第7話、幻めいた分け身として、束の間の休息地へと先回りする
SIDE:サーロ
ギルドを出てすぐに。
俺は一緒に依頼を受けたりする事の多い、冒険者の女の子達とすれ違う。
普段なら声をかけて、共に依頼などをこなしつつあるかどうかも分からない親密度的なものを高めていくのだが。
さっきまで空の向こうで騒いでいた【火】の魔精霊達の姿が見えなくなったことで。
恐らく何らかの魔法を使ったことによる、魔精霊たちの結構な規模の魔力変換を目の当たりにして、焦っていたのもあったから。
涙をのんで挨拶と簡単なやりとりだけをし、街の外へと急ぐ。
そもそも、何故俺が精霊達の騒ぐその中心に向かおうとしているのか。
まずは、俺がこの世界【カントール】に転移……トリップした事から話さねばなるまい。
俺がこの世界へやってくる羽目になったのは。
世界のバランスを調整するためだとか、住む世界を間違えてしまったとか、所謂よくある異世界トリップのお約束によるもので。
この世界に送った神様のような存在もいて。
こちらに転移する際、ある事を頼まれたのだ。
―――もし、俺と同じように異世界からやってくるものが現れたら、助けてやって欲しいと。
自分の身を賭し、ある世界の均衡を保った救世主。
傷つき疲れ果てたその心を、癒してやって欲しいと。
その来訪は、この世界を構成する魔精霊達が教えてくれる。
あまりに大役すぎて、この俺に務まるものかよ、なんて思ったのは正直なところだけど。
結局、俺はその頼みを引き受ける事となった。
この世界で、自由を満喫する為の代価だと言えばそれまでだけど。
いくつもの歌に出てくるような救世主の『少女』の人となりを、人生を知ってしまったら最後、
この依頼を拒否する事、俺にはできそうもなかったからだ。
……何の臆面もなく幸せになって欲しいと、そう思ってしまって。
正直、気は急いていた。
故に、出し惜しみはしない。
できる限りの仕込みを終えると。
街を出て近くに人がいないのを確認し、火の魔精霊の集まっていた上空へと視線を向ける。
「……【風】よ、【時】よ! 友誼を以てはざまを超えよ! 【リィリ・スローディン】っ!!」
二種の魔精霊の力を借りた、合成魔法。
少なくとも、この世界で他の者が使っているのをこの目で見た事はない。
それは、予め指定した場所に一瞬で移動できる魔法だ。
いわゆる異世界転移の際にもらったチートのひとつ。
のんびり生きる事を決めていたから、基本的に使うつもりはなかったのに。
人生とは分からないものである。
今回は指定はしていない。
見える範囲なら応用がきくと気づけたのは、こちらへ来た時に使える魔法を一通り試してみたからに他ならない。
ある意味、ここ一年はこうしてこの世界に、生き方に、魔法に、慣れるための一年だったと言ってもよかったかもしれない。
勿論、いつだって全力で楽しんではいたけど。
瞬間。
紫色と黄緑色の魔力が俺を包んで。
指定された場所へ向かって、全身が引っ張られる感覚。
これ、意外とクセになるんだよな。
なんて思う間もなく、気づけば俺は、『深澄の森』……その中空へと投げ出された。
その先には、森の木々に隠れるようにして岩肌、洞窟らしいものが見えて。
ついでに正しくもごろつきのような見てくれの見張りが見えて。
「アタリだっ」
彼女はきっと中にいる。
あまりにも思惑通りの展開に、自由気ままはこれで終わりだな、なんて苦笑しながら。
そのままの勢いで突っ込んでいくのだった……。
SIDEOUT
(第8話につづく)




