1
エファイテュイアの捜索は、キトばかりでなく帝都レキ=アードをも動かした。婚前訪問の直後に襲われて行方不明とあれば皇家としても面目が立たないというのも多少はあるだろうが、少なくとも国に関わる事態と認めたのだ。
そうしてアージェント大帝国二大都市が勢力を上げて捜索しているにも関わらず、彼女の行方は依然不明のまま二十日あまりが過ぎていた。
日に日に焦りが増していく中、一行を襲撃した一味かもしれない蛮族の一人を捕捉したとの報告が、レキ=アードの華の貴公子ルジェンリューズから直筆の手紙でアイルディア公爵家に届いたのは、エファイテュイアの行方不明の日から実に一ヶ月が過ぎたある日のことだった。
ファルアランとディルザードは急ぎ帝都に赴いたのだったがーーー。
「その蛮族は一言も口を開かぬのでございますか?」
「ええ、残念ながら」
ルジェンリューズの報告を彼の自室で受けたファルアランは、少し落胆の色を見せた。
「彼は何か薬草のようなものをあのオアシスで懸命に探していたそうですよ」
蛮族たちは集団で行動する。だからいつも苦戦を強いられるのだ。だが、そのとき彼は一人だった。簡単に捕捉できたらしい。
「姫君のためにも、必ず彼から情報を聞き出してご覧に入れましょう。ご安心ください。アイルディア公爵」
「感謝いたします。ルジェンリューズ皇太子殿下。ところで……その者には会えますか?」
ファルアランの問いかけに、ルジェンリューズは秀麗な眉を少しだけひそめた。
「会う?」
細い指がティーカップを持ち上げ、香りのよいハーブティを口に含んでから、彼はゆるやかに首を振った。
「アイルディア公爵ともあろう方が彼と直に会うのですか? とんでもない」
卑しいものなど思い描きたくもないというように、彼は少し強い語調で言葉を続ける。
「デリトナ荒野に住む蛮族などに公爵が会われる必要などないではありませんか。そのようなことは下々の者に任せて、婚姻の式典についてご相談いたしませんか」
ファルアランはルジェンリューズの真の目的を悟った。だが、未来の皇帝候補の前で不快を表わせるほど、彼の身分や自尊心も低くはなかった。