第1000話 カケラ争奪戦 イタリア4(1)
突如としてゼノの全身から吹き出した濃密な闇。ファレルナの光の手がその闇に触れた瞬間、全ての光の手は粉々に砕け散った。
「っ、これは・・・・・・・・・!」
その光景を見たファレルナは驚いたように声を漏らした。驚いているのはファレルナだけではない。エリアも、凄まじい闇の力を感じた影人も、何事だと不審がった壮司も、そして後方でカケラの気配を探っていたレイゼロールすらも、ゼノへとその意識を向けていた。
「・・・・・この力はまだ完全に扱えないんだ。だから、あまり使いたくはなかった。もしかしたら、レールを巻き込んじゃうかもしれないから」
戦場にいる全ての者たちの視線をその身に浴びながら、ゼノはそう呟いた。ゼノの全身から噴き出す闇は徐々にその量を、激しさを増していく。依然ファレルナの光は輝いているのにだ。
ゼノの付近の地面にピシリとヒビが入り始める。ヒビば徐々に細かくなり、一部は塵芥へと変わり風に流されていく。それはゼノの漏れ出した『破壊』の力の影響だった。
更にゼノに変化が訪れる。激しく出血していた失われた右腕の傷口は黒い靄のようなものが掛かり、出血は止まった。それはゼノの『破壊』の力の応用のようなものであった。出血しているという現象を『破壊』する。概念的なものにまで自身の力を及ばせる超高度な『破壊』の力の使い方。それは、ゼノがそれ程までに自身の力の解釈を広げているという、1つの証拠でもあった。
だが、それは些細な変化であった。ゼノに訪れた最も大きな変化は、ゼノの髪に現れた。ゼノの髪の色は金に近い金髪に、前髪の一部分が黒色といったようなものだ。しかし、その髪色が徐々に変わっていったのだ。
すなわち、黒髪へと。ゼノの右半分の髪色は、黒色に侵食されるように変化した。
「っ、ゼノ・・・・・・」
「レール。悪いけど、少し離れて。ここからの俺はきっと色々と加減が効かない。レールを巻き込みたくはないから」
変化したゼノの姿を見たレイゼロールがゼノの名を呟く。そんなレイゼロールにゼノは振り返り、ぼんやりと笑いながらそう言った。
「・・・・・・色々と驚かされたが、貴様が瀕死な事に変わりはないぞ闇人。片腕を失い、弱りに弱っている貴様がここから逆転するのはほとんど不可能だ」
言葉を発したのはエリアだった。エリアはゼノに油断なく銃を向けながら、ゼノの状態をゼノ自身に再認識させた。
「それを決めるのはお前じゃない。俺の限界を決めるのは俺なんだよ」
エリアの言葉にゼノはただそう言葉を返す。そして、その視線を自身の失われた右腕に向けた。
「でもまあ、確かに腕がないのは不便だね。なら、代わりを拵えようか」
ゼノは自身の右腕があった空間に意識を集中させた。すると、ゼノから噴き出していた闇がその空間に集まり始めた。集まった闇は徐々に形を変えていく。そして、闇は右腕の形へと変化した。右腕を失う前のゼノの右腕は、高密度の『破壊』の力を纏っていた事によって黒腕と化していた。ゆえに、闇で固められた黒色の偽物の右腕は、輪郭が少しぼやけているだけで、視覚的な違和感のようなものはほとんど感じられなかった。更に言うならば、この腕はゼノから噴き出した『破壊』の闇であるので、効力も失う前の黒腕と何ら変わるものではなかった。




