第1007話 カケラ争奪戦 イタリア5(4)
「っ・・・・」
その風を受けたゼノの顔が少しだけ歪む。ゼノは闇人だ。全てを破壊しその身に喰らう闇の力を有していても、高過ぎる浄化の力を受ければ、その身に精神上のダメージのようなものを感じる。しかも、光臨したファレルナの光は光臨前よりも更に浄化の力が上がっており、ゼノの闇と言えども喰らう事は難しい。先ほどの光の帯と闇の帯の激突からも分かるように、今のファレルナの光とゼノの闇がぶつかり合えば、互いに対消滅し合う。それは、それ程までにファレルナの光臨の力が凄まじい事を示していた。
「この状態の俺に張り合うか・・・・・・君、本当に人間? 人間にしては、この浄化の力は特異過ぎるよ」
浄化の息吹を受けながら、ゼノはついそんな言葉を漏らした。ここまでの浄化の力を持つ光導姫は過去にいなかった。約2000年ほど闇人として戦い続けてきたゼノをしてそう言えるほどだ。
「ええ、私は人間です。いずれ死すべき存在です。ですがだからこそ、人は様々な想いを馳せるのです。あなたがそう感じるというのならば、それは私の想いがそれだけの強さである、という事でしょう」
ファレルナはコクリと1度頷くと、ゼノにそう言葉を返した。その言葉を聞いたゼノは、フッと笑みを浮かべた。
「そうだね。きっと君の言う事は間違っていない。それは紛れもなく人の強さだ。・・・・・でも、想いを馳せるのは人だけじゃない。闇人もだよ」
ゼノはそう言葉を放つと、強く地を蹴り急激にファレルナの方へと近づいた。
「っ!?」
「俺たちが馳せるのは基本的には暗い負の感情だ。それが闇の力の源になるからね。だから俺は、君に殺意を馳せるよ」
ファレルナの体から発せられる浄化の神気とでも言うべき光。その光の中を破壊の闇で喰い尽くしながらゼノはファレルナまで後2メートルといったところまで近づいた。互いの光と闇は接近に応じて無作為に衝突し合うが、それらは対消滅し合う。
「壊れろ」
殺意の闇を燃やし、ゼノは右の偽腕をファレルナへと突き出す。その琥珀色の瞳は瞳孔が開き、ゼノが負の感情を高めた事からか、ゼノに吸い込まれる闇の粒子も激しさを増した。それは即ち、無作為な破壊が更に加速したという事だ。既に周囲の物質とでも言うべきものはほとんど無くなっていた。
「っ!? 『聖女』!」
ファレルナとゼノの戦いに介入する事は難しいと判断していたエリアは、少し離れた所から戦いを観察していた。それがいま自分が出来る事だと考えたからだ。エリアは無駄だろうと半ば分かっていても、ゼノに向かって銃を乱射した。しかし、案の定と言うべきか。銃弾は全てゼノの纏う闇に喰われた。
ゼノの偽腕はファレルナに接近しても不安定にはなっていなかった。その偽腕はゼノの殺意と喰った闇を力とし、ファレルナに届かんとした。
「壊れません、私の意志は」
だが、ファレルナは確固とした口調でそう言うと、その翼を羽ばたかせ空へと舞った。
「っ・・・・」
ファレルナが宙へと舞った事で、ゼノの右手は空を切った。
「絶対なる光よ、闇を祓って」
ファレルナは地上にいるゼノを見下ろしながら両手を広げる。するとファレルナが纏っていた白い浄化の神気がより一層激しさを増した。そして、浄化の神気は白い光となってファレルナから広がるように球体状に発せられた。
それは闇を全て弾く絶対なる浄化の光。その光はファレルナを中心に広がり続ける。
「っ!?」
その光に流石のゼノも驚愕した。広がり続ける光に弾かれるように、ゼノは後方へと飛ばされた。
「ッ!? ちっ・・・・・・!」
「っ・・・・!」
その膨張する光に気がついた影人は、近接戦闘を演じていた壮司の肩を押し、後方へと離脱した。影人に肩を押された壮司は少しよろけ、膨張する光に呑まれた。
「おいレイゼロール! あの光は流石に喰らうのはマズ過ぎる! 後ろに飛べ! お前もだぞゼノ!」
「分かっている・・・・!」
「分かってるよ・・・・」
影人はレイゼロールとこちらまで弾かれていたゼノにそう叫んだ。影人の言葉を受けたレイゼロールとゼノは、後方へと距離を取った。
光は3者が20メートルほど後方に下がったくらいで膨張を止めた。そして、白い光はやがて消えた。だが、光による損害はない。白い光はあくまで闇を祓う光だ。ゆえに、守護者であるエリアや壮司には何の害もなかった。
「・・・・・・・・本当にどこまでも規格外な奴だな、『聖女』は」
白い光が収まり影人がそう呟く。あの光に呑み込まれていれば、闇の力を扱う影人はどこまで弱体化していたか。考えるだけでも恐ろしい。
「お前は大丈夫なのか? あの光に弾かれてたが」
「まあ何とかってところかな。俺の場合はこの闇があったからだけど。でも、精神的なダメージは普通に受けたよ。人間でいうと激痛を直に神経で浴びせられたみたいな感じかな」
「・・・・それでよく普通の顔してられるもんだぜ」
影人の質問にゼノはそう答えた。その答えを聞いた影人は、少し呆れたようにそう呟いた。
「・・・・・・・・光臨した『聖女』の力は初めて見たが、まさかこれ程とはな。神界の神どもに匹敵する光の力かもしれん。一種の特異点と見るべきか・・・・・・それはそうとして、お前たちに言う事がある」
レイゼロールもファレルナに対してそんな感想を抱く。そして、ゼノと影人に対してそう言った。
「何だ?」
「なに?」
影人とゼノがレイゼロールにそう言葉を返す。そして、レイゼロールはこう言った。
「カケラの場所が特定できた。まだ正確に5分経っていないが、我もカケラを7つ吸収して感知の力が上がったようだ。ゆえに、その場所に向かう。今の『聖女』とこれ以上戦う理由もない。お前たちも来い」
「それは分かったが・・・・・・・その場所っていうのはどこだ?」
影人がそう聞くとレイゼロールは自身の後方にチラリと視線を向け、ある建造物を見つめその建造物の名を呟いた。
「コロッセオだ。カケラの反応がある場所は、あそこだ」




