第97話、【風(ヴァーレスト)】属性は音や歌の象徴であるからこそ
SIDE:ローサ
特に迷うことなく、かつお互いがすぐ合流できるようにと。
中間地点、町の中心とも言える場所にある噴水広場……普段から大道芸人さんなどもいて、町で暮らす人の憩いの場であることは確かなのでしょうが。
ちょうど、噴水のところに結構な人だかりがあるのが分かります。
もしやラルさまが早くもそこにいて、仮面やマントをしていても隠しきれない、人を導く魅力にやられてしまって。
町の人々が殺到する勢いなのでしょうかと思いきや、どうも様子が違うようで。
皆さんが一様に上がる噴水の更に上、空を見上げているのが分かります。
「……オヤ? 緋色のハトですかね。珍しイ」
「珍しいっていうか、あれ、火の鳥……【火】の魔力まとってない?」
「むっ、あの魔力は。間違えようもない。火の神……リムどのと同じものではないか。そうなると」
「あぁ、間違いなくラルさまの使い魔さんの一人ですわね。リムさんだけではないと思っていましたが、もしかしなくともわたくしたちを探しているのではなくて?」
ある程度の時間が経ったら、ここへ集まることを取り決めていたので、きっと何かがあったのでしょう。
わたくしは、【風】の魔力で花びらを包み、信号弾のごとくそれを飛ばします。
「ぴぃっ!」
すぐさまそれに気づいた火の鳥さん(アイアさんと言うそうです)は。
一声鳴いて、ようやっと見つけたとばかりに回転しながら急降下してきます。
「ぴぃっ! ……『ごめん、みんなっ! 地下にあるダンジョンから要救難な声があったから、私たちはダンジョンへ向かうから、よろしく頼むね!』
「なぁっ!?」
「おや、この声は……」
「久方ぶりに認証シマシタ。適合率、99パーセント」
「こうやって聞くといい声……っていうか、不思議だねぇ。そんなに嫌いじゃないよ」
「リムさんの時もそうでしたけど、ラルさまってば本当に好きなのねぇ」
敢えて何が、とは言わず。
パタパタとわたくしの周りを旋回しつつ、そんないきなりのセクシーボイスを発するアイアさんと、わたくしを交互に見て、によによするみなさん。
どうしてわざわざわたくしではなく、兄さまの声なのですか!?
なんて、穴があったら入りたくなる一方で、ラルさまが好んで敢えてそれを使っていると考えてしまうと。
嬉しいというか、恐れ多いというか、まんざらでもないけれど、とにかく恥ずかしくてたまらなくて。
それ以上、新たな言葉が生まれる前にと、抱え捕まえる流れで、こっそりくちばしを手のひらで挟んでしまいます。
「ぴっ」
「ダンジョン、ですね。ちょうど良かったです。それじゃあ以来がてらわたくしたちも向かいましょう!」
「くすっ。そんなわざと高い声出したって、同じ声は同じよ。そもそも私たちはサーロさんの声を知っているのだし、あまり意味がないと思うのだけど」
「……っ!」
分かっています。
分かっているんですのよぉ!
だけど、それをリーヴァさんに指摘されたことが、余計に恥ずかしくて。
文字通り言葉通り穴に入らなければと。
わたくしは、脱兎のごとくな勢いでダンジョンの入口へと向かって駆け出していって……。
そんなわけでして、やってきました。
フーデの街の地下ダンジョン。
依頼を受けた証明書を、入口に立つ門番さんに提示し、アイアさんが、それ以上セクシーボイス攻撃をしてこないのを確認しつつ肩の上に乗せて。
それなりに長い下へと続く階段を降り切ったところで、ようやっと一息つくことができました。
「……ここがフーデの地下ダンジョンですか。そう言えば、来るのは初めてですわね」
「オォ。ここはトウゲンキョウなのですか? 油と機械のニオイと、地下ラボのようなロケーション!」
「うむ。このツンとくる匂い、パパの仕事部屋のようじゃのぅ」
「ダンジョンって、自然物っていうか、洞窟などのイメージがありますけど、ここは全然雰囲気が違うんですねぇ」
「フーデの地下ダンジョン、元々を辿ればこのダンジョンの上に街が被さるように造られたというのが正しいんでしょうか。街ができたばかりの頃は、このような【金】属性に溢れるダンジョンではなかったそうですよ。この街は、【月】の……獣人族の方が多く暮らしていますからね。共生はできても、必要以上に奪われないようにと、ダンジョンも日々進化しているのでしょう」
かなりのスピードで降りてきたのに、さすが運命に導かれし乙女たち。
当たり前のように追随して(依頼を一緒に受けているのですから、当然ではあるのですが)、わたくしが言いたかったことを、軒並み雑談の体で語ってくださいます。
「ぴぃっ!」
「あら、ラルさまのところまで案内してくださるのですか、助かります」
これで、イケボなおしゃべりがなければ最高でしたのに。
などと思いつつも、ヤブヘビになってしまったまたおしゃべりが始まっても困りますので、大人しく後についていきます。
「ラルさま、ここへ誰かを助けに来たって言ってましたけど」
「けっこう降りてきたと思うが、さすががラルさまといったところか。助けを求める声を聞き逃さないのだな」
「私たちと同じような旅の方ですかね。街の人はわざわざ降りては来ないでしょうし」
「どうかな。案外うちの妹のような、ダンジョンに興味津々な子供な可能性もあるな」
「フフ。それホドでもありますヨ」
「ふたりがそれで納得しているのならいいけどぅ」
どうみても、そう言うやんちゃでお転婆なことをしそうなレミラさんに、小さな子供……妹扱いされることは。
リーヴァさんにも負けないくらい大人な女性であるノアレさんにとってみればむしろ嬉しいことのようで。
姉妹になったばかりであるのに、二人の仲は存在悪くないみたいで。
レミラさんが大好きなセラノさんにとってみれば、レミラお姉ちゃんが好きなのは私の方が先よ、なんて思っていたかもしれませんが。
よくよく考えてみれば、姉妹であるのだからまとめで愛でればいいだけじゃないの、などとも思っているかもしれません。
「仲が睦まじいのはよろしいですが、アイアさんが行ってしまいますわ。急ぎましょう」
まぁ、ラルさまのことだから、何が起ころうとも問題ないのでしょうが。
それはそれ、私たちの気持ちの問題なのです。
くふふと笑みこぼすセラノさんを引っ張るようにして、リーヴァさんと頷き合いつつ。
既に少しばかり先行してしまっていたアイアさんを追いかけます。
「ぴぃっ!?」
しかし、アイアさんが待ちきれずに先行していたのは。
ほんの僅かな間でした。
「早速お出ましのようね」
「ムムっ、これは明らかにドウホウの匂いですネ」
アイアさんが羽をばたつかせつつわたくしの頭上へと舞い戻る間にも、次々と【金】属性のモンスター、『からくり機械兵】などと呼ばれる、人くらいの大きさのブリキ人形に武器防具を持たせた(結構バリエーションがある)モンスターや、落花生のようなフォルムでありながら、いかにも機械めいたモノアイ持ちし『キヴル・ゲイズ】と呼ばれるもの。
未確認飛行物体そのものな、『ユードロー】など、スタンピードやモンスターハウスとまではいかないものの、かなりの数が迫って来るのが分かります。
「なんだ、ちっともノアに似てないじゃないか。ギラギラしてうるさいだけだぞ」
「ソウですか? 確かに、何だか皆さんテンション上がってマスね」
「確かにちょっといつもと様子が……ノアレさんの言うことも言い得て妙かもしれません」
「ううん、好みの子はいなそうねぇ。きっと血も出ないでしょうし~」
それぞれが、そんなやりとりをしつつも。
迎え撃たんと自然と前衛後衛に分かれて戦闘態勢に入る。
その流れるような動きに、頼もしさを覚えつつ。
わたくしも、前衛、後衛の間に入って。
ショートソードとワンドを取り出し、でこぼこ仲良し姉妹の後に続くのでした……。
SIDEOUT
(第98話につづく)




