第二十一話 黒き怪異
二十一話を投稿します!!よろしくお願いします!!
雲一つ無い青い空が無限に続いている。野球部のバットの音、響き渡る蝉の声。
廊下は四十度を超える猛暑のせいで陽炎が揺らめいている。
『特別活動ボランティア部』通称『便利屋ユイ』の部室の中に漂う冷気は、まるで砂漠のオアシスだった。
優依、智花、陽一の三人は汗ばんだ制服をエアコンの前に身を預けている。
そして少し離れた席では真白が懸命にパソコンをいじくっていた。
「涼しい……」
糸瀬優依がそう呟く。エアコンを作った人、人間国宝で良いと思う。
「外なんてもうインドだよ。インド……」
「行った事無いでしょ……」
智花が即座に反応する。
しかし陽一が言ったその未知の異国は、今日の日本の異常気象のイメージを的確に表していた。
カタカタカタカタ……
その三人とは対照的に、真剣な眼差しで机に向かう一人の少年。桜真白。
部室の中に響き渡るパソコンの音。
真白が何やらパソコンと格闘している。
その画面を後ろからのぞき込んで感心している智花。
「へぇ……」
表示されているのは『便利屋ユイ』のホームページ。
しかしそのデザインは白背景に黒文字という簡素なデザインだった。
「もう少しおしゃれにした方が良いんじゃない?」
「あ、ちょっと!!」
マウスを強奪する智花。
カチカチカチカチ……!!手慣れた手つきで操作をしていく。まるでペンキで塗りたくったかのように画面の配色が一瞬で毒々しいものに変わった。
「もう少し紫とか赤とか使おうよ、2010年代のオカルトサイトみたいにさ。都市伝説を探すってのが私達の本題だからさー」
「お、何か秘密結社みたいだな」
「形式上はボランティアなんですよ!?」
真夏の暑さはどこへやら。
部室の空気は完全に夏休みだった。
ピコン
「あ、新着メッセージ」
真白の一言に一瞬、全員の動きが止まった。
「なんだなんだ?新しい依頼か?わくわくするなぁ!!」陽一は新しいことに興味津々だ。
「誰誰?誰から?」優依は送り主が誰か気になっているようだ。
「ええっとね……」智花はもう自分のサイトみたいな顔で眺めている。
「何ですか急に……」困惑する真白。
宛先には、フリーライター 樒 と記されていた。
そこに書かれていたのは接触依頼。
――黒き怪異”について情報提供したい。
四人は首をかしげる。
優依はふと虚空を見る。
“久遠唯”が近くで浮遊しながら難しい顔をしていた。
久遠唯は私にだけ見える守護霊的存在。ピンチの時に私に最強の力を貸してくれる。
その時は刃物を持った誘拐犯を一秒で撃退できたり、サッカーボールをデコピンの風だけで静止させたり、とにかく凄い力が使えるようになる。
ただ、身体を勝手に使うのはやめて欲しいと思っている。
(どうしたんですか?難しい顔して)
『樒か……波乱の幕開けだな……』
(え?)
『いや、何でもない』
久遠唯はそういって視線をそらした。
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某廃トンネル前
冬だったら暗くなってる様な時間にもかかわらず太陽は燦々と輝いている。
西日がアスファルトを焼き、ヒリヒリとした熱気が立ち上っている。
「あ、便利屋ユイご一行様?」
声をかけてきたのは、ラフな格好の青年だった。
アロハシャツにベージュの短パンにウエストポーチ。
片手にはコンビニの袋。年齢は二十代くらいだろうか。
ヤのつく自営業を思わせるようなうさんくさい風貌。それでもってこんな誰も来なそうな場所にいる。第一印象だけなら職務質問されてもおかしくはない。
けれど、人懐っこい笑みだけは妙に自然だった。
智花が口火を切る。
「……えっと、樒さん?」
「樒でーす。フリーライターやってまーす」
軽い。
びっくりするほど軽い。
もっとこう、記者っぽい堅い人物を想像していた優依は思わず目を瞬かせた。
「怪談とか心霊スポットとかの記事書いてんの。最近書いたのは心霊スポット近くのラーメン屋の食レポとかだったかな?」
「何だその仕事……」陽一が呆れたように突っ込む。
智花は冷ややかな目でじっと樒を見つめている。
「いるわよねぇ、こういう定職にもつかずぷらぷらしてる若者」
「君のほうが若者だよねぇ!?」
「それで生活って成り立つんですか……?」
真白は若干引いた目で見つめている。
「成り立たないからコンビニ飯になるんだよぉ、少年。君はこういう大人になるなよ~」
「なりませんよ」
「即答!!」
「もうちょっとこう、あるだろ、“自由そうで憧れます“とかさぁ!!」
「自由とだらしないは別じゃないですか?」
「うわ、容赦ねえ……」
真顔で答える真白。
やれやれという大げさなジェスチャーをしたあと、ふぅと息をはく。
「で、そろそろ本題に入ろうか」
「メッセージに書いてあった“黒き怪異“についてかしら?」
智花が尋ねる。
「うん。最近この町で変な噂が流れてんの。“黒い影を見たものは消える”ってね」
「消える?」
「行方不明。失踪。まあ表現はいろいろ」
「……でも、共通してることが一つある」
「この町にしか出ない、とか?」
「そう。昔っから何かあるんだよねー、この町」
樒はケラケラと笑っている。
「まあ、前説はこのぐらいにして、それ。この先にいるよ。さっき一応見てきたからね」
ははは、と笑う。
彼の目の先には長大な暗いトンネル。いかにも“出そう“だ。
「うえー!!じゃあこれから見に行くのってマジモンのやつ?俺帰ろうかな……」
「ははは、駄目駄目。君たちには来てもらわないと。アレと遭遇したときの対処法、教えないといけないからね」
「大丈夫さ。僕がいる」
妙に頼りある笑みを浮かべながら、彼は内部へ歩き出した。
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トンネルの中は夏だというのにひんやりしている。
それが自然と恐怖を感じさせる。
だが男は恐怖を微塵も見せずスタスタとどんどん歩いて行ってしまう。
「確かこの辺にいた筈なんだよなー」
「うう、……もう帰ろうぜ?」
「……ん?」
陽一が何かを見つけた。
暗がりの中、
トンネルの隅で何かがもぞもぞと動いている。
猫ほどの大きさ。
「野良猫か?」
「……あー、近づかない方が良い」
よく見ると、猫ではない。
「ひっ……」
陽一が驚くのも無理はない。
それは、人体。
腕や足がバラバラに繋がれている。
「ない……ない……」
しかし様子がおかしい。動いているし喋っているのだ。
ポタ……ポタ……。
それは何か黒い液体を滴らせている。
「そう。これが怪異の正体だ。刺激しないでね」
男はある古びた写真を取り出す。
『ない、な……』
腕から生えた口から何かを発しながら、
黒い何かは消えていった。
「成仏したぞ!!」
「目的達成。さ、帰るよ」
しかし、その後方で、
落ちた一滴の黒いシミが、
もぞもぞと動き出していた。
『ナイ』
「ん?」
「ナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイ」
巨大化したそれは壁を喰いさらに大きくなっていく。
「う、うわああああああああ!!!」
陽一は一目散に逃げ出していった。
智花はあり得ない光景に呆然と立ち尽くしている。
「何が起きてるの……?」
「あちゃー、遅かったか。君たち、トンネルの前まで逃げて。逃げ遅れたら、死ぬよ?多分」
「お兄さんは?一緒に逃げないの!?」
真白は正義感から見過ごせないようだ。
「いいからいいから」
男は手を振った。
その後、
私達は一心不乱に走った。
その最中、私は見た気がする。樒の腕から出る無数の何かを。
私は耳にした気がする。途方もない爆発音を。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
帰り道、私達はとぼとぼと帰路についていた。
いつの間にか日は落ち、昼間の熱気も薄れている。
「何だったんだろうな、あの人……」
「ええ……」
目の前に一人の人影が映る。
「やあ、皆無事みたいだね!!」
「うわ出た!!」
生きてるよ。と冷静に突っ込む樒。
「ちょっと後処理が忙しくて遅れちゃった。心配した?」
『ふん、こいつが死ぬわけがないだろう』
(わっ!!唯さん!!急に出てこないでください!!)
久遠唯。私にだけ見える守護霊。そういえばこの人も怪異みたいなもんか。
『コイツとやり合ったら私でも負けるかもしれない』
(唯さんが!?)
久遠唯の超能力。大火災に誘拐事件、あらゆる困難を解決してきた絶対的な力の持ち主が一目置くこの男。本当に一体何者だろう……。
陽一が残念そうに話す。
「つってもよー、途中まで効いてたよなーあの写真」
「ああ、もう少しだった。」
「怪異は人の願いが生み出した怪物だからね、時に思い出の品一つで崩壊する。ただ今日は相手が悪かったな」
「なんだったんだ?」
「昔あそこで、暴走族の総長がバイク事故起こしたらしいんだよね」
「あー、不良の伝説的なやつか」
「そんな感じ。場所も僻地だから誰も近づかなくて、皆が語って畏怖の感情で強くなったって感じかな。ああいうカリスマは死んでも残るんだろうね。根性も桁外れだった」
「ともかく、これで分かったろ?怪異は実在するってこと」
「俺、便利屋やめようかな……」
「ははは、逃げても無駄だよ?」
「――この願いたちはいずれ日本全土を覆い尽くすからね」
一瞬、時が止まった。優依の瞳孔が大きくなる。
「ええっ!!じゃあ……」
「そこでだ。願いは未練と恐怖で強くなる。だったら?」
「……未練がうまれなければ良い!!」
「そう。僕はこの夏、あらゆる手を尽くしてこの怪異の暴走を終わらせる。君たちは原因療法をしてほしい。未練が産まれる前に解決させる、ね?」
「はい!!」
「大きいやつに遭遇する可能性は極めて低いが……」
優依をじっとみてから、ふっと笑い。
「まあなんとかなるでしょ!!」
唯は嫌そうな顔をしている。
『全く人任せだな……』
そういって、彼は去って行った。
「変な人でしたね……」
真白がそう呟いた。
こうして私達の夏休みは少しずつ色を変えていくのであった。
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