第1267話 変身ヒロインを影から助けた者(1)
「ふぁ〜あ・・・・・眠い・・・・・そして寒い・・・・・」
最後の戦いから2日が経過した、1月10日木曜日、午前8時過ぎ。自分が通う風洛高校の制服に身を包んだ、前髪が異様に長い少年、前髪野郎こと帰城影人はあくびをしながら、そう言葉を漏らした。
(さて、今日はどうするか。もう俺にはスプリガンとしての仕事はないし、スプリガンの力はもうソレイユに返却した。俺は晴れて自由の身。ただの一般人に戻った。・・・・・ようやっと、非日常から解放されたわけだ)
解放感を感じながら、影人は内心でそんな事を思った。そう。今の影人は何の力もないただの一般人。レイゼロールを救い、闇奴や闇人が発生する事のない今、もはやスプリガンの力は必要ない。影人は昨日にスプリガンの力の媒体であるペンデュラムをソレイユに返却し、ソレイユとの力の繋がりも絶った。ゆえに、影人はもうソレイユと念話する事は出来なかった。
「・・・・・まああいつ、イヴの存在は残すって言ってたしその辺りは大丈夫だろう。あれだけが正直不安点だったしな・・・・・」
イヴの事を考えながら、影人はそう言葉を漏らした。イヴは元々スプリガンの力の化身で、イレギュラーとして生まれた存在だ。ソレイユに力を返還する際、イヴが消えてしまわないか、それだけが影人からすれば不安だったのだが、ソレイユは「元々、あなたに与えた力は私の力ですから、私に力が戻っても、既に力の化身として意志を得ているイヴさんは消滅する事はありませんよ。私が消さない限り。むろん、私はそんな事はしません。だから、安心してください」と言っていた。そのため、影人は安心してソレイユに力を返却する事が出来た。
「――帰城くん!」
「ん・・・・?」
影人がそんな事を考えながら、歩いていると自分を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。影人がチラリと後方に首を向けると、光司が自分の方に向かって駆けてきた。
「・・・・朝から元気だな。俺に何か用か、香乃宮」
影人は自分の横に来た光司にそう言った。その声音に以前までの嫌悪感のようなものはなかった。まあ、あれは演技していただけなので、演技の必要がない今、声音は普通だ。
「いや、特に用という用は・・・・ただ、君の姿が見えたから一緒に登校でもと思って」
「はっ、そうかよ。相変わらずだな、お前は。・・・・まあ、好きにしろよ」
「っ! ありがとう!」
影人にそう言われた光司は嬉しそうな顔になった。全く、自分と一緒に登校してこれだけ喜ぶ人間はこの男くらいだろう。やはり変わっている。影人はそう思った。
「・・・・帰城くん、改めて君に感謝と、そして謝罪を。ありがとう、ずっと僕たちを影から助けてくれて。ずっと1人で正体を隠しながら。そして、ごめん。僕は君を・・・・スプリガンをずっと疑っていた。ううん、違うな。僕は・・・・力がある君にずっと醜く嫉妬していたんだ」
影人と共に学校に向かって歩きながら、光司がそんな言葉を述べた。光司はスプリガンをずっと危険視、いや目の敵にしていた。戦いが終わり光司は、自分の本心にようやく気がついたのだ。
「・・・・どうでもいいぜそんな事は。俺はもうスプリガンじゃない。スプリガンとして戦ってたのも、まあ今となって思えば必然みたいなものだった。だから、気にするなよ」
光司の言葉を聞いた影人は、光司にそう言葉を返した。最初は仕事として嫌々スプリガンとして戦っていた影人だったが、過去に行きレイゼロールと出会った事を考えると、影人がスプリガンになったのは決まった運命だった。
「それでも、だよ。帰城くん、僕は――」
「はあー、ったく・・・・」
未だに難しい顔を浮かべる光司に、影人は左手で軽くデコピンした。
「い、痛っ! き、帰城くん・・・・?」
「ごちゃごちゃ悩み過ぎるな。俺が気にしないって言ってるんだ。だから、お前は分かったって言えばいいんだよ。お前はお前で頑張ってた。それでいいだろ」
急にデコピンをされた光司は立ち止まり、驚いた顔で影人を見てきた。そんな光司に、影人は少し呆れたような表情でそう言った。
「もう1度だけ言うぞ、分かったな?」
「う、うん。分かったよ・・・・」
「ならいい。この話はこれで終わりだ」
少し詰めるような影人の言い方に、光司は頷いた。光司が頷いたのを見た影人は、再び歩き始めた。
「・・・・・・・・帰城くん、やっぱり君は優しいね」
少しの間先を歩く影人の背中を見つめていた光司は、ボソリとそう言葉を漏らした。
「? 何か言ったか香乃宮?」
「いいや、何も。ただいい天気だと思っただけさ」
振り向いてそう聞いてきた影人に、光司はふっと笑ってそう言った。きっと、今の言葉を聞けば、少し捻くれている影人は嫌な顔を浮かべるはずだ。だから、光司は小さな嘘をついた。
「気のせいか・・・・まあ、いい。いつまでそこにいるつもりだお前。学校遅れるぞ」
「ああ、今行くよ」
影人にそう促された光司は笑顔を浮かべながら、再び影人の横に並び学校へと向かった。
――まるで、普通の友達かのように。




