第1286話 ただ1つの願い(1)
「帰城影人の蘇り・・・・・・?」
女のやろうとしている事を聞いたシトュウは、どこ呆然とした表情を浮かべながら、鸚鵡返しにそう呟いた。
「そうだ。吾は影人を蘇らせる。必ず。絶対に。何が何でもな。そのためには力が必要だ。しかし、先ほどまでの吾にはその力がなかった。だから、影人を蘇らせられるだけの力を、お前から返してもらったのさ」
呆然とするシトュウに笑みを消した女はそう言った。シトュウは女の透明の瞳の中に、尋常ならざる執念が渦巻いている気がした。
「・・・・・・私には分かりません。あなたは、なぜそこまであの人間に、帰城影人に固執するのですか・・・・・・? 確かに、彼はあなたを封じた人間です。あなたといえども、思うところはあるでしょう。ですが、私やあなたにとって、人間とはそこまで気にかける存在ではないでしょう。なのに、なぜあなたは・・・・・・」
真界の神にとって、人間は森の木に生えている葉のような存在。つまり基本的には意識の範囲外の存在だ。女も追放されたとは言え、元は真界の神。しかも、その最上位である『空』だった。つまり、意識はシトュウと何ら変わらないはず。
ゆえに、シトュウは女がたかが人間1人のために執念を燃やし、力を求めるという心情を理解出来なかった。
「ふっ、そうか。お前には分からないか。まあ、仕方がないか。吾も追放される前までは、大体お前のような考え方だったからなぁ」
女はどこか暖かな目をシトュウに向けると、再び立ち上がりシトュウを見下ろしながら、こう言葉を続けた。
「吾はこの世界を追放されて、地上世界にいた。ずっと、ずっとな。その中で、幽霊のような存在になりながら、人間という存在を見続けて来た。正直、最初は愚かな下等生物にしか見えなかったよ。だが・・・・・・いつからか、人間を見るのが面白いと思うようになった」
女は無意識に笑みを浮かべる。女の言葉はまだ続いた。
「人間はな、必死に感情を動かし続けて生きるんだよ。自分の為すべき事のために。吾にはそれが面白かった。喜劇のように、悲劇のように、そこには全てがあった。まあ、途中からは傍観者に飽きて、吾を感じ取れる存在を唆して、喜劇や悲劇を自分から作ったりもしたがな。だから、今の人の歴史は少なからず吾が介入した歴史でもあるわけだ。おっと、これはあまり関係がなかったな。まあ、軽い吾の自慢として聞いてくれよ」
女は少し戯けたようにそう言うと、遂に影人との出会いについて語った。
「影人と出会ったのは本当に最近の時代だ。地上世界での世界規模の戦争が終わって、一般的には平和になった時代。吾は少々の退屈と共に、その中でも特に平和な国、日本の京都と呼ばれる場所にいた。そこで、旅行客としてたまたま出会ったのが影人だった」
女はどこかウットリとしたような顔になり、言葉を奔らせ続ける。
「影人はその本質が少し特殊でな。そのために、普通は見えない吾を見る事が出来たんだよ。吾は物珍しさから影人に語りかけた。そして・・・・・・ふふっ、まあ色々あって、吾はあの子を大層気に入ってしまった。吾があの子に執着する理由は、一言で言えばそれだよ」
そして、女は自身の気持ちをシトュウに告白した。
「吾は、あの子の事が好きなんだ。狂おしいほどに。殺したいほどに。抱きしめたいほどに。怒りたいほどに。悲しみたいほどに。復讐したいほどに。とにかく、好きなんだよ。人間はこの感情を恋と呼び、愛と呼ぶ。ああ、素晴らしきかな。吾は愛ゆえに、影人を生き返らせるのさ。今度こそ、あの子の全てを手に入れるために・・・・・・!」
「っ・・・・・・!?」
そこにいたのは、ある意味では恋する乙女だった。だが、その瞳の奥には狂気に近い愛と、歪んだ思いが存在していた。それを見たシトュウは一瞬恐怖を覚えた。




