第1272話 変身ヒロインを影から助けた者(6)
「ああ、そうだな。俺はどうしようもない卑怯者だ。だから卑怯者は卑怯者らしく逃げるよ」
――幸福か不幸か何ていうのはその人の精神状態によるものだろう。
「言わないから! 絶対にさよならなんて! お別れの言葉なんか言わないからッ!」
ある人は、ご飯をいっぱい食べるのが幸せだと思うし、またある人は体を大きくするために無理矢理いっぱい食べるのは苦痛であり不幸だと思うこともあるだろう。
「そうか。でも、俺は言わせてもらうぜ。まあ、さっきも言ったがよ。さようならだ、ソレイユ。永遠に」
それと同じで日常に飽き飽きとして、非日常に巻き込まれたことが幸福と捉える人もいれば、非日常に巻き込まれるのが不幸と思う人もいる。いや、というか不幸と思う人の数の方が圧倒的多数だろうと思う。誰しもがきっと面倒で危険な非日常というやつには巻き込まれたくはない。非日常を求めるのは少数派だ。そして、俺こと帰城影人は少数派ではなく、多数派だ。
「嫌だ嫌だ嫌だ! そんな事、そんな事言わないでよ!」
「はっ、ガキかよお前は。そんなに顔をぐちゃぐちゃにして泣くんじゃねえよ。せっかく綺麗な顔してるのに台無しだぜ」
だが、何の因果か俺は非日常というやつに巻き込まれてしまった。これも全てあのクソ女神のせいだ・・・・・
――しかし、
(心残りがないって言えば嘘になる。俺は結局、父さんとの約束は果たせなかった。母さんと穂乃影よりも先に逝っちまうから。ごめんよ、父さん。約束果たせなくて。でも、俺けっこう頑張ったぜ。頑張って生きたぜ・・・・・)
俺は非日常に巻き込まれて、色々な出会いをした。色々な経験もした。嫌な事も苦しい事も、時には死にかけもした。実際に死んだりもした。
だけど、
「ああ・・・・・・・・悪くない日々だった」
もうほとんど透明になった影人は、最後に満足したような顔でそう言った。
「影人!? 影人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
ソレイユが消え行く影人に触れようと走る。黒い粒子が天へと昇っていく。ソレイユは右手を伸ばして影人に触れようとした。だが、
「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ソレイユが触れる前に、影人は黒い粒子となって、完全にこの世から消え去った。ソレイユの手は虚空を掴んだだけだった。そして、天に昇っていく黒い粒子も、やがて虚空へと溶けるように消えていった。




