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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
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第6話、平凡を装うCランク冒険者、登録して一年足らずで中堅ランクであることが平凡でないことに気づけない



side:サーロ




馴染みの冒険者ギルド。

ラスヴィン支部は、今日も中々な混みようだった。

それでも、深澄の森に火の魔精霊が集まってきている事はまだギルドに伝わってないのか、あまり大きな問題にはなってないように見える。

……まぁ、どこにでもいる精霊が、ちょっと集まったくらいじゃ騒ぎにはならないんだろう。



俺みたいに魔精霊の声が聞こえるか、火の魔精霊好きの魔術師くらいしか興味を持たないのかもしれない。

受付にざっと視線をやると、俺の専属になってくれればいいのにと化しているリーヴァさんの手が空いているようだったので、掲示板の中から俺のランクでも受けられる深澄の森行きの依頼を適当に見繕い剥ぎ取ると、そのままリーヴァさんの元へと駆け寄っていく。




「おはようございます、リーヴァさん。これとこれお願いします」

「おはようございますサーロさん。ランクE、青の薬草採取と、ランクC、盗賊のアジトの探索ですね。かしこまりました」


同い年くらい(ちなみに俺は17歳)なのにさん付けで呼びたくなるくらい美少女な、だけど感情の起伏が乏しい受付嬢な彼女。


白に近い銀糸の髪は、きっちり後ろに結わえていて。

少し釣り目がちだけど澄んだ銀色の瞳は、感情を隠し淡々と受付業務をこなす姿とあいまって、とても神秘的だ。


何人もの男達(女の人もいたらしいけど)がアタックしては撃沈するので有名で。

ここに来て一年、特に嫌われる事なくお話出来ているのは、ちょっとした自慢だったりする。


俺の身の弁えっぷりときたら半端ないからな。

……なんて事を内心で考えつつ、仕事の受付が完了するのを待っていると。

必要な事以外喋らないはずのリーヴァさんが、依頼の手続きをしつつも何か言いたそうにこちらを見ているではないか。



彼女とこうして顔を合わせるようになってもうすぐで一年。

ついにお互いの関係に進展が!?

なんてやっぱり内心だけで思いつつも。

表向きは飄々としたふりをして、依頼に追加情報でもありましたか? なんてこちらから伺ってみる。



「はい。今回の盗賊のアジト……深澄の森の調査依頼なのですが。A級賞金首の『フジィーデン・ヴォトケン』が潜伏しているとの情報が入ってきました。A級賞金首捕縛は、Aランク以上の任務になりますのでサーロさんは任務を受ける資格を有していません。会敵次第撤退をお勧めします」


一年やって、俺の冒険者ランクはC。

普通に考えたらCランク冒険者がAランク賞金首に敵うわけがないので、つまるところリーヴァさんは俺の事を心配してくれてるのだろう。


その事務的な口調の裏には。

目をかけてあげてるんだから、危ないことしないでっ。

なんて意味が含まれているのだ。


……うん。そうに決まってる。

俺はそんな妄想をしつつも、しっかりその言葉に頷いてみせて。



「貴重な情報、ありがとうございます。もし見つけたら全力で逃げたいと思いますので、よければ特徴を教えてもらっても?」


感謝の言葉は本当だけど、長年の癖で染み付いた自然と出てくる嘘を悟ったのかそうでないのか、どこか迷う仕草をしていたリーヴァさんだったけど。


A級賞金首なんて脅されても依頼を受ける気満々な俺を見て諦めたのか、一枚の人相書きを差し出してくれた。



魔法で作られているらしい現物そのままのようなそれには、いかにも悪そうな人物が人好きのしない笑みを浮かべている。

髪はこちらの世界には珍しい黒っぽい鈍色で、爬虫類みたいな虹彩の灰眼をしている。


細身の体格からして魔術師だろうか。

おお、希少な【エクゼリオ】属性や【リヴァ】属性の魔法を扱うと書いてある。

リーヴァさんが出し渋るわけだ。


彼女はギルドの受付嬢であると同時に、時属性の魔法を操る魔法使い……冒険者でもあるのだ。

受付の仕事が好きなのか、何か理由があるのか、依頼を受けて冒険している所をオレ自身見た事はないが、同じ属性の犯罪者がいれば、そりゃ気分はよろしくないだろう。



「できれば、Aランクの冒険者が捕縛任務に出てくれるまで待って欲しいのですが」

「ええ。分かってますよ。でも、悪い奴ら同士でつるんでいてもおかしくないし、盗賊のアジトにこいつがいたら儲け物じゃないっすか? ええ、もちろんあくまで調査ですから。無理はしませんて」



厄介なのは、言葉にした通り、これから調査に行く体の盗賊団と、賞金首が結託していた場合だ。

でも、それが分かれば後から来るだろうAランクさんもやりやすくなるに違いない。

そう主張すると、最後には折れてくれたのか、手続き完了の紙を渡されて。



「気をつけて。……無理をせず、無事に帰ってきてください」

「モチのロン、ですよ」


じっと見つめられて、気恥ずかしくなって。

照れ隠しにそんな言葉を返し、俺は踵を返す。


一年足らずで二人の関係もちったぁ進歩したんじゃないだろうか。

帰ってきたら、食事にでも誘ってみようかな。


……いやいや、まだ早計か。

慎重に、慎重に。

有象無象とは違う事を見せてやるぜい。


兎にも角にもまずは依頼を無事に達成する事だな。

ついでに、異世界からのお客人を保護しなくちゃならないんだけど。



それが、あんな事になるなんて。


予感は十分すぎるくらいあって目を背けてたくらいだけど。


その時ばかりは、当然思いもよらなくて……。




           (第7話につづく)









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