第47話、そうして火の星の人と、風の歌姫は邂逅す
SIDE:サーロ
……結局。
特に急ぐ旅でもないだろう、と言ったグレアムさんに言葉に甘える形で。
ラルさま救世主さま一行は、グレアムさん自慢の『魔法機械』による『健康診断』を体験、堪能しつつ数日ほどお屋敷にお邪魔させてもらっていた。
アイちゃんがここにきて帰るのを嫌がり躊躇っているから、というのも勿論あったのだけど。
ラルちゃん自身が、『魔法機械』のような大きなマジックアイテムに明るかったというか、興味津々で。
さらに、グレアムさん謹製の生命力の最大値が上がると嘯くマジックポーションをどうにかしてタダでいただきたい(溢れ出て隠せない本音)、なんて目論見もあったようで。
何だかんだ言ってグレアムさん自身もノアレさんとの別れが惜しかったらしく、そんなグレアムさんに甘える形で正にゆっくりしていたわけだけど。
そんな中で俺は。
皆がゆっくりしている間にと、アイちゃんが帰りたがらない原因を探るためにと。
所謂偵察を飛ばすことにした。
とはいえ、俺のためにせっせと偵察をこなしてくれそうな使い魔などがいるわけでもないので、今回偵察するものも自前だったりする。
その関係で、偵察に向かうのはよい子がみんな寝静まった、俺一人が抜け出しても問題ないであろう、草木も眠る夜更けである。
抜け出す、というのもいい得て妙で。
俺は皆のおやすみなさいの挨拶をして、抜け出す準備をするためにと、グレアムさんのご厚意で俺ひとりに宛がわれた部屋のベッドへと寝転がる。
一応残された本体が風邪をひいてもあれなので、しっかり布団をかぶると、心内でむにゃむにゃと我らが一族に伝わるとっておきの魔法を発動する。
魔名をつけるとするならば【チェインジング・レスト】、とでも言おうか。
いろんな世界に俺のようでいてちょっと違う俺が点在している辺りでご承知の部分もあるだろうが。
俺たちの一族……正確に言えば原初の俺は、元々その身ひとつに複数の人格、魂を持っているのだ。
簡単に言えば、本来コントロールが効かず、別人格になってしまうタイミングを掴めなかった厄介な一族特性を、オリジナルな俺がいい加減どうにかしなくてはと開発した魔法でもある。
オリジナルであるならば、結構俺が愛用して使っている変化のマジックアイテムのようにその身姿を魂ごと変えられるようなのだが。
かけらのひとつでしかない俺には、この魔法を使ったとしても内に秘めたる魂を……所謂幽体離脱のごとくに分離させられるのみである。
まぁ、今回の場合かえってその方が都合がいいというか、幽体……魔精霊体の姿であるならば大抵の人の目には映らないので偵察向きではあるだろう。
そんなわけで早速とばかりに分離する、俺のうちに潜みし魂と、俺の意識。
身を千切られるというか、何だか大切なものがごっそり抜けおちる感覚には未だ慣れるところはないが。
それに歯を食いしばって耐えていると、いつの間にやら俺は、宛がわれたベッドの上で……
まるで寝ているみたいだろ、もうここに魂ないんだぜ、とばかりに微動だにしない俺自身を見つめていた。
(よし、とりあえず成功かな? 実は初めて使ったけれどなんとかなったか)
天井の少し下あたりに、俺から分離した意識が浮いている感覚。
しかし、よくある精神体の離脱のように、寝こけている俺と繋がっているだろう糸のようなものは見えない。
それどころか、寝台の近くにある鏡台にも分離した俺の姿は映っていなかった。
色んな意味で不安になる消えっぷりではあるが。
何度も言うけれど偵察には正にもってこいであろう。
この状態の俺に何かあったら身体に戻るだけ(試したことはないからあれだけど)だし、問題ないさはははと自分に言い聞かせつつ。
早速とばかりに部屋を飛び出す。
(うわっとっとっとぉぉ!?)
別に天井や窓から出てもよかったのだけど、俺は何故か律儀に扉を開けて出ようとしてノブに触れられなくて、手のひらから扉の向こうに突っ込んでいってしまう。
そして更にその勢いのままに廊下に敷かれた赤カーペットすら突き抜けて際限なく下へ下へと落ちて行ってしまった。
このままでは屋敷すら通過して大地への終わりなき探索に向かいかねないところで、咄嗟に手のひらから風を生み出すことで……なんとか屋敷の一階、バルコニーらしきところに留まることに成功する。
「……りかっ」
(……な、なんっ!?)
と、出るはずのない汗をぬぐい、何とか一息ついたそのタイミングであった。
今まで聞いたこともないような鳴き声? とともに、結構苛烈な【火】の魔力が俺を包んだのは。
びびくぅっとなって恐る恐るそちらを見やると。
そこには、まるで鬼灯めいた赤い明滅を繰り返す、数多の触手持ちしくらげ……あるいはスライムのような存在が、ぼぅっと浮かんでいて……。
SIDEOUT
(第48話につづく)
次回は、3月1日更新予定です。




