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神の器  作者: ハルサメ
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第17話

 誠の予想通り、男たちの手首が突然淡い緑に発光する。


 それが合図となり、男たちの周囲から突如風が吹き荒れる。俗にカマイタチと言われる風は指向性を持ち、誠たちに向かって来る。


 風を発生させる神器。戦場でも良く見かける量産型の神器だ。


 量産型とはまれに発掘される巨大な神核を砕き、小さな神核に分けることで神力を許容できる量を減らして兵器としての能力を落とす代わりに、多くの神器の数を確保することを目的としたものである。


 そしてその程度ならば、誠には神撃で散らす事が出来る。


 誠が不敵に笑う。


 直後、襲い来るカマイタチは破裂した風船のような乾いた音を上げ、消滅した。


能力破壊(スキルブラスト)


 誠の唯一の能力にして、神器が使えない最大の要因。誠の神力は通常の神力とは正反対の力を持ち、あらゆる神力による効果を打ち消す代わりに、神器を動かすことができない。


 通常をプラスとするならば、誠はマイナスの神力を持っている。


 それらを同量衝突させれば、結果はプラスマイナス0。あらゆる能力は無効化される。


 これこそが誠が養成校で無敗を誇った所以である。


 テロリストたちの狼狽は手に取るように見えた。今の流れで誠が只者ではないことに気付き、攻めあぐねているのだ。


 押し切れる、そう思った誠の威勢は新たな闖入者によって遮られた。


「そこまでにしておこうか」


 テロリストの背後、部屋の入り口に一人の男が立っていた。


「手間取ってるようだから様子を見に来たんだけど、予想以上に危ない状況になってるね」


 男は仕方なさそうに頭をかき、口を曲げる。


 まだ二十代前半の、若々しい優男の印象を受ける容姿。着ている服は軍のものでも院のものではないところを見ると、新たなテロリストの仲間だと推測―否、誠にはその男に見覚えがあった。


 要・アイブリンガー。オセアニアを除いた五つの地域を代表する五大神託団、その一つでヨーロッパ最大の神託団コンステラシオンに所属する十二神将である。


 日本とドイツのハーフで、最年少の二十歳で国際S級ライセンスを取得し、同じく飛鳥が記録を塗り替えるまで、最年少国際A級ライセンス取得者として名を馳せた天才。


 養成校時代に何度も映像を見させられた。これを越える神託者になれと。


 誠は無意識のうちに身構えた。今までの相手に取っていた態度とは異なる、本気の姿勢。


「少年と、そちらのお嬢さんが抵抗していると見ていいのかな?」


 誠とイオを指差し、要は陽気な口調で仲間に確認を取る。


「ふむ。裸白衣お嬢さんはこちらのターゲットなんだけど、少年はその護衛?でも軍の神託者には見えないし、服装はまるで学生のそれだ。でもこいつらを退ける力は侮れないし、何より今俺を全力で威嚇している姿は、様になっているどころか一流の風格だ」


 一人ブツブツと呟く要は、やがて納得したのか指を鳴らして誠を見る。


「もしかして君が軍の切り札かな?」


「……だったらどうするつもりだ?」


 苦笑いをしながら毒づく。


 それに対して、要はニヤリと笑う。


「そうだね。一戦、どうかな?」


 直後、要の背後から二つの物体が飛び出す。それらは綺麗な弧を描きながら飛翔し、高速で誠へと向かっていく。


 避けられない速度ではない、軌道を見切り回避を試みる誠だ。


 だがそれらは目前に来た瞬間にバチッと小さな閃光を上げ、回避した誠を追う様に軌道を変えた。


 閃光と同時に感じた僅かな神力の波動。

つまり遠隔操作系能力の一体型。


 そう理解したところで、誠は再び回避をすると同時に、飛翔体に対して神撃を放つ。


 誠を追尾しようと再び飛翔体に閃光が―走らなかった。それらは軌道を変えること無く、制御を失ったように誠の横をすり抜け、壁である巨大なモニターに激突した。


 カルブリヌス。直径三十センチほどのチャクラムの形をした一体型神器で、その能力は特殊な磁場の生成。それにより主に遠隔操作で戦うことを目的としたものである。


 変幻自在の攻撃を繰り出せる点ではレーヴァテイルと似てはいるが、こちらは所持者と神器が完全に分離しているため、戦術の自由度は比べて高い。


「へぇ面白いことやってるね。制御を完全にダウンされたのなんて初めてだよ」


 自身の神器が無力化されたにもかかわらず、要は面白そうに呟く。


「能力の無力化、それとも相性の問題かな?どちらにせよこれは分が悪いね。ハハハ」


 陽気に声を上げている、だがその間にも要からは神撃が放たれていた。


 養成校時代に神撃戦では負け知らずの誠だが、世界が認めた十二神将の神撃はそんなもの比ではなかった。


 圧し返そうにもねっとりとまとわりつくように誠を押し潰そうとする神撃は重く、厚い。


 耐えられないという訳ではないが、これがまだ全力ではないのは確かだ。


 遠隔操作系であるカルブリヌスならば能力破壊で無力化に追い込めるが、要が新たな直接攻撃系の神器を持ち出されでもしたら、ひとたまりも無い。


 その類には誠は無力だ。


 この状況、絶対に苦しい顔をしていけない。どれだけ相手のプレッシャーが重かろうとも、それに堪える様を見せるのは相手に余裕を持たせてしまう悪手だ。


「っと、残念ながらもう時間なんだよね。ここはもう引かせて貰うよ」


 だがそんな誠の気苦労に対し、神撃は圧力を増すどころか、一瞬で消え去ってしまう。


 陽気に告げ、要は部下たちに手招きする。


「しかし目撃者は!」


「言いたい事は分かるけど、軍と顔合わせるのは勘弁だからな。それに今の見たろ? はっきり言って、この少年を相手にするとなると、冗談じゃなくなる。引くのが賢明」


 要は食い下がろうとする部下を宥める。部下は先ほどの攻防を思い出したようで、甘んじて口を閉ざした。


 和やかな言葉遣いだったが、要の誠への警戒は解かれていない。その圧力が、撤退しようとしているテロリストを許してしまう。


「あっちは回収出来たんだからそれでよしとしよう。流石にこの少年はイレギュラーすぎるからな。なぁ君、名前はなんて言うんだ?」


 部下の背中を押して撤収を促しながら、要が問う。


「……八神誠だ」


「八神? じゃあもしかして、君はあの鬼神の子供? という事は、君が八神の子鬼か」


 鬼神―誠の父である八神翔の通り名であり、十二神将ではなかったにもかかわらず、世界中の神託団から畏怖の念を込められそう呼ばれていた。


 そしてそれは、その後ろを幼い頃からついて回った誠にも、鬼神が連れ歩く規格外の子供―子鬼という名が広まっていた。


「なるほどそうか、軍の切り札があの子鬼。確かにあの人の息子なら理解できる。その高圧的な神撃と、規格外の行動は確かにあの人にそっくりだ」


「全然褒められた気がしねえな」


 適当が服を着て歩いている、八神翔とは簡単に言えばそういう人物なのだ。


「ならなおさらここでやり合う訳には行かないな。ここは俺には狭すぎるし、見たところ君も獲物を持っていないようだ」


 要が腕を振ると、壁に突き刺さっていたカルブリヌスが要の腕へと戻っていく。


「俺は要・アイブリンガー。今日のところは俺たちの負けだ、誠。この借りは近い内に返させてもらうよ。それじゃあ、またいつか」


そして後腐れの無い爽やかな笑みを浮かべると、そのまま部下を引き連れて部屋を出て行った。

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