第十八話 燃えさかる商店街
第十八話を更新しました!!よろしくお願いします!!
「やっっっべぇ!!」
陽一が教卓を叩いた。
放課後。
旧校舎の空き教室。窓から差し込む夕陽が、埃の舞う教室を赤く染めていた。
机を並べ替え、軽く掃除しただけの部屋。それなのに、不思議と“部室”らしく見える。
「マジで部室じゃん!!秘密基地じゃんこれ!!」
「声大きい」
智花が即座に突っ込む。だが陽一は止まらない。
「ホワイトボード!!窓から見えるグラウンド!!購買も近けぇ!!くぅーーー!!!立地最高!!」
「あのねぇ……」
騒がしい。けれど、その騒がしさが妙に心地よかった。優依は小さく笑いながら、その様子を眺める。
(本当に始まったんだ、私達の部活が)
人助けから始まった活動。だけど今は、ちゃんと皆が集まる“場所”になっていた。
「優依」
智花がファイルを差し出す。
「依頼内容まとめといたわ。活動方針も書いてあるから確認して」
「ふぇっ!?は、早い……」
黒板には既に、依頼内容、活動時間、注意事項などが綺麗に整理されている。
「うわ、マジで部活っぽい……」
陽一が感心する。智花は腕を組んだ。
「中途半端にやるとすぐ潰れるわ。せっかく作ったんだからきちんとやらないとね」
「本当は総馬君も来る予定だったんだけど」
智花がスマホを見る。
「文化祭実行委員の仕事長引くらしいの。当分彼は欠席ね」
「まあ総馬は仕方ねえな……」
その時。ガラッ。
教室の扉が開いた。
「あ……」
少し息を切らした桜真白が立っていた。別棟から急いできたのだろう。
別の科。問題児が集まる超絶不良クラスの生徒、桜真白。
彼は病弱なため欠席が多く、問題生徒扱いでそこにねじ込まれてしまい、いじめられる毎日だった。
しかし前日の喧嘩の件で『便利屋ユイ』に受け入れ、守る事にしたのだ。
「あ、ご、ごめんなさい……遅れて……」
「真白!!」
陽一がぶんぶん手を振る。真白は恐る恐る教室へ入る。
夕陽に染まる机。黒板。
騒がしい空気。
「……どう?」
優依が聞く。真白は少し黙って。
それから小さく笑った。
「なんか……凄いですね」
「本当に部活みたいだ」
「じゃあ創立初の活動行きますか!!」
「そうね。じゃあ学校出るわよ」
夕方の商店街。
「おー、なんか青春って感じするな!」
陽一が笑う。
「依頼受けて街を助ける俺達!」
「便利屋というより雑用係だけど」
智花が冷静に返した。依頼は商店街裏の古い倉庫の整理。
古びた建物の前で店主が頭を下げる。
「悪いねぇ学生さん達」
「任せてください!!」
陽一が勢いよく段ボールを抱える。
その時。
――パチッ。
小さな火花のような音。
「……ん?」
智花が一瞬だけ倉庫の奥を見る。
次の瞬間。
「……ッ、熱っ!?」
薄い煙がふわりと上がる。
「火だ!!」
誰かが叫ぶ。ボッ、と音を立てて一角が燃え上がる。
一瞬で空気が変わった。
「やべぇ!!逃げろ!!」
悲鳴。
煙が天井に走り、視界が白く濁っていく。
「早く外へ!!」
智花の声が鋭く響いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
商店街のおじさんが人数を確認している。
「……49、50。よし、名簿通り人数合ってるな」
「ふぃー助かったぁ!!」
火を見たときの智花の迅速な判断と号令により大惨事にはならずには済んだ。
「あっ……あの!!文月さん!!」
「真白くん忘れ物?あー、この火事じゃあ無理ね……」
智花は燃え盛る商店街を見て呟く。
ひどい火事だ。なんと言っても規模が凄い。
消防車が複数台来ても一日がかりの作業になるだろう。
「そうじゃなくて、まだ人が……」
「え!?」
真白は地図を指さす。
「まだ誰も探してないと思ったから……。火事になる数分前、ここを入ったところの裏に人影が見えたんです。避難した人の中に居ないから多分……」
「俺が行こう」
陽一がすぐさま手を挙げる。蛮勇とは彼のような人間のことを言うのだろう。
「だめよ。二次崩落のリスクもある。それに大人だったらどうするの?おんぶして逃げるの?百パー死ぬでしょ」
「だよな……」
そこに手を挙げる影。
「……僕も行きます。二人ならどうにか担架で運べるかも。それに場所教えないと行けないし」
「真白君まで……」
「よし。二人なら良いよな」
勢いよく立ち上がる陽一。
「は、ちょっと……」
「時間が無い、三分したら戻る。行くぞ!!」「うん!!」
水を被り猛スピードで焼ける商店街へ突っ込む二人。
「あ、待ちなさいったら……!!」
制止も聞かずドンドン奥へ進んでいく二人。
「まったく男達は!!ねえ?優依さん」
しかしそこに優依の姿は見当たらない。キョロキョロと辺りを見回すが優依の姿はない。
「……あれ?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「熱っちぃ!!どこだよ?」
「……確か、ここを曲がって、いた!!」
真白は周囲を眺める。
これだけ入り組んだ場所だ。延焼はギリギリ追いつかなかったようだ。
瓦礫の隅から女の人が座っている。瓦礫をどける。
何かに気づく真白。
「妊婦さんだ……」
「マジか!!急げ!!担架だ!!」
急いで持ってきた担架に乗せる。
その時だった。
コツン。
何かが陽一の前に落ちる。
「ネジ?」
ギ、ギギギギギギギギ………
支えが外れていく。
コンクリの巨大な天井が今にも落ちてきそうだ。
「やっべぇ……走れ!!」
「ちょっ!!揺らさないでね……!!」
必死に走る陽一と真白。
走る。とにかく走る。
しかし頭上からは、
ガラガラガラガラガラガラ!!!
大量の瓦礫が降り注ぐ。もはや逃げ場などない。
「ひっ」「うわあああ!!!」
死を覚悟する二人。
しかし、
ガガガガガガガガガガ!!
瓦礫達はお互いにぶつかっているのかあさっての方向に向かって飛んで行ってしまう。
「あれ?」「へへっ……ラッキー!!」
運が良いのか、落ちてくる瓦礫はすべて二人を避けるように落ちていく。
まるで不思議な力に弾かれているかのようだった。
「こっちだ坊主!!!」
丁度駆けつけた救急隊員が見える。出口には救急車が停まっている。
「だらあああああああああああああ!!!」
ラストスパート。
「要救助者、危険な状態。至急搬送至急搬送!!」
二人から担架を受け取ると、妊婦さんを迅速に運び込み一目散に病院へと向かっていった。
――――――――――――――――――――――――――――――
外の空気。
「はぁっ……はぁっ……」
陽一と真白はその場に倒れ込む。
「……生きてて良かったわ。もう無茶しないでね」
目の前には智花と優依。二人は安堵する。
「助かったぁ……」
「死ぬかと思いました……」
優依の脳内で“久遠唯”が呟く。
『作戦成功』
(バレてないバレてない……)
夕方の帰り道
「いやー良いことをしたあとってのは気持ちが良いぜ!!はっはっは!!」
「本当に二人とも怪我してないの?」
「それがよ!!本当に不思議でさ、全部瓦礫の方から避けてくれたんだ」
「そんな漫画みたいなことある?」
「あるんだよこれが、な?真白!!」
「本当にビックリしました……」
陽一はケラケラ笑っている。
「先日の手の呪いに今日の避ける瓦礫。これは『便利屋ユイ』切っての都市伝説ですね……」
『本当は私のおかげだがな』
頭の奥で“久遠唯”が得意げに話す。
(あなたも都市伝説みたいなものでしょ……)
優依の手は人知れず少しだけ赤く腫れていた。
『全く、面と向かって助ければ良いものを……』
(だって目立ちたくないんだもん。今日もありがとう!!唯さん!!)
『世話が焼ける』
救出劇の裏。
少女は部屋を拳の空圧で炎をその部分だけ逃がし、彼らが来るまで時間を稼ぎ、
瓦礫は背後に控えた唯(優依)が抜群のコントロールで投石を披露。見事あさっての方向へ瓦礫を全て飛ばしていたのだ。
「真白も助かったぜ!!あのとき見つけてくれなかったらあの子死んでたと思うからな」
「そうよ。あの判断は中々出来ないと思うわねえ、優依さん?」
「あ、うん!!凄いと思うよ?」
「……僕、まだ居てもいいですか?」
自信無さそうに呟く真白。
その言葉にガシッと肩を組む陽一。
「当たり前に決まってんだろ!!お前はもうれっきとした『便利屋ユイ』の一員だぜ!!」
「あはは、ありがとうございます……」
その声は夕焼けより少しだけ柔らかかった。
優依の中で“久遠唯“が呟く。
『桜真白か。案外悪い奴でもないのかも知れないな』
(そりゃそうだよ!!ウチの一員だからね)
『……考えてみれば私は奴の過去はあまり知らないんだ』
(未来で何かあったってこと?)
『ああ。桜真白は将来――』
『ここに居る全員とクラスメイトを皆殺しにする』
(え……?)
優依の指先がわずかに強ばる。
目の前には楽しそうな真白君の姿。それが、殺す?全員を?
優依には想像が付かなかった。
『だが、今日の奴を見て確信した、……真白にも善の心はある。だから変えて欲しい。奴の未来を。私は力を貸すことしかできん。優依。頼んだぞ』
唯は唖然としたまま口を開けなかった。
「走って帰るか!!」「元気ね……」
夕焼けの帰り道は何も変わらずに続いているのに、
優依だけにはその光景が違って見えた。
続く
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次回もお楽しみに!!




