第34話、『火』の申し子だけれど、『金』とつくものには大抵目がない
SIDE:ラル
結局のところ、全ての勘違いの根本の原因は。
ラル自身が救世主として在った故郷での自分と、今現在の心なしか小さくなってしまった自分とのズレを認識していなかった部分にあった。
彼女の現在の姿は、故郷において『おぷしょん』などと呼ばれていた。
それは、故郷の世界を維持するために、一箇所に留まり人柱となって祈りを捧げ続ける救世主の救済措置でもあって。
本来なら、現在のラル自身について、細かいフォローがあったはずなのだが。
着の身着のまま、故郷からこの世界へやってきてしまったため、それすらままならなかったのだ。
【カントール】と呼ばれる世界に来て、サーロと邂逅し感じたの同じ気配。
もう二度と会いたくなかったからこそ咄嗟に逃げ出したわけだが。
それでもほんの少しだけ思いとどまっていたのならば。
今回のように、後で思い返したら穴を探して入りたくなってしまうくらい恥ずかしい勘違いをしないで済んだのだろうが……。
ラルの現在の状況。
動けない本体の代わりに活動できる精霊体、『おぷしょん』。
元より人の身でありながら自身の魔力、魔素化できる規格外なラルには気づきようもなかったが。
人よりも世界を構成いするま魔力が意思を持ったもの……魔精霊にほぼ近い存在である。
その出力は、本体の六分の一程度。
ガワこそ違えど、根本としては魔導人形にも近く、魔力切れを起こすと消滅してしまうため、一定の間隔で魔力補充が必要になってくる。
ラルの本体は、おおよそ人ならざる救世主として相応しい埒外の魔力を持っているからして、六分の一になろうとも普段通り生活していれば、まず魔力切れを起こすことはないだろうが。
それでもやはり本人ではないので、それ以外の部分でいくつか細かい齟齬が生じるのだ。
身体的特徴として、ラルが思っている以上に縮んでいるのもその一つであるが。
それこそ、呼吸するように日々使っていた魔力を、色や音、匂いなどて感知できる生来のものである能力も、僅かながら鈍っていたのだ。
恐らく、本来のラルであるならば。
サーロがイゼリに化けていたことも、すぐに見破っていたことだろう。
イゼリ本人がどうも隠す気がないのにラルが気づかないところは。
ある意味ラルのもともとのにぶ……性質と言えるのかもしれないが。
敢えてラルのためにいいわけを述べるとするならば。
そんな事にも気づけないくらい、『おぷしょん』になってしまっていることを抜きにしても、未だ精神的に弱っていたのは確かで。
「……? だれかいるのかな? お話きこえるね」
「……しっ」
そんな中、何気負うことなく、先導するみたいに地下へと駆け出していってしまいそうなアイに対して。
ラルは仮面越しに、その小さな指を一本立てる仕草をして引き止める。
そして、階段が終わり広がっていくだろう地下フロアの手前で。
扉のないその入口の死角から、そっと様子を伺う。
「……っ」
最初に、ラルとアイの目にとまったのは、長い長いピンクゴールドの髪と。
何故か透けるような夜着を身にまとった少女の後ろ姿であった。
ラルだけでなく、アイにも未だ望むべくもない、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、
羨ましい肢体を惜しげもなく晒していると言えなくもない少女の背中に。
何と言えばいいのか、表現のしようもない危うさを、焦燥感めいたものを感じたが……。
それより先に、少女の背中越しに見える大仰な『魔法機械』に圧倒されることとなる。
しっかり言いつけを守って、黙りこくって隠れているアイには、初めて目の当たりにするものであったが。
サーロと故郷を同じくするラルには、それがどういったものなのかどうかはともかくとして。
似たようなものは見たことがあった。
このカントールの世界はどうか分からないが、ラルが暮らしていた故郷において、古代と表されるくらい大昔に存在していた、大まか言えば人より大きなマジックアイテムの総称である『魔法機械』。
基本的に【金】属性を秘めた遺物であるそれは、究極的には魔力がその内になくとも水や火、雷など、自然の力でいつまでも動き続けることができると言う。
密かにラルが故郷にて、コレクションしていたものだ。
とはいえ地下フロアの三分の一くらい占めていそうな大きさのものは大変珍しく。
ラルは思わず本来の目的を忘れて(内心の願望)、小屋ほどの大きさのそれが一体どんなものなのか知りたい、根掘り葉掘り聞き出したい衝動に駆られたが。
そんなラルが声を上げるよりも早く。
その魔法機械の一部、棺桶のような形をした部分についていた蓋のようなものが。
まるでタイミングを見計らったかのように横向きに開かれていって……。
(第35話につづく)
次回は、1月19日更新予定です。




