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マインドウォーカー  作者: ラーメン
襲撃編
9/35

七話・希望を注ぐ者

冬の日──12月25日。




T市MW(マインドウォーカー)支部の洋館では謎の組織、教会幹部【ゼノン】と加賀ら、

中庭では同じく教会幹部【ホーライ】と戦闘隊長の城戸志連が戦闘が始まっていた──。




◆◇◆


「…頭…いってぇ…あれ?シノン?みんな?」


薄暗い閑静とした空間で金髪の男、『金崎』がそう言った。

声は辺りに響き渡り、自分の声が跳ね返って聞こえてくる。


ほかに音も、動くものもない。

ただ暗闇とも言い難い薄暗い空間が永遠に広がる世界──。


(…ここ…どこだ?ん?アレは…?)


少し遠くに見えたのは金崎の家と住宅街だった。

奥に廃れたようなビルも見えている。


「え…?な、なんで…。そんなわけねエじゃん俺!だって俺の家は────」


◆◇◆


「…ぜぇぜぇ、テメェはここで終わりだぁ、ゼノンッ!」


加賀がそう言うと3人の冷泉の【ロスト排除装置】から光弾が放たれる。


そしてその3つの光の弾は一直線に音もなく高速でゼノンは射抜かれる────はずだった。


「甘いぞ、ヒトよ。【影蛇・暴】。」


ゼノンの足元から黒色の蛇のような影が現れ、素早く光弾をはじく様にうねる。


そしてその光弾は円を描くように大きく逸れ、加賀に対して収束していく。


「加賀さんッ!避けろッ!」


竜崎が叫ぶ。だが、体の底から出たその声は届かなかった。





─────そしてそれは加賀の体を貫く。


血を口から吐き出し、真後ろに倒れていくその姿は一瞬のうちで、なにより儚い。

こんなにも呆気なく、人は崩れていく、そんなことを僕は頭によぎっていた。

他にもこんな記憶があったかのように───。


「うがッ…弾が…ッ?」

「…か、加賀さん…嘘だろ…?」


竜崎は目を大きく開き、手が震えている

その竜崎の姿から黒い靄のような物が僕は見えたような気がした。


「絶望は、ヒトの終焉だろ…?竜崎よ。」


笑いを込めたゼノンの言葉に間違いは無い。

そんなことは竜崎は分かっていた。

──『終焉』が自分の中で始まっていることも。


(…フ…ュ…ウ)


「…え?」


声が影山の頭に響いてくる。

これはコンビニのあの時と同じだ…。


「あ、あぁ…お前ら…許さねぇ…。」


竜崎は右手に思いきり力を籠め、小さく呟く。

「【心剣・庸】…。」


真っすぐな光の刃を右手からむき出し、臨戦態勢に入る竜崎。


「ハハハハハッ…周りが見えなくなった幼気な青年だな…ハハハッ…。」


───影と化せ。


僕は小声で吐いたその言葉を聞き逃さなかった。

影と化せ…?何処かで聞いたことがある言葉だ。


(…フク…シュウ…)


さっきの声が大きく聞こえる。

なんだか竜崎の方から声がする、まさか…ッ!


──ロスト化ッ!!


気が付くと僕は竜崎の腕を掴んでいた。



「…手を放せ、俺にはやらなきゃいけないことがある…こいつを──」

「ダメだよ、なんでかわかんないけど、これ以上はダメだ。」


記憶も感覚も何も消えている、だけど、

僕のすべてが危険信号を放っている、それだけは分かった。


「……お前は覚えてないから何度でも言えるだろうな。」

「…それなら思い出せばいい、僕が失ったものをもう一度取り戻せばいい。」


竜崎は顔を伏せ、小さな声で言った。


「はっ…前は記憶を失っても真っすぐか。」


竜崎は笑うようにそう言うと、体から発せられるだんだんと黒い靄は見えなくなっていく。


「ちッ…無駄か。邪魔しよって。」


「……ここで本当に終わりだ、ゼノン。冷泉さん、援護お願いします。」


冷泉は静かに頷き、放出型を手にしてゼノンに照準を向ける。


「ハハハ…ッ。我もここで終いか…。だが今日は収穫があった。」


ゼノンは黒い手袋をした人差し指を前に出す。


「一つ目、ロスト作成…。本来二体作る予定だったが、なんと七体も出来た…。」

「なに?七人…?」

「あぁ、MWの兵士と君たちと同じ【管理者】のロストだ。まさか光の管理者からこちら側のロストを作成出来るとは…なんとも興味深い…ハハハッ…。」


竜崎はゼノンを睨み、敵意をむき出しにする。


「…その人たちは今何処だ…。」

「助けには行けないさ、我の【影の世界】にいるからね…ハハハッ。」


『奏くん…またね…ッ。』


僕の頭の中であの子の声が小さく響く。

溶けてしまいそうな、寂しくて消えそうな声。


だけどその声は脳裏にこびり付いたままで全容は全く思い出せない。

思い出せないそのもどかしさが、体に巡りに巡っていく───。


「【影の世界】…?」

「…ゼノンには影蛇の派生能力で空想の世界を()()()に作り出すことが出来るんだ。()()()もあの手を使われた…。だからあいつはここで討たなきゃいけない。」


竜崎の体から再び、黒い靄のようなものが見えた。

それはなにか憎しみのオーラを纏い(まとい)、強い力を感じる。


そしてゼノンは人差し指に続けて中指を立て、二つ目と分かるように示す。


「そして二つ目、『アンチロスト』の無力化…。まだ息を止めることは出来なかったが、必ず終わらせてやる…ハハハッ。」


加賀は腹を押さえ、仰向けになりながらゼノンを睨んでいる。


「あと…一つ…。我の死に際に最後に言わせてくれ。」


ゼノンは闘いを静観していた博士の方に向く。


「貴様の部下は、あの時よりも弱くなっているなぁ、手を抜いているのか?それとも…。」


「──特殊局の奴らを、失ったからか…?」

「……。」


『…前を向け。答えは必ず先にある。』

────ある5人の姿が目に入った気がした。

微かにある記憶が確かなら、特殊局とよばれる精鋭集団の姿だ…。


「それともロレーヌ夫人が死んだから、か?…ハハハハハッ…!」


ロレーヌ夫人、この人についても記憶があった。

博士の亡き妻であり、自分を理解してくれた内の一人だった。今は────思い出したくもない。


だんだんと記憶は戻ってくるが、自分についての記憶は曖昧で、考えれば考えるほど悩ましくなる。



「は、博士ッ!こいつの言っていることに耳を向けてはいけません!」

「…竜崎クン、私のことはいい──。」


「覚えているか…?レイノルズ。君の妻の名前だァ。まぁ、今じゃ傀儡(ロスト)となって地を彷徨う者に成り果てているのだがな、ハハハッ…。」


博士は手に力を入れ、感情を隠すようなそぶりでゼノンに問う。


「…残念だが此処で君は終わりだ。」

「……あぁ、死は怖いなァ…。」


───嘘だが、な。


ゼノンが手袋を付けている両手を広げると、自身の身体を蛇がまとわりつき始める。


「ホーライ、我は先に帰るぞ。これからの地獄を静観することにする…ハハハッ!」


ゼノンは自身の影に吸い込まれるように地面に溶けていく。

ただ、その姿をみるやいなや僕の体は動いていた───。


意識的にじゃない、体が勝手に。


僕は溶け出しているゼノンの影に斬撃型で突き刺していた。


「ぐッ…!こいつ…記憶が戻ったのか?」

「も、戻ってはないッ…ここにいる人達を亡くしたくないって思っただけだッ。ただ僕は…普通にしていたいだけなんだッ!」


そう、僕は元の生活に戻って、幸せに…

だれも傷つかない平和な世界に。

小説を書いて、また普通の…。


…あれ…?()の普通って…。



───すると僕の頭の中が真っ白に染みわたっていく。


◆◇◆


「いつまで君は蛇なんかで芸をしてるんだね、しかもその変なお面…そんな危なくてよくわかんない大道芸人はうちの劇場にはいらないよ。」


「ま、待ってくださいッ!私はまだ頑張れます!私にはこれしかないんです…ッ。お願いですから見限らないでくださいッ!この通りですから…。」


ひとりの男が冷めた目で、土下座をしている男を呆れてみている。


「…いい大人が地面に頭をつかないでくれよみっともない…。あと、君はいつもそうやって『君は頑張ります』と言って結果を出さないじゃないか。この嘘つきめ。」


◆◇◆


…これは、こいつの記憶…?

やっぱりそうだ…僕は人に触れると何かしらの記憶が脳内に入ってくる…。


「お前にはそんな記憶が…」


影山の手が止まる。

同情の念が推し押せたその時、ゼノンは言い放つ。


「ハハハッ…我に同情するなど笑止千万…ッ!」

「ぐッッ!!」


僕は多数の蛇によって打ち上げられ、浮遊していた。


「…気が変わった。影山…お前を叩きのめす事にな。」


ゼノンの多数の蛇が重なり合い大蛇の様相になり、大きく口を開ける。


「我を侮辱した罰だ…大人しく我の糧となれ。」


大蛇が口を大きく開け、その口で影山を飲み込まんとする。

大蛇の眼光は白く輝き、確実に殺そうとする意志を感じた。


「ッ!私が行こう…」

「博士、ダメですよ。」


博士が立ち上がるものの、犬山に止められる。


「これは私と教会が引き起こした争いだ。私が何とかしなくては。」

「博士、あなたの力はもう…()()()と同じようには…。」

「なら仲間を置いて行けというのかッ!」

「……。」


<加賀は、眉間に皺を寄せ、腹を押さえながら呼吸を整えている。>


<冷泉は放出型を構えたまま、撃つか戸惑っている。>


<竜崎は動こうとするが足がすくみ、終焉を感じている。>



「誰かが…【絶望】を感じている。そんな時に【希望】を注ぎ込むのが我々『マインドウォーカー』じゃないのか?」



博士がそういうと右手を前に突き出し、光を放出させてゼノンに言う。


「──私が相手だ。」


◆◇◆


【同時刻、中庭】


「…速さ勝負、と言いましたが…ゼノンさんがロストを作成できたので、私がここにいる理由もありませんね。」


中庭にいるホーライが城戸に対しそう言った。


「…足を掴んだまま、逃げるのか?よく言うねぇ…。ただこの城戸志連を…なめてねぇか?」

「…えぇ…一年前の()()()に殲滅させた特殊局の生き残り、、いや、」


ホーライは口角を無理やり上げ、笑ったように見せた。


「無力に散っていた無能集団の元下っ端でしたね。失礼しました…。ふふッ…。」




『城戸、あとは…お前に…託す…。』



城戸の頭には、ある男の姿形と声がこびりついて離れないのだ。一生の後悔を残した()()()の姿が───。




「俺をおいて消えた人を…希望を注いでくれた人を」




「…バカにされて動かないわけねぇだろッ!【速脚・暴】ッ!」


いつも通り、脚に力を込める城戸。

ただ、脚が凝り固まったように全く動かない。


「…ご自慢の脚は動きそうにありませんねェ…。」

「…は?」

「ふふふ…。」


(こいつまさか、俺の速脚を…?)


「残念です…一方的な暴力はつまらないのですが、一時的に貰っておきました…。あなたの能力を、ね。」


「…やっぱりか…。」

「…【炎斬・暴】」


ホーライは足を掴んでいるもう片方の手を足に近づけ、手から炎を轟々と焚けらせる。




「このままだと足が使えなくなりますねぇ…。」

「……。」

「どうしました?急に怖気づきましたか?ふふふッ。」


城戸は俯いたまま、口を開く。


「つえー敵と戦うんなら、」

「ん?」

()()()ーに戦うのはスジじゃねぇよな…?」

「…はい?」


「【高出力ブースター】ァァァ!」


そういうと城戸の掴まれている足から【ブースター】と呼ばれた機械が出、

その機械の放出部分をホーライに向けて高出力のレーザーの様なものを放出していく。


レーザはホーライの腹を貫き、中庭の壁をも貫く。

正に《高出力》である。


その反動でホーライは足から手を放し、吹っ飛ぶように後方へ放り出されるものの、ゆっくりと立ち上がる。



「…ヴッ…。今何を…。」

「…残念ながら俺の足はくるぶしから下は機械なんだよ。俺を殺す()()を逃したな。へへっ。」


「ちっ…そこまで読めませんでしたか。」

「──さてこっから俺のぶち上げタイムだ…ッ!」


城戸は顔を上げ、戦闘態勢に入った。























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