異端者、肉人工場への第一歩
作品タイトル改題しました。おどろおどろしい感じを減らしてみました。
朝。
畝が増える。
増えるのはいい。
問題は、増やす手だ。
「アル様、昨日は腕が抜けました」
クレアが真顔で言った。
「僕も抜けた」
カイルが剣の柄に肘を乗せ、乾いた声で言う。
「お前ら、畑を増やす前に人間の腕を増やせ」
「できません」
「できないのは知ってる!」
谷の入口で、ガーちゃん――ガーネットが尻尾をゆっくり揺らしている。
見張り。
番竜。
僕はその姿を見て、ふっと思った。
「……番竜がいるなら、畑担当も作れるのでは」
カイルが嫌な顔をした。
「その発想が一番怖い」
◇
ホムンクルス(空)。
魂はない。
命でもない。
でも、形は選べる。
僕は手のひらに意識を集めた。
出力サイズは、もうスイカじゃない。
三歳児くらい。
「手足、付けられるか」
ぬるり。
肉の塊が、形を変える。
ジンジャーブレッドマンを、丸っこくしたみたいな形。
胴体はぷにっと厚くて、腕と脚は簡単な突起。
人間に寄せすぎない。
“人っぽい”を薄める。
それでも、作業用の関節だけは必要だ。
「……できた」
クレアが目を輝かせる。
「アル様、可愛いです!」
「可愛いって言うな。怖いだろ」
カイルが即座にツッコミを入れる。
僕は咳払いして、淡々と命令を出した。
「土を、耕せ」
ホムが、動いた。
ぎこちない。
でも確実に。
爪……いや指先を土に突っ込み、掻き、返す。
畝の上を、同じ動きで往復する。
「……おい」
カイルが唸った。
「耕してる」
「耕してるな」
クレアが胸を張る。
「さすがアル様! 畑が増えます!」
「いや、増えるのは畑じゃなくて問題だ」
カイルがぼやく。
「でも、工程は前に進みます」
僕が言うと、カイルは短く息を吐いた。
「……止められないのが腹立つ」
◇
問題は、ホムの寿命だ。
外気に弱い。
放置すれば崩壊する。
耕した後に、畑の脇で腐られたら困る。
衛生的にも、精神的にも。
「工程を組む」
僕は、石囲いの燻製室――いや、燻し箱の方を見た。
耕作ホムを、最後にそこへ入れる。
「……命令、追加できるか?」
僕はホムの前に立ち、短く指示を繋いだ。
「畑を耕したら。時間が経ったら。――燻製室に入れ」
ホムは一瞬止まり、また動き出した。
耕す。
往復する。
そして。
一定の時間が経つと――ふらり、と畑から離れ、燻し箱の中へ自分で入った。
「入った!?」
クレアが声を上げる。
カイルが頭を抱えた。
「……お前、どこまでやる気だ」
「腐敗前の回収工程です」
「その言い方が嫌だ」
「でも正しい」
燻し箱の中で、ホムは丸くなった。
煙が当たる。
臭いはまだ残る。
けれど。
腐るよりはずっとマシだ。
僕は帳面を開き、炭筆を走らせた。
“耕作ホム:手足付き。命令で耕作可能。タイマー+帰還(燻し箱)で回収工程まで自動化”
◇
昼。
畝が増えた。
クレアが小石で印を付けていく。
「こっちが脂+灰、こっちが灰だけ、こっちは無処理ですね!」
「助かります」
カイルが、谷の入口を見て言う。
「……ガーちゃん、寝てないな」
「見張りですから」
「竜の見張りが当たり前になってるの、異常だ」
ガーネットが、鼻を鳴らした。
僕は肉ホムの切れ端を一つ投げる。
ガーネットがそれを飲み込み、また外を睨む。
……工程が増えると、餌も増える。
つまり。
「生成計画も、見直しだな」
カイルが呻いた。
「それ以上“計画”って言うな……胃が痛い」
◇
夕方。
畑はまだ収穫できない。
――はずだった。
「アル様」
クレアが畝の端を指差す。
「これ、もう……取れます」
僕はしゃがみ込み、葉をそっと持ち上げた。
土の中に、白い根。
掌に乗せたら、ずしっと重い。
形も太さも、もう“食べ物”だ。
「早すぎるな」
カイルが嫌な顔をした。
「畑の成長速度まで異常になるな」
僕は根の付け根を指で押さえ、引き抜いた。
ずる、と土が剥がれる。
「……収穫だ」
クレアが両手を口に当てた。
「初収穫です!」
カイルは一瞬黙って、次の瞬間、空を見上げた。
「……勝ったな」
「腐敗に?」
「違う。……飢えに、だ」
僕は土を見た。
脂と灰を混ぜた畝。
葉の色が濃い。
根の太り方が違う。
「ホムを肥料にすると、収穫までの期間が短くなる」
僕は淡々と口にして、帳面に書く。
“肥料:肉ホム残渣+灰→生育加速。収量も上がる兆候”
クレアが頷く。
「収穫が増えれば、もっと畑を増やせますね!」
「増やすな」
カイルが反射で言って、すぐに言い直した。
「……いや、増やすなら管理しろ。水と害獣と、竜の餌だ」
「了解です」
だが、違う。
手が。
足が。
勝手に回り始めている。
耕作ホムが土を返し、
ガーネットが入口で見張り、
保存工程が燻し箱で待っている。
僕は息を吐いた。
「……工場だ」
クレアが頷く。
「アル様の工場です!」
カイルが嫌そうに言う。
「協会に聞かれたら終わる言い方だな」
「言いません」
僕は笑った。
言わない。
でも。
これは確かに、勝ちの匂いがしている。
## ホムノート(メモ)
- 耕作ホム(手足付き):単純命令「耕せ」が通る。畝拡張が自動化できる。
- 命令の連結:作業→一定時間後→燻し箱へ帰還、まで通る(腐敗前の回収工程を自動化)。
- 運用上の注意:人型に寄せすぎない(禁忌の濃度が上がる)/腐敗・衛生リスクは燻し回収で潰す。
- ガーネット(ガーちゃん):入口見張りが常態化。給餌は日課。
- 収穫:肉ホム残渣+灰を入れた畝で初収穫。生育期間短縮・収量向上の兆候。




