当に良策か?」
「ーーーすいませんでした」
何も言い返せず、彼はただ頭を垂れる。
「しばらく見ていてやれ。目が覚めたとき、お前の顔を見れば少しは安心するだろう」
父として兄として、今の彼女にしてやれることがそれしかないなんて。
身分高い公爵家と言われながらも、私的なことに関してはこれほど無力なのかとディルザードは一人、唇をかみ締めた。




