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異端者、肉人工場への第一歩

作品タイトル改題しました。おどろおどろしい感じを減らしてみました。

朝。


畝が増える。


増えるのはいい。


問題は、増やす手だ。


「アル様、昨日は腕が抜けました」


クレアが真顔で言った。


「僕も抜けた」


カイルが剣の柄に肘を乗せ、乾いた声で言う。


「お前ら、畑を増やす前に人間の腕を増やせ」


「できません」


「できないのは知ってる!」


谷の入口で、ガーちゃん――ガーネットが尻尾をゆっくり揺らしている。


見張り。


番竜。


僕はその姿を見て、ふっと思った。


「……番竜がいるなら、畑担当も作れるのでは」


カイルが嫌な顔をした。


「その発想が一番怖い」



ホムンクルス(空)。


魂はない。


命でもない。


でも、形は選べる。


僕は手のひらに意識を集めた。


出力サイズは、もうスイカじゃない。


三歳児くらい。


「手足、付けられるか」


ぬるり。


肉の塊が、形を変える。


ジンジャーブレッドマンを、丸っこくしたみたいな形。


胴体はぷにっと厚くて、腕と脚は簡単な突起。


人間に寄せすぎない。


“人っぽい”を薄める。


それでも、作業用の関節だけは必要だ。


「……できた」


クレアが目を輝かせる。


「アル様、可愛いです!」


「可愛いって言うな。怖いだろ」


カイルが即座にツッコミを入れる。


僕は咳払いして、淡々と命令を出した。


「土を、耕せ」


ホムが、動いた。


ぎこちない。


でも確実に。


爪……いや指先を土に突っ込み、掻き、返す。


畝の上を、同じ動きで往復する。


「……おい」


カイルが唸った。


「耕してる」


「耕してるな」


クレアが胸を張る。


「さすがアル様! 畑が増えます!」


「いや、増えるのは畑じゃなくて問題だ」


カイルがぼやく。


「でも、工程は前に進みます」


僕が言うと、カイルは短く息を吐いた。


「……止められないのが腹立つ」



問題は、ホムの寿命だ。


外気に弱い。


放置すれば崩壊する。


耕した後に、畑の脇で腐られたら困る。


衛生的にも、精神的にも。


「工程を組む」


僕は、石囲いの燻製室――いや、燻し箱の方を見た。


耕作ホムを、最後にそこへ入れる。


「……命令、追加できるか?」


僕はホムの前に立ち、短く指示を繋いだ。


「畑を耕したら。時間が経ったら。――燻製室に入れ」


ホムは一瞬止まり、また動き出した。


耕す。


往復する。


そして。


一定の時間が経つと――ふらり、と畑から離れ、燻し箱の中へ自分で入った。


「入った!?」


クレアが声を上げる。


カイルが頭を抱えた。


「……お前、どこまでやる気だ」


「腐敗前の回収工程です」


「その言い方が嫌だ」


「でも正しい」


燻し箱の中で、ホムは丸くなった。


煙が当たる。


臭いはまだ残る。


けれど。


腐るよりはずっとマシだ。


僕は帳面を開き、炭筆を走らせた。


“耕作ホム:手足付き。命令で耕作可能。タイマー+帰還(燻し箱)で回収工程まで自動化”



昼。


畝が増えた。


クレアが小石で印を付けていく。


「こっちが脂+灰、こっちが灰だけ、こっちは無処理ですね!」


「助かります」


カイルが、谷の入口を見て言う。


「……ガーちゃん、寝てないな」


「見張りですから」


「竜の見張りが当たり前になってるの、異常だ」


ガーネットが、鼻を鳴らした。


僕は肉ホムの切れ端を一つ投げる。


ガーネットがそれを飲み込み、また外を睨む。


……工程が増えると、餌も増える。


つまり。


「生成計画も、見直しだな」


カイルが呻いた。


「それ以上“計画”って言うな……胃が痛い」



夕方。


畑はまだ収穫できない。


――はずだった。


「アル様」


クレアが畝の端を指差す。


「これ、もう……取れます」


僕はしゃがみ込み、葉をそっと持ち上げた。


土の中に、白い根。


掌に乗せたら、ずしっと重い。


形も太さも、もう“食べ物”だ。


「早すぎるな」


カイルが嫌な顔をした。


「畑の成長速度まで異常になるな」


僕は根の付け根を指で押さえ、引き抜いた。


ずる、と土が剥がれる。


「……収穫だ」


クレアが両手を口に当てた。


「初収穫です!」


カイルは一瞬黙って、次の瞬間、空を見上げた。


「……勝ったな」


「腐敗に?」


「違う。……飢えに、だ」


僕は土を見た。


脂と灰を混ぜた畝。


葉の色が濃い。


根の太り方が違う。


「ホムを肥料にすると、収穫までの期間が短くなる」


僕は淡々と口にして、帳面に書く。


“肥料:肉ホム残渣+灰→生育加速。収量も上がる兆候”


クレアが頷く。


「収穫が増えれば、もっと畑を増やせますね!」


「増やすな」


カイルが反射で言って、すぐに言い直した。


「……いや、増やすなら管理しろ。水と害獣と、竜の餌だ」


「了解です」


だが、違う。


手が。


足が。


勝手に回り始めている。


耕作ホムが土を返し、


ガーネットが入口で見張り、


保存工程が燻し箱で待っている。


僕は息を吐いた。


「……工場だ」


クレアが頷く。


「アル様の工場です!」


カイルが嫌そうに言う。


「協会に聞かれたら終わる言い方だな」


「言いません」


僕は笑った。


言わない。


でも。


これは確かに、勝ちの匂いがしている。


## ホムノート(メモ)


- 耕作ホム(手足付き):単純命令「耕せ」が通る。畝拡張が自動化できる。

- 命令の連結:作業→一定時間後→燻し箱へ帰還、まで通る(腐敗前の回収工程を自動化)。

- 運用上の注意:人型に寄せすぎない(禁忌の濃度が上がる)/腐敗・衛生リスクは燻し回収で潰す。

- ガーネット(ガーちゃん):入口見張りが常態化。給餌は日課。

- 収穫:肉ホム残渣+灰を入れた畝で初収穫。生育期間短縮・収量向上の兆候。

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