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救世ちゅっ! ~Break a Spell~  作者: 大野はやと
第一章:『救世ちゅ、降臨す』
29/116

第29話、穏やかでやさしいニューゲーム



SIDE:ラル



「あっ。たくさんのひとが出てきたよ?」


アイがそう言うように、頑なに閉じられ無音で保っていたと思ったら。

急にその向こうが騒がしくなり、黒色に染められた、大きな両開きの扉が開かれていく。


そこには、闇色の、全身を隠すローブのようなものを一様に纏い、

その中でそれぞれ片方の手、肘の反対あたりを抑えて出てくる、十数人もの人々の姿があった。




「……血ぃ抜くと、力が抜けるっつーか、ぼうっとするのって本当なんだな」

「肉ばっかり食べるのはダメなんだと。やっぱり血が美味しくなくなるのかな」

「いってぇ。まだいてぇ。何度も刺しやがって。あの無表情メイドがっ」


それは、この村……町の人々だけでなく、イゼリと同じように依頼を受けてやってきた、冒険者の一団であった。

年齢、性別問わず、といった具合で。

イゼリと一緒に来た者たちもいたことから、咄嗟に隠れるイゼリに倣うようにして物陰に隠れる一同。



「ふむ。話だけ聞いていると、単純の許可を取って血を集めているようにも伺えますけどね」

「ええーっ、そんなことないって! あれは絶対何か企んで……って、あーっ! いたーっ!!」



意味深長ではあるが。

ぞろぞろとそのまま解散してばらけていく人々を見るに、無事のようではあるし、やはりイゼリの思い違いなのではとリーヴァは思ったが。

隠れていたのが意味ないくらいの大声で叫んでイゼリが指し示したその先には、赤の裏地の、蝙蝠のような真っ黒マントと一張羅を羽織った、ガイゼル髭がいかにもらしい、それなりに年季の入った貴人がそこにいた。


指さされ、大声を上げられて。

見た目にそぐわずびくりとしていたその人物は。

イゼリを発見し、おお、とばかりに手を打った。


正に、ヴァンパイアらしい立ち振る舞いの一方で。

妙におじさんくさいというか、人間味のある人物である。


イゼリが逃げ出し、いなくなってしまったことを心配していたのか、きりっとした眦を下げるその仕草に、早くもラルだけでなく、アイまでもが優しそうな『お父さん』の印象を受けたわけだが。



「おお、イゼリくんだったね。今度こそ戻ってきてくれたのかい? 探しに出た者達を呼び戻さねばな。しかもなんだ、お友達を連れてきてくれたのかね? 健康を気にする年頃にはまだ早そうではあるが、意識を高く持つことはいいことだ。よければ入りたまえ」

「あっ……まてっ! くっ、罠かもしれないけど、もう逃げないぞっ、みんな、行こう!」



穏やかな笑みすらこぼし、マントをはためかせ屋敷の中へと戻ってしまうヴァンパイアのおじさん。

よくよく考えれば、村……町のまとめ役、代表などといった、目立つ……立場のある人間が悪事を働こうなどと、ナンセンスな話なのだろう。


何しろこの世界において村や町の代表は大々的な立候補制なのだ。

ラルが地味にいつでも気になっているお金だって、周りが思っているほどには自由には動かせないし、常に見られている役職であるからして、これほど悪事を行うのには向いていない肩書きはないように思えた。

加えて、魔力の色以上のものが見えるラルにとってみれば、悪意がないことなど一目瞭然で。



「やはりイゼリさんの……いつもの早合点ですか。正義の勇者に憧れている彼女らしいといえば、そうかもしれませんが」


しょうがないですねぇ、とばかりに。

リーヴァは駆け出す勢いのイゼリを追いかけていく。



「ラルさま、アイたちも行きましょう。せっかくだし」

「……まぁ、悪事でないのならば、この中で何が行われているのか気になってきたところですしね」



その後に続くように。

アイに手を引かれる形で、自分に言い訳するみたいにひとりごち、ラルもふたりを追いかけていって……。




     (第30話につづく)









次回は、1月4日更新予定です。

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