第89話、祭りのあと、気づけば大分大所帯になって
SIDE:ラル
「ごめんなさい。舞台の邪魔をしてしまって」
「邪魔だなんてそんな。とんでもないですわぁ。特別なゲストとして正真正銘、本物の救世主様と共に演じられたのです。今日と言う日に相応しい、一生の思い出になりますわ」
何とか無事に舞台の公演が終わったのを見届けると、ラルはすかさず焦って先走ってしまったことに対して平謝りする。
それに対し、ブラシュ劇団座長の女性(なんと、アイのお姉さんのひとりで、王族でありながらこの劇団のトップをつとめていたらしい)は、全くもって気にしていないどころか、一生の思い出になると大分ご満悦で。
舞台に上がってやらかした時点で薄々感じ取っていたが。
彼女は変身中のラルが、ラルであることを見破っているらしい。
王城の魔王を召喚するために生贄として集められた中に彼女……トイはいたようで。
姿形でなく、属性すら変わっても間違えようのない、とのことだったが。
「ご安心くださいませ。ラルさまが持て囃され、崇められることが苦手であると聞き及んでおりますの。
今日は特別な日として、たとえ貴女様に気づいたとしても、見て見ぬふりをせよ、と母……王からのお達しですので、是非に今日と言う夜を、どうかそのままでお楽しみ下さいませ」
本当なら、この『ブラシュ劇団』のトップスターとして招聘したい所ですけれど、などと。
悪戯っぽく冗談を交え、そんな……いつの間にやらの裏側についても教えてもらう始末。
夜になったら我慢できなくなって、飛び出していってしまうラルのことをよくよく分かっていて街の皆に伝えたのは、果たしてリルか、あるいはローサか。
何から何まですみませんと、やっぱり恐縮していると。
そのタイミングで演者の二人、【氷】の属性纏いし彼女と、
【雷】の魔に愛されているらしい彼女がラルのもとへとやってくる。
「とはいえ、お一人で、と言うのもこちらの方としましては心配ではありまして。よろしければこの後、この二人をお供につけさせてはもらえませんか?」
「ルキア・レッキーノです。救世主さまはその肩書き通り多くの物語を抱いていらっしゃるようで。是非にでもこの僕にお聞かせ願いたいところですね」
「あ、えっと。ウルル・ガイゼルです。……一緒にまわっても、いいです、か?」
「あ、むしろいいんですか? さっきあっちで美味しいアイス、見つけたんです。せっかくですし、いっしょに食べましょう」
夜になったら飛び出して行ってしまうことが、国中に広まっているのならば。
王城にて就寝しているはずの仲間たちもやってくるのかもしれないが。
一人で夜店や出し物を見て回るより、みんなで回った方が楽しいだろう。
ラルは、一にも二にも頷いて。
ルキアとウルル、どこか対照的な二人と連れ立って、再び夜店エリアの方へ向かうことにするのだった。
当然その時はまだ、リーヴァの言うところの十二の乙女、示し合わせたかのように属性も被ってはおらず。
二人にその資格があることなど、知らないままで。
※ ※ ※
案の定その後、一旦は『ブラシュ』での最後の夜と言うことで。
なんやかやそれぞれが理由をつけて仲間たち全員集合と相まって。
みんなにちやほや、もてはやされるのはいつだって苦手だけど、こういうのも悪くないなぁと。
ラルはしみじみ思って。
そんなこんなで、次の日。
ある程度、勝手ながらラルが予想していた、お見送り……国を挙げての盛大なものはなく。
いつでも帰ってきてください、故にさよならはいいません、とばかりに。
水の都、その入口では劇団のみなさん、女王様がお見送りをしてくれたのみで。
そんな彼女らも、改めてラルと共に行く事を選んだ娘であるアイのお見送りと、何だかんだで国との繋がりを持たせたかったからなのか。
はたまた女王の娘にして水の都『ブラシュ』の巫女でもあるアイのお付き、お世話、あるいは護衛か。
どうやら、水の都の劇団は、有事の際は近衛の役回りも負っているらしいとのことで。
ルキアとウルルも、同じ場所にはずっと留まってはいられないラルのための、世界行脚、冒険の旅についてくることになっていて。
劇団員兼、近衛の皆さんは、そんな二人の門出を祝う意味合いもあったのだろう。
みんなでリルの姿焼き、ではなく、アイスキャンディー(氷と砂糖でつくられた水の根源の化身である? リルを模したもの)を、大層気に入ったらしいルキアが、僕も行動を共にさせて欲しいと強く願ったとのことで。
何とはなしに予想していた、国を挙げてのお見送りが無かったのはいいのか悪いのか。
遠目には、こちらを気にはしているものの、普段の生活と変わらない様子の街の人々が見える。
行きも帰りも大仰な歓待、だなんて。
自分勝手に思い込んでいたことを、ラルは内心で恥ずかしく思いつつも。
それを隠すように最早お馴染みな仮面をつけて。
とりあえずのところは、結構長く滞在していた気がしなくもない、『ブラシュ』の国を。
既に十人もの大所帯となった仲間たち(ラルの中では恐れ多くも友達だと思っている)とともに、後にするのであった。
本当の所は、救世主たるラルは『ブラシュ』にとってとっくの間に『ブラシュ』の国の名誉国民扱いで。
アイたちが共にいることで、いつでも帰ってきてくれると、国民皆に思われているなどとは、夢にも思わないだろう。
恥ずかしがり屋の救世主さまが、遠慮や敬遠をしないでいられるように、普段通り努めよ、などと。
やっぱり女王様からお触れが出回っていることも気づけるはずもなく。
「それじゃあ、一旦学園に戻る感じかな。どうする? 魔法で移動する? ラルさまがそれまでの道中も冒険だって言うのなら、またこのまま山登りになるけれども」
そんな、知らぬはラルばかりな状況で、先頭切って歩き出したラルに追いついて駆け寄ってきたのはローサであった。
もはやすっかり戻る気配のない、『風』の魔精霊のごとき自由奔放な彼女は、ラルの意を汲んでそんな事を言ってくる。
十人を一人で運ぶのは正直しんどいんですけど、なんて本音も見え隠れしていたが。
その実、冒険の醍醐味である移動は、徒歩か馬車でしたいラルのことを、よくよく理解していると言えよう。
でも確かに『ブラシュ』を飛び出す大前提として、闇の一族の残党がいないか確認する意味合いもあるからして、のんびり冒険している場合ではないのは確かで。
せっかくだからみんなで空飛ぶ羽なんそつけたりして、ひとっ飛び山越えでもすべきだろうかと考えていると。
そんなやりとりをしていた二人に追いつく形で、リーヴァが声をかけてくる。
「移動方法ですか? 私にはローサさんほどの腕前はありませんが、これでも一応時魔法使いのはしくれなのです。一度行ったことのある場所なら、向かうことは可能です。と言うより、こんなこともあろうかと、先生にお願いして、虹泉の方、設置しておきましたので」
「ふむ。何やら母さまとはかりごとを、なんて思っていたが、用意周到なことよの」
「ニジのトビラですか。ワタシにしてみれば同種の匂いのするアレですね」
それに、レミラやノアレも続いたから。
かわいい翼をみんなが付けての眼福な空の冒険は立ち消えになってしまって。
そのことを少し残念に思いつつも。
またそんな機会もあるだろうと内心で自分を納得させていて。
「虹の泉か。それもまた一興。その七色の向こうには可能性が大いに広がっている。早速向かおうじゃないか」
「……っ」
普段のラルを知っているローサにとってみれば。
そんなしゃちほこばった不可思議な水先案内人のようなラルは、奇異に映ったことだろう。
この世界に来て、何とはなしにアイと対面して、つくってしまったキャラだから、今更変えられないと。
心内でそんな言い訳をしつつ。
ラルはそんなローサの視線から逃げるようにして。
やはり一番乗りで虹の泉、リーヴァが用意してくれたそれに躊躇なく飛び込んでいくのだった……。
SIDEOUT
(第90話につづく)




