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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1311/2187

第1311話 あの日の出会い(4)

「ふいー、楽しかった。この年になると、ああいう芸術作品が沁みてくるな」

「そうね。あの時は木造の建物なんか見て何が楽しいって思ったものだけど、よかったわ。こういう歳の取り方は悪くないわ」

 午後6時過ぎ。旅館の近くまで戻って来た影仁と日奈美は、そんな言葉を述べた。国宝に指定されている五重塔は、2人の心に感銘を与えてくれた。

「見て見て、影兄。このぬいぐるみ可愛い」

「よかったな。珍しく父さんが頑張ってくれたおかげだな」  

 一方の穂乃影と影人はそんな言葉を交わし合っていた。穂乃影は笑顔を浮かべながら、イ◯ンのゲームセンターで影仁がUFOキャッチャーで取った、兎に似た不思議な生物のぬいぐるみを影人に見せて来た。大きさは両手で抱えられるくらいだ。ちなみに、影仁はこのぬいぐるみを取るのに2000円以上掛かった。まあまあ頑張ったというべきだろう。

 影人は玩具屋でスタイリッシュなコマ、具体的にはベイ◯レードを影仁に買ってもらった。最近、男子小学生の間で流行っており、影人も友達と対戦したりしているのだが、今日影仁に買ってもらったのは、影人がまだ持っていなかった最新型の物だ。ゆえに、影人は子供らしく気分が高揚していた。

「さーて、後は美味い飯食って、美味い酒呑んで、温泉に浸かって寝るだけだな! いやー、幸せ過ぎるぜ」

「本当にね。影仁、今日は付き合いなさいよ」

「分かってるって日奈美さん。でも、べろんべろんに飲んだら明日観光出来ないから、適度にだぜ? 日奈美さん呑み過ぎるからさ」

「うっ、分かってるわよ・・・・・・」

 影仁の言葉に日奈美が苦い顔を浮かべる。日奈美はかなりの酒好きで、1度呑み始めると中々止まらないのだ。

「ん、神社かあれ・・・・・・?」

 もう少しで宿泊先の旅館というところで、影人は赤い鳥居を見つけた。そこには小規模な神社があった。影人はつい立ち止まってしまった。

「? どうしたの影人?」

 そんな影人に気づいた日奈美が、影人にそう言葉を掛ける。影仁と穂乃影も立ち止まり、不思議そうな顔で影人を見つめた。

「いや、ちょっと神社が気になってさ。純粋な興味で。・・・・・・母さん、夕食の時間までには戻るから、神社見て来ていい? 旅館までの道は分かるから」

 旅行先の神社という非日常空間。そんな場所に多少の興味を覚えた影人は日奈美にそう言った。

「まあ、それくらいならいいけど・・・・・・すぐに戻って来なさいよ?」

「分かってる」

「ならいいわ。ちゃんと気をつけて戻って来るのよ」

「うん」

 日奈美に許可をもらった影人は影仁にオモチャの袋を預けると、神社の方に向かって歩き始めた。日奈美、影仁、穂乃影は先に旅館へと戻る。

「ふーん、分かってはいたけど・・・・・・普通の神社だな」

 階段を登って鳥居を潜り、神社の中に入った影人は周囲を見渡しながらそう呟いた。神社内は影人以外に人の姿はない。この神社は周囲が小さな森で覆われており、正面には拝殿があり、その奥には本殿がある。影人は一応奥の本殿や拝殿を観察した。

「・・・・・・雰囲気はいいけど、あんまり楽しくはなかったな。そろそろ戻るか」

 拝殿の前に戻って来た影人はそう呟くと、参道を歩いて神社を出ようとした。だがその途中で、

「・・・・・・・・・・・・ん?」

 影人は人影を見た。入って来た時には気づかなかったが、今の影人から見て左側にある(入り口から見れば右側)大きな石。その石の上に女性が腰掛けていた。

「・・・・・・・」

 その女性は不思議な女性だった。まず、その髪。腰にまで届くようなその長髪は、無色または透明だった。夕暮れの光を受け、その髪はオレンジ色にも見えた。

 次にその面。完璧と言っていいほどに整った顔立ちは、絶世の美女という言葉すら生温い。その面を飾る瞳の色は神秘的な透明。服装は白一色の着物で、そこから覗く肌はシミ1つなく、雪のように白く美しい。そして、女はなぜか裸足だった。

(何だ・・・・・・・あの人・・・・・・・)

 影人は無意識に立ち止まり、その女性に目を奪われた。もちろん、その外見的な美しさもあるが、その女性はどこか神秘的で、神々しいように感じられた。影人は、浮世離れした女性の存在そのものに、目を奪われていた。

「ん?」

 影人が少しの間その女性に目を奪われていると、その女性が影人に気がついた。そして、その透明の瞳を影人の方に向けて来て、

「ッ・・・・・・・!」

 影人はその女性と目が合った。いや、()()()()()()()。そして、影人は女性の神秘的な透明の瞳に、その奥に瞬く透明色の深淵に呑み込まれた。影人は、まるで金縛りにあったように動けずに、ただその深淵を直立不動で覗き続けた。


 ――それが、影人と零無の出会いだった。影人からすれば最低最悪の、零無からすれば最高の、互いの運命を大きく変える、決定的な出会いだった。

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