第1309話 あの日の出会い(2)
中に入ると、そこは外観よりもずっと広く見えるフロントがあった。正面にはカウンター、影人たちから見て左側の部分には、応接用の机に椅子が何台か設置されている。右側の部分には廊下と2階への階段があった。中は和風8割、洋風2割といった何とも味わい深い内装になっていた。
「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました」
正面のカウンター内部にいた水色の着物を着た女性が、影人たちに気づき笑顔で迎える。パッと見たところ、正確な年齢は分からないが、恐らくは70代ほどだろうか。優しげな顔に長い髪を簪で止めている、背筋がシャッキリとした女性だ。女性はカウンター内部から出てきて玄関で立ち止まっている4人の方に歩いてくると、深くお辞儀をしてきた。
「当旅館の女将の冬住紀子と申します。ええと、4名様という事は、今日ご予約の帰城様でよろしかったでしょうか?」
「はい、そうです。2日だけですが、よろしくお願いします。こんな素敵な旅館に泊まれて嬉しいです」
自己紹介をして来た女将、紀子の言葉に日奈美は頷き笑みを浮かべた。日奈美の言葉を聞いた紀子は顔を上げ笑みを浮かべる。
「嬉しいお言葉をどうもありがとうございます。ささやかな宿ですが、どうかごゆるりと。精一杯ご奉仕させていただきます。お荷物をお部屋の方までお運びいたしますね」
紀子はそう言うと仲居を2人呼んだ。荷物を仲居に預けた4人は、紀子の案内のもと2階へと上がった。
「どうぞ、ここが皆様が泊まられるお部屋でございます」
2階の1番奥の部屋。そのドアを開けて紀子が影人たちを部屋の中に入れた。仲居たちは運んできた荷物を部屋の中に置き、早々に立ち去っていった。
「おー、こいつは何とも・・・・・・」
「うわー、いいわ・・・・・・」
部屋の中に入った影仁と日奈美はついそんな言葉を漏らした。
部屋は当然の事ながら和室だった。かなり広めで15畳ほどはあるだろうか。中央には机と4つの座椅子が設置されており、その奥には広縁があり、洋風の椅子が2つと小さな机が設置され、冷蔵庫が置かれている。左側には花や掛け軸の飾ってある床の間があり、右側にはテレビと襖がある。いかにも旅館といった感じだが、その中に確かな味がある。影仁と日奈美は早速この部屋を気に入っていた。
「わあー・・・・・・凄いね、影兄」
「ん、そうだな。いい部屋だ」
気に入っているのは影仁と日奈美だけでなく、穂乃影も影人もそんな感想を呟く。帰城家全員の言葉を聞いた紀子は、「ありがとうございます」と言って笑みを浮かべた。
「右の襖を開いていただくと、8畳のお部屋があります。トイレは2階の階段の先と、1階の廊下奥に。お風呂は1階の庭を抜けた先でございます。夕食は7時から。こちらに運ばせていただきますね。それでは、また何か御用や分からない事があれば、お呼びくださいませ。それでは、ごゆっくり」
紀子はそう言って頭を下げると、ドアの鍵を机に置いて退室していった。
「おお、こっちの部屋もいい感じだ。これなら、布団4枚並べても大丈夫だな」
「はあー、やっぱ畳はいいわ。今の家、和室ないから余計にそう感じる」
影仁は襖を開けて隣の部屋に、日奈美は畳に座りそう呟く。影人と穂乃影は広縁の椅子に座り、そこから窓の外を見た。
「見ろよ穂乃影、あれ人力車ってやつだぜ。こんな暑い中でよく人を乗せて動けるよな・・・・・・」
「凄いね、私だったら絶対無理だよ。あ、見て影兄。あっちに橋があるよ。人がいっぱい」
それから数十分間、帰城一家は部屋で休息を取った。そして体力と気力が回復した頃、影仁と日奈美が影人と穂乃影にこう言葉を掛けてきた。
「影人、穂乃影。そろそろ大丈夫か? 大丈夫だったら、観光に行くけど」
「お腹空いたでしょ。取り敢えず、この近くに美味しいお蕎麦屋さんがあるみたいだから、そこには最初に行くつもりだけど」
「俺は大丈夫だよ。穂乃影は?」
「うん。私ももう平気」
「そ、なら行きましょうか」
影人と穂乃影の言葉を聞いた日奈美は、2人にそう言った。影仁、日奈美、影人、穂乃影の4人は必要な物だけを持って部屋を出た。




