第48話、大好きな声は、終わらせるのも、始めるのも自由自在
SIDE:ラル
取るものも取らず、正しくも逃避行な勢いでここまでやってきたラル。
元より目的などあってないようなもので。
むしろこの世界で何を成すのか探す事こそが目的と言ってもよかった。
躍起になって逃げだした割にはあっさり捉えられ見つかってしまったわけだが。
用がないのなら帰りましょう、だなんて急かされる感じは全然なかったから。
満足いくまで、地に足をつけこの世界を堪能しよう、なんて思っていて。
むしろ、今までの異世界への冒険は常に生き急いでいて出会いと別れの間断ない繰り返しであったから。
特に目的がないからこそ、ゆっくりと、この世界での出会いを深めていきたいと思ったのは確かで。
思えば、ラルがこの世界にやってきて、初めて出会った……お互いの存在を感じ得たのがアイであった。
勢い込んで突っ込んで、いつものドジが発動して捕まってしまったイゼリや、近郊の町や村で攫われた者達と違い、それこそラルのように、着の身着のままでふらりとひとりやってきたと言う、アイ。
初めて会った時から高い教養と、素養を感じ取っていたこともあり、家の人が心配しているのではと思ったが、リーヴァが言うには、捜索願いのひとつも出されてはいなかったらしい。
その辺りのことを、アイに直接伺おうとするも、思い出したくないのか泣きそうになっていやいやするので、深くは聞けなかったのが実情で。
それでも少なからず分かったのは。
その幼さで、自らの足でその意思をもって、故郷の『ブラシュ』を抜け出してきたということで。
『魔王』という言葉に大きく動揺し、反応していたことにも何か関係があるのか。
とりあえず、今すぐにでも帰りたいわけじゃないということで。
グレアムの厚意もあって、ゆっくりしていくことを決めた時。
『ラルさまは、魔王さまになるの?』と。
この世の終わりを目の前にしたかのような顔で聞いてきたのを、よくよく覚えている。
勿論、その時はきっぱり笑って否定したわけだが。
つまるところ、アイの故郷で血で血を洗うような……一族郎党が身を削りあって王の座を争っているのではないか、なんて想像できてしまって。
アイ自身、命の、身の危険を感じたからこそ、今こうしてここにいるのならば。
このまま帰らずにいるにせよ、グレアムの提案通り学園へ向かうにせよ、一足先に『ブラシュ』の様子を確認すべきだと思い立ったのは。
グレアム邸にお邪魔することとなった、最初の一日、その深夜であった。
「……【フレア・ミラージュ・ダイヴ】っと」
ラルは、同じく宛がわれた一人部屋にて、室内で使うには本来あまりよろしくないとも言える【火】の魔法を発動する。
しかしそれは、何かを燃やしたり焦がしたりするものではなく。
この世界に来たばかりの時にも、人を探すために使った暖かな炎を魂として具現する使い魔を呼び出す魔法……その亜種である。
「……」
音もなく、じんわりとした熱をはらんで生まれたのは。
そのうちのひとり、【火】の星のひととも呼ばれる、リカバースライムであった。
本来ならば、その暖かな火で尽きることなく誰彼かまわず辺りを癒し続けるという、不思議な魔物、魔精霊である。
ラルのお気に入りでもある彼、あるいは彼女、『リル』は。
しかしそれだけにとどまらず、歌って踊ってラルの心を慰め、励ましてくれていた、有り難き相棒でもある。
今回ラルが使用した【フレア・ミラージュ・ダイヴ】は、そんな相棒の視点を借りて偵察、探索、下見などを行う魔法で。
期せずしてどこぞの誰かと同じくして床についたラルは、早速とばかりに目をつむり、視点をリルに移して行動を開始した。
(ええと、アイちゃんの故郷は、どっちの方だったっけ……っ)
ふわふわと僅かに上下する視界。
特に語らず相談せずとも期待に応えてくれるリルのことだから心配はしていなかったが。
距離があって夜じゅうに辿り着けなかった、なんてことになったらいただけない。
スピードを上げるためにと、より一層魔力を込めようとして。
しかしラルははっとなってリルに制止の合図を送る。
(……これは、【風】の魔力? こっちに向かってくるっ)
始めは、当然のようにそれはサーロのものであると思っていて。
あるいはラルと同じように、『ブラシュ』の様子でも見に行くのだろうか、ならば一緒に行こうか、なんて思っていたのに。
(……えっ? 透明な、女の子? いや、【風】の魔精霊さんかな? でも、何だろうどこかで見たことがあるような)
真夜中の玄関で揺蕩っていたリルの前に、まるで流星のように落っこちてきたのは。
十二の属性のうち、色が定まらず無いとも言われる【風】の魔力そのものを体現しているかのような、魔力を視ることにとにかく長けたラルでなければ、視認することも叶わないであろう、色のない少女であった。
透明だから分かりづらいが。
それでも確かに、ラルには見覚えが、どこかで会ったことがあるような、そんな気がしていて。
「……りかっ」
「っ!?」
(……っ!!)
ラルが、それを何とか思い出そうとした、その瞬間である。
目の前の彼女と、ラル自身がほぼ同時にびくりと身体を跳ねさせ、震わせても仕方がないような。
ついさっきまで聞いていた声色で、実にらしい『鳴き声』を、リルが上げたのは……。
(第49話につづく)
次回は、3月5日更新予定です。




