第1307話 昔日の帰城家(4)
「おーい! もう行くぞ影人。早く来いよ!」
そして2日後。よく晴れた金曜日の午前8時過ぎ。帰城家は京都に旅行に行くべく、出発しようとしていた。既に日奈美と穂乃影は車の中に荷物と共に乗り込んでいる。後は影人と影仁が車に乗るだけだ。だが、影人はまだ2階の自分の部屋から降りて来ていない。影仁は玄関から影人を呼んだ。
「分かってるって。今行くから」
影人は階下にいる父親にそう言葉を返すと、リュックサックのファスナーを閉め、それを背負った。そして、階段を降りて玄関へと向かう。
「えらく遅かったな。旅行先に持って行くオモチャの選別でもしてたのか?」
「別に。遅れてごめん。ほら、行こうぜ父さん」
影仁の言葉に、靴を履きながらそう答えた影人は玄関を出た。影仁は、「ははっ、照れ隠しかよ」と笑って影人の後に続いた。そして、玄関のドアを閉めると鍵を掛けた。そして、影人は車の後部座席に、影仁は運転席へと乗り込む。
「遅かったわね。まあ、まだ全然新幹線の時間には間に合うからいいけど」
「ごめん。ちょっと荷物の整理し過ぎた」
影人と影仁が車に乗り込むと、助手席に座っていた日奈美がそんな事を言って来た。日奈美の言葉に影人はそう返事をした。
「ようし、じゃ行くか! 帰城家みんなでの旅行に! いやー旅行なんてマジで久しぶりだから、俺すっげえ楽しみだぜ!」
シートベルトをした影仁は、興奮したようにそう言うと車を発進させた。影仁の様子はまるで子供そのものだ。
「本当、ガキみてえ・・・・・・」
「全く、相変わらず感情が豊かね」
「ふふっ、お父さんらしい」
そんな影仁を見た影人、日奈美、穂乃影はそんな反応を示した。影人と日奈美はいつも通りどこか呆れたような顔を浮かべ、穂乃影は面白そうに笑った。
「でもまあ、私も楽しみよ。久しぶりの旅行。美味い物食べて、美味い酒を呑んで、日頃のストレスを発散しまくってやるわ」
「おー、その勢いだぜ日奈美さん! 影人と穂乃影もしっかり楽しもうな!」
「分かってるよ。多少の非日常だ。できる範囲で精一杯に、色々と経験するさ」
影人は普段と変わらない様子で影仁にそう言葉を返した。まだ10歳だというのに、どこか子供らしからぬ態度。よく言えばクールで、悪く言えば可愛げの無い感じだ。その態度と容姿から、実は密かに学校の女子から人気があるのだが、影人本人は今のところ女子に興味がないのでその事を知らない。
まあ実は、影人のこの態度はクールな方が格好いいという、余りにも早すぎる厨二病発症の症状なのだが、その事を知っているのは、幸か不幸か今のところ誰もいなかった。
「影兄」
「ん? 何だ穂乃影」
車が道路を走り影人が窓の外を見ていると、隣に座っていた穂乃影が呼びかけてきた。影人は穂乃影の方に顔を向けた。
「旅行楽しみだね。影兄、いっぱいいっぱい遊ぼうね」
影人が顔を向けると、穂乃影はニコリと笑みを浮かべながらそう言って来た。穂乃影にそう言われた影人は、
「・・・・・・ああ、そうだな。いっぱい遊ぼう」
自身も笑みを浮かべながら、そう言葉を返した。
――それは、どこにでもある幸せそうな家族の姿。楽しい旅行に行き、旅の思い出を重ね、何事もなく帰って来る。この時は、誰もそんな未来を疑っていなかった。
――この旅行が、まさか家族の1人を失う旅行になるとは、誰も考えてすらいなかった。




