第44話、きっと彼女の嘯く魔王なるものは、別物なのかもしれない
SIDE:ラル
ラルと愉快な仲間たち、ではないけれど。
その名の通り、場の中心人物であり、すべてがラルを中心に回っているようにも思えたが。
当のラルにそんな自覚はまったくもってなく。
流されるままに皆についていったら、明らかに目上の大人に土下座を見せられる始末。
そのある意味潔くも見えなくもないグレアムの様は。
ここまで色々な世界を渡り歩いて、何だかんだ言って酸いも甘いも体験してきているラルからしてみても、中々に体験し難い光景であった。
しかも、一度顔を合わせた時は(ある意味娘の一大事でそれどころではなかったこともあるだろうが)むしろあまり注目されている感じではなかったのに。
一体全体急にどうしたのだろうと、内心では疑問符が浮かんでいたわけだが。
魔の王、という言葉を耳にしてすぐに思い当たる節があったというか、腑に落ちる部分があった。
そう言えばうちの家系は人より魔力が多くて魔法を扱う事に長けているようで、世界によっては『王』などと呼ばれる事もあったではないか、と。
特に早くからラルを置いて様々な異世界を渡り歩いていた母などは。
正しくも魔王などと呼ばれ奉られる勢いで、多くの魔に連なる者達に恐れられていたのだ。
この【カントール】という名の世界に今も彼女がいるかどうかは定かではないが。
その身に秘めし魔力を示し表すと言われる髪色……
【火】を表す赤と、【闇】を表す黒と、【金】を表す金の組み合わせは、そうそうあるものでもないだろう。
年経たヴァンパイアであるグレアムがそれを目の当たりにし、纏う魔力を身を以て体験したことがあると言うならば。
少なくともラルと無関係でないことは間違いなさそうで。
「魔人族……っ。やはり、そうでしたかっ。かつては魔王様の軍に所属しておりましてね。思えば幹部の名のある方々は御自らそう名乗っておいででしたよ。いやはや、懐かしいっ」
「ああ、でもそれってお、私ではないですよ。何せ私は、この世界に来たばかりですから」
過去を惜しんで昔語りを始めかねない勢いのグレアムに。
おそらくきっと身内がすみません、とばかりに否定の言葉を口にするラル。
しかし、グレアムとしては畏怖し敬うに値するやんごとなき存在であることに、既に確信をもってしまったらしい。
逆に、ちょっと前にこの世界へ来たという言葉を何だか勘違いして、別の意味にとってしまったようで。
「おお、成程っ。久方ぶりに魔王様がご光臨なされたと、そういうことですな! いやぁ、我も若ければ新しき魔王様がお創りになる軍の尖兵にと立候補したいところではありますが……そう言うことでしたら、我が娘ノアレが貴女様へ付き従う事を決めたのも、運命であったのでしょうなぁ」
「いや、そんな予定はっ」
「むむっ、我が娘はお眼鏡に叶いませんでしたかっ、であるならばこの老体鞭打ってでもこの我がっ」
「あ、えっと。そういう意味じゃないですって、もう契約もしていますし、一緒に行くのは構わないんですけど……」
結局のところ。
ラル自身、この世界へ来た理由、目的がはっきりとしていなかったこともあって。
グレアムの勘違いを修正できないままに、ノアレの同行をお互いが認めることになるのだった。
もしかして、最初からそのつもりであんな態度だったのではないかと。
お父さんってすごいなぁ、なんて内心で思いつつ……。
※
そんな風になんやかやあって。
結果的にイゼリのやらかしを謝罪しにグレアム邸へ舞い戻ってきたはずなのにうやむやになってしまって。
イゼリだけが内心では悪びれずに胸を撫で下ろしている中。
ラルたちはグレアムに案内されて、ノアレの門出を祝うという体で豪奢な食事の場へと集まっていた。
せっかくメイド長と受付嬢のコンビが腕を振るってくれたのだからというのもあったが。
ラルがそれでも現時点で決まっていた目的……アイを彼女の故郷へと連れて行くといった話をしたら、
何故だかじぃっとアイを(やっぱり父親のような目で)見つめていたかと思うと。
そうであるならば道筋を立てましょうと、先に道行きの情報提供まで買って出てくれたからだ。
そんなわけで、メイド長なタナカだけでなく、
氷の女王(属性は【時】なのに、ギルドではそう言われていたらしい)なリーヴァさんも家庭的で女子力満点な部分を十二分に発揮して。
異世界食べ歩きも大好きなラルからしても、わくわくが止まらないごちそうが並べられていたわけだが。
それに素直に嬉しそうなイゼリやサーロはともかくとして。
『魔王』というフレーズを耳にしてからなのか。
あるいは、本当は故郷に帰りたくない、帰れない理由でもあるのか。
何だかずっと、元気のない様子のアイのことが。
ラルは気になって仕方がなくなっていて……。
(第45話につづく)
次回は、2月20日更新予定です。




