第90話、男勝りも三人寄ればかしましい
SIDE;ローサ(inサーロ)
稀代の救世主、ラルさまの元に集いし12……いえ、11の各々の属性、根源に愛されし乙女のひとり、『風』担当のローサでございます。
ほんとうのところは、世界を形作っていると言われる12の根源の元と言いたいところですが。
その一つである『火』の根源に愛されているどころか、もはや火の女神そのものが降臨なされたのではと、疑う余地もないのが、ラルさまであるからして11の、としたわけですが。
身も蓋もないことを言ってしまいますと、その11人(現在は9名ほどですが)の集まりにたいそうな意味はございません。
11人のいずれ集いし乙女の一人、『時』に愛されしリーヴァ様によると。
この世界に危機が迫っていて、その危機から世界を救い上げるためにラルさまの元へ集うのだ、とのことですが。
世界ひとつ救い上げるのに、本来ならばラルさま一人で十分なのです。
何せ、星の数ほどある世界を渡り歩く救世ちゅ……じゃなかった、救世主さまですからね。
リーヴァさまのおっしゃることですから、この世界に危機が迫っている事自体は確かなのかもしれませんが。
きっとラルさまのことですから、崇高なるご趣味であらせられる冒険の片手間で、またこの世界を救ってしまうことでしょう。
そうであるからして、私たちがこのようにラルさまの元に集いくっつく……従い行動を共にしているのは。
ただ単にそうしたいからにすぎないのです。
可愛くて美しくて格好良くて、強くて恥ずかしがり屋だけどお茶目なところもあって。
どうしようもないくらいお人好しの割に、お金やその匂いのするものに目がなかったり。
見た目よろしく体力があんまりない割に魔法お化けだったり。
彼女ほど少女らしい方はいらっしゃらないと言うのに、頑なに男だって言い張ったり。
とにかく目を離せない、油断するとくっつき抱きつきたくなってしまうこと受け合いの素敵な女の子なのです。
ひと目あったその瞬間、許されるのならばお側に置いて欲しいと願ってしまうのは当然の事と言えるでしょう。
「ふむふむ。ローサ嬢は救世主さまと同郷で、一番の……旧知の仲だとか。男性のような振る舞いをするのは、そんな故郷での風習か何かだったりするのかな。その辺りのこと、後学のために是非とも聞かせてもらいたいのだけど」
……っ。
そ、そんな私たちは現在、魔法学園都市『ヴァレンティア』にいます。
あれだけ完膚なきまでに救世されたのですから、水の都『ブラシュ』を牛耳らんとし、魔王的存在を復活、呼び出そうとしていた闇の一族の方たちも反抗し、悪として立ち上がる気概はなさそうに思われますが。
そんな闇の一族(11人の乙女の中に『闇』の根源に愛されし乙女、レミラちゃんがいますが、彼女曰く得意な属性が同じだけで似て非なるもの……魔物と魔精霊くらいは違う、とのことで。
それって同じようなものなのではと、ツッコミを入れるのは野暮なのでしょうが。
そんな彼らは『ボークジュ』と呼ばれる国にて暮らしているらしく。
念のため様子を見に行こう……ラルさま的には楽しそうだから冒険しに行こう、と言う事になりまして。
『ボークジュ』の国へ向かうためには、一旦学園都市『ヴァレンティア』に戻り、海路を使って【月】に愛されし(実は初公開情報)金髪ポニーテールの、元気が有り余ってドジっちゃう系女子のイゼリちゃんの故郷である、
『フーデ』を経由して向かうわけですが。
「ふふ。何か考え事かい? 男役の後輩に対して、つれないじゃぁないか」
「ひょぅぇぃっ!? ちょっ、何さわってん! 女の子がはしたないっ。そんな、みだりにくっつかないの!」
「ふふっ。流石は先輩。こんな僕でもオンナノコ扱いなんだね」
油断していた……ワケじゃないとは思うんだけど。
現状必要とされていないとはいえ、男としてのリビドーを失ってなどいない俺の行動は、迂闊と言えば迂闊だったのだろう。
『ブラシュ』で俺の正体を晒すことになれば大変大事だと気を張っていたのが、もうここまで来れば大丈夫かなと。
ラルさまやアイちゃんに対して、つい素の自分が出てしまって。
それに目ざとく気づき、鋭いツッコミを入れつつ突っついてきたのは。
【氷】に愛されし、ラルさまと愉快な仲間達の中では新人な少女、ルキアであった。
見た目はどこから見ても【風】な妖精のごとくであるのに、隠しきれない男臭さが。
どうも、男装しがちの彼女の琴線に触れてしまったらしく、こうして暇さえあれば結構激しいスキンシップをしてくるようになったのだ。
舞台女優(男役がほとんど)をやっていたからなのか、大胆で自信満々でとにかく距離が近い。
今なんて、幼馴染みな男友達な距離感で背を向けていたのをいいことに、後ろから抱きつくような勢いである。
いやいや、男同士だって中々にありえない近さですよ。
これは、ルキアさんもおっしゃってましたが、ラルさまも前述した通り、男の子ぶりたい時期があったわけですが。
今も多少引きずってはいますが、こんなにも近い距離で触れあったことなど一度たりともございません。
心なしか、そんな俺たちを気にして見ているような気がしなくもないラルさまが気になってしまって。
こんな、みんなの目があるところでやめなされ、とばかりに【風】の力も借りてぬるりと抜け出すと。
その面妖さにきょとんとしているルキアさんの方へと改めて向き直る。
「考え事っていうか、自分の本来あるべき立ち位置について、諦めの境地にいたっていただけさ。ってか、これフリじゃねぇから。ラルさまと違って化けてるだけで、俺男だから。くっつくならラルさま……はダメだ。俺に刺激が強すぎる。ウルルちゃんにしておきなさい」
「おっ、今のはいいね。故あって男として生きる侍従のようだ。……うむ、そう言う事なら控えよう。大丈夫ウルルとは常日頃スキンシップをかかしていないから」
いやいや、役とか設定とかじゃねぇからっって、ツッコもうとしたけれど。
そう言うルキアさんは俺から少しばかり間を空けて、言ったそばからウルルちゃんの方を気にしているようだった。
……まぁ、それならそれでいいんだけどさ。
ラルさまからも本来の俺は求められていないようですし。
なんて結構へこみつつルキアさんの視線を追います。
そこには、ウルルちゃんとアイちゃんがいました。
案の定、じっとしていられなくて夜のお散歩に、『ブラシュ』での最終にすら飛び出していたラルさま曰く。
ウルルちゃんは、ルキアさんとともに『ブラシュ』お抱えの劇団員兼、近衛騎士団の一員であったらしい。
闇の一族が暗躍し牛耳らんとしていた時は。
その見た目からアイちゃんの影武者のようなことをしていて。
そのタイミングで任務で外に出ていたらしいルキアさんとは違い、正しくも影武者としてアイちゃんの代わりに囚われ、魔王召喚の生贄、その一人となっていたようだ。
それを救い上げたのが我らが救世ちゅラルさまであるからして。
彼女がラルさまの冒険についてくる理由としては十分ではあるのだが。
まるでよく似た姉のごとく甲斐甲斐しくアイちゃんのお世話をしているウルルさんは。
実のところ『ブラシュ』の王族に連なる者ではあるが、アイちゃんと血は繋がってはいないらしい。
それどころか、ラルさまに言わせればその身に棲まう……形作る属性は『ブラシュ』の王族の人たちとは相反しているとのことで。
そんなウルルちゃんが愛されし属性は、【雷】。
しかも、世にも珍しい青い雷を扱うようで。
ウルルちゃんの一族は、なんとこの魔法学園から闇の一族が棲まう国『ボークジュ』へ向かう先にあるらしい。
故に、ウルルちゃんがこの世界行脚の旅に志願したのは、自らのルーツを辿る意味合いもあったのだろう。
「ふむ。【水】の巫女姫役を仰せつかっていたのだから然りではあるが。ああして並ぶと矢張りよく似ているな」
「まぁ、アイちゃんの方がお姉さんに見えますけども」
「……しーっ、だよ。あれでも結構気にしているんだ」
「分かってますわ」
俺……わたくしやラルさまからすれば属性が色で見えることもあって、一目瞭然ではあるのですが。
【水】の巫女姫役をやれるくらいには似ているのでしょう。
伺ってもきっと答えてはくれないだろうけれど。
それでも、水の巫女姫を外へ出すにあたって、ウルルちゃんは未だ影武者のような役目を負っているのかもしれない。
ラルさまや俺たちもいるし、その辺りは本当に心配はいらないとは思うんだけど。
アイスとラルさまの演技力っぷりに惹かれて、付いてくることを決意したというルキアさん自体、そんな彼女を守ろうと今ここにいるのかもしれなかった。
「おーい。みなのもの、あつまってくれい。母上が今後の進路についてお話があるとのことじゃ」
なんて思いつつ、やはり中の人が隠しきれずにによによしていると。
そんなレミラちゃんの声がかかる。
おお、早速か。
レミラちゃんのお母さん、学園都市ヴァレンティアの教師でもあるエイミ・エクゼリオさんによると。
『ボークジュ』へ向かうには海路を辿る必要があるらしい。
「海、かぁ」
属性が相反していなくても、海というか水が苦手なラルさまの呟きを、俺……わたくしが聞き逃すはずもなく。
いざとなったら、空路での手段も考えておくべきか、なんて思いつつ。
レミラちゃんに従って、わたくしたちは新たな冒険の準備を進めることとなったのでした……。
(第91話につづく)




