第30話、まずはお手並み拝見、などといったおぜうさま感に自覚なく
「おおおぃっっ、タナカくん! これは一体全体どういうことだねっ」
もれなくラルたちが辿り着いたのは。
お城で言うなら玉座の間とも言える場所であった。
さっきまでの余裕ぶりはどこへやら、無表情の、まさに人ならざる人形のような……タナカと呼ばれるメイドの女性に、慌てふためき詰め寄っているヴァンパイアのおじさん……グレアムの姿がそこにある。
「……ああ、奥様がモデルとなった魔導人形の彼女のことですか。先程下へと続く階段のところですれ違いましたが」
「うおい! であるならば何故止めないっ!」
「運命の人を見つけた、とおっしゃっていましたが」
「ななな、なんだとぉ。こうしちゃぁおれん!」
相当焦っているのか、追い詰めんと追いかけてきたイゼリどころか、その後にやってきたラルたちすら忘れた様子で、玉座の裏に回って見えなくなってしまうグレアム。
そこには、流暢な口調の割に表情が凍りついているかのように動いていない、やや年かさの『タナカ』と呼ばれた侍女らしき女性が残されて。
「……困りますね、イゼリさん。何も言わずに途中退出なされては」
客の相手は主ではなく、自分であると言わんばかりに。
タナカと呼ばれた女性は、不自然なほどに首から先にラル達の方へ向き直ったかと思うと。
開口一番口にしたのは、イゼリを叱りつけるようなような、そんな言葉。
ご指名のあったイゼリは、反射的にびくりとなり、しかしすぐにはっとなって。
「あ、そうだよ、この人だよっ! ボクをしつこくどこまでも追いかけてきたのはっ」
咄嗟に、冒険者用の外套の裏に潜ませたイゼリ愛用の得物……木造りの柄が誂えてある短刀に手を沿え、警戒態勢を取ったわけだが。
イゼリはそもそも、正式に冒険者ギルドの依頼としてあった、『グレアム邸における、血液の採取等々』を、途中で投げ出した形になるわけで。
叱られても仕方ないというか、今にも飛びかからんとするイゼリを止めるべきだろうと、ラルが思い立った時。
「戻っていらっしゃったのは結構ですが。呼ばれた時にいらっしゃらなかったので、今は代わりの方が中にいます。申し訳ありませんが、イゼリさんはまた後日、と言う事になりますね」
故に、お引き取りくださいと言わんばかりに。
イゼリから向けられる警戒と敵意など気づいていないかのように。
歯牙にもかけない様子で踵を返そうとするタナカ。
「かわり……? それってもしかしてサーロにぃのことじゃ、サーロにぃになにを……って、待てっ!」
それまで、執拗に捕らえ捕まえようとしていたのに。
一体どんな心変わりがあったのか。
それは、タナカの言葉の中に答えがあった。
イゼリの代わりに、サーロがいたから。
イゼリ自身、この場だけでなく山賊……賞金首ヴォトケンの件においても、サーロの存在ありきで無謀にも突っ込んでいったことを自覚していたからこそ、そんな自分のあさましさに嫌気がさしながらも、今更ながら侍女の女性めがけ追いすがったわけだが。
「……っ!」
そんなイゼリを足止めするかのように。
ここから先は、関係者以外立ち入り禁止であるとばかりに、異様に上半身だけが盛り上がっている大男三人が、入れ替わるように階段下から現れたではないか。
「「「……」」」
顔を見た目もよく似ている、双子のような三人組。
何語ることなく唇を引き結び、どこか焦点の合わない瞳で、イゼリ取り囲むようにして進路を塞いでいる。
「くっ。邪魔するなら、無理やりにでも押し通るっ!」
敵う敵わないはともかくとして。
自身の何倍もの体格差のある大男たちを前にしても、全く怯むことなく。
ついには短刀を抜き放ち、独特な構え……逆手に持って戦闘態勢に入るイゼリ。
「……結局、イゼリさんといるといつもこうなるんですね」
どこか呆れつつも、分かってましたよといった風に。
一体どこから取り出したのか。
愛用の得物らしいしなやかに頭を垂れる鞭を構えるリーヴァと。
「えっと……わたしも、てつだうよっ」
二人のノリに遅れまいと、どこか大きすぎるきらいのある、節くれだった樫の杖を構えるアイがそこにいて。
(敵意どころか悪意も感じない。……だけどこの感覚は、ふつうの人間じゃ、ない?)
そんな考え事をしていて、ある意味ラルは出遅れる形になったわけだが。
その様が正に位の高い者が配下のお手並み拝見、といった空気感を醸し出してしまっていることに気づいていないのは。
きっと当の本人、ラルばかりで。
これ以降、長い長い付き合いとなる、運命に導かれし仲間たちの、初めての戦闘は。
こうして始まったのだった……。
SIDEOUT
(第31話につづく)
次回は、1月7日更新予定です。




