第84話、救世主の永い日々の、ほんの少しの素敵な羽休め
SIDE:ローサ(inサーロ)
『ヴァレス山』に暮らす魔精霊たちだけでなく、そこに棲まう生けとし生けるものたち全てを巻き込んでいたであろうお祭り騒ぎの登山、山下りは。
当のラルちゃんがまさしく神輿に担がれ運ばれていったことにより、うまいこと空が明るくなる頃には終えることができて。
本当ならば、『ブラシュ』ヘ辿り着いてからの主役というか、まず一番に帰還を歓迎されるはずなのはアイちゃんのはずだったのだけど。
それこそ【水】の根源扱いされて、手厚い歓待を受けていただろう、何だか久しぶりに見た気がしなくもない、リカバースライムのリルさんが。
もはや『ブラシュ』の新たなる守護神はわれであるぞ、とでも言わんばかりに。
何だかとっても偉そうに、ようやく魔精霊さんたちの担ぎ上げ祭り上げから解放されたラルちゃんを出迎えたことで。
俺も一応のところ、『ブラシュ』の危機を救い上げるために、本来の姿とは変わり果てた状態で色々行動していたことすらも有耶無耶になってしまって。
アイちゃんも、その辺りのことに対しては……どうやらちゃんと家族との再会は叶ったらしく気にはしていないようで。
俺としても、そんなラルちゃんのおかげもあって、必要以上に持ち上げられることがなかったのは。
既に諦めてしばらくは【風】の歌姫(自分でそう言ったわけではないのです、何故だかラルちゃんがそんな二つ名で呼んでくるのです)でいることにしていたので。
中の人……今更正体がバレるのもあれなので、まぁいいかなって思ってたんだけど。
「……ようよう。待ちくたびれたぞご主人さまよう。おかげさまで、この国をご主人さまのものにしていく活動も順調だよう」
「ちょっ、いきなり何を言い出すんだっ。も、もしかして丸投げしてたの怒ってる?」
「ハハハ、とんでもない。大大だーい好きなご主人、ラルちゃんのためにと、ちょーっとばかし頑張っていただけさぁ」
「おおぉぃっ!? やめろよっ! その声でそんなこと言うんじゃないっ! 悪かった、オレが悪かったからぁっ!」
一人で先行して、正に丸投げのお任せにされたことが、実は結構リルさん、腹に据え兼ねていたらしい。
あろうことか、ばっちり決まって渋さが光る俺の声色のままで、きっと間違いなくラルちゃんが嫌がるくっさくさのセリフを連発していた。
ほら、見てくれよ。
案の定ラルちゃん、素顔のままでいることすら忘れて、顔をリルさんに負けないくらい真っ赤っかにしてリルさんに突貫していくじゃないか。
だからさ、どう聞いてもリルさんの声ってお前の声だよなって。
ものすんごい生暖かい目でこっちの方を見ないでもらいますかね、みなさん。
俺が、その素敵でちょっとばかしくどくてうざい声の本当の持ち主だってバレてしまうじゃないですか。
……そんな風に、色々な意味で直視できないラルちゃんとリルさんの、やりとりを見守っていると。
いつの間にやら、そんな二人の街を巻き込んだ追いかけっこが始まってしまって。
一体何が起こっているのか分からないままに。
でもなんだかとっても楽しそうだったから。
街を、『ブラシュ』の人々を巻き込んだ大移動……流れができてしまっていて。
きっと、リルさんとしては、そのままラルちゃんを、この『ブラシュ』の国でしでかしてしまった事のある意味責任を取らせるためにと。
国の中心に、でんと構える王城へ誘導する算段であるのだろう。
「あっ、ラルさまいっちゃった。お母さまのところかな」
「追いかけないとっ。すごい人だし、はぐれちゃうよっ」
「あれがウワサのワタクシの先輩さんですカ。少しばかり思ってイタのと違いマスけれど」
「あれがラルどのあるべきすがたというわけか、まぁわるくはないな」
「国を救い上げるその流れで、最早その手に治めてしまったというわけですか。まったく、さすがですわね」
「……うぅ~。結局本当に、ただついてきただけだったよぉ。何しに来たんだろ、私」
知ってる人も知らない人も、散々ばら視線だけで、必死に誤魔化そうとしている俺を揶揄った後は。
まとまりのあるようなないような、そんな忙しないやりとりの後。
『ブラシュ』の街の人々、『ヴァレス山』からついてきてしまった色とりどりの魔精霊さんをも巻き込んで、そんなラルちゃんたちのことを追いかけていく。
「……うん。これはこれで、めでたしめでたし、なのかなぁ」
それはたぶんきっと。
数多くの世界を、物語を体験し、これからもし続けるであろうラルちゃんの救世主な日々の中でも。
上から数えた方が早いくらいに。
いい感じの終わり方なんだろうなぁ、なんて思っていて……。
SIDEOUT
(第85話につづく)
次回は、6月27日更新予定です。




