第117話、ふつうの魔道具販売員になりたい女神さまな救世ちゅ
SIDE:ラル
ラルたち『救世ちゅ』の当初の目的は半ば達成したものの。
『ヴォクージュ』の王の事が気になる、会ってみたいと思ったラルは。
いつでもできる最終手段、夜を駆ける怪人となって、月明かり照ローズれたバルコニーなどからお邪魔するといった、ある意味でわがままを取り敢えず置いておいて。
いくつか示された、そんな『ヴォクージュ』の王に会うための手段について話し合うこととなった。
召喚されし者同士を戦わせて、その頂点を決める大会で上位に入ることができれば、
現、『ヴォクージュ』の王への謁見が叶うと言うのがまずひとつ。
そして、もう一つが、イゼリやアイが話題にしていた、『ヴォクージュ』召喚センター以外に六つあるという、他の召喚センターを回って、それぞれの長に召喚魔法の腕を認めてもらうことで得られると言う杖を集める、と言うものであった。
何でも、各センター長に認められた証として七つの杖を集めると、王への謁見と言うよりも。
王と成るための挑戦権が与えられる、とのことらしい。
「センター長さんたちにやっつけ……認めてもらうって言っても、実際はそっちも召喚者同士の戦いなんでしょ? 『闇の一族』に対しての依頼も含めて、二手三手に分かれるとしても、そもそもが私たち召喚術師じゃないよね。これからテイム、契約するの?」
「ええっ!? みなさん召喚士じゃないんですか!? 召喚士じゃないのに女の子ばかりで冒険していたんです?」
普段は『魔精球』なる召喚されし者たちの待機場……内なる世界で過ごしている召喚者たち。
表に出したままでいる召喚術師もいなくなないそうだが、街中であるし、皆が皆一様に待機させているとソフィアは思っていたらしい。
「こう見えて、腕に覚えがあるんだよ。具体的に言うと、たとえ野生の魔王が出てきても大丈夫なくらいにはね!」
なんて、続くイゼリのセリフは。
魔王クラスのテイムモンスターが、フィールドを歩き回っているはずがないのだからと。
冗談に取られたようだったけれど。
ようはそれだけ自身で戦えるのだとは、理解してもらえたようで。
「王の謁見が叶う実力者を目指すのは難しいかもしれませんが、『ヴォクージュ』の街の郊外に、『パーク』と呼ばれる、テイムように育てられたモンスターが暮らす場所があります。そこでもテイム、召喚契約が可能ですが、基本管理代などの料金が発生します。ですが、その事に関しては私を通してミスミセンター長にお伝えすれば何とかなると思いますよ」
「う~ん、とっても魅力的というか、それなら是非にでも行ってみたいなぁ」
「ラルさまがそうおっしゃるのなら。何だか楽しそうですし」
「ですが、一つ。この国の大陸で扱われるテイム、召喚者は魔精霊で言うところの『獣型』のみなのでしょうか」
「けものがた、ですか? 『月』タイプの事でしょうか。魔精霊と言うのは、『光』タイプですかね」
この国、この大陸で独自の文化体系であるのは理解していたが。
どうやらそう言った根本的なところでズレがあるようで。
せっかく専属の担当になってもらったことであるし。
一旦この『ヴォクージュ』のホームになりうるであろう、そんなソフィアが日々過ごしていると言う寮の部屋を。
二人、もしくは三人ごとに割り振ってもらった後。
改めて今後について話し合うこととなって……。
※ ※ ※
SIDE:ローサ
「ええっ!? 外の世界での召喚契約者って、三種類にしか分れてないんですかっ!? 属性は12種類あるのに!?」
『ヴォクージュ』召喚センター、女子寮。
ソフィアさんの一室。
わたくしたちの内なる世界の奥へ奥へ引っ込んでいく兄さまはこの際置いておくとして。
『ヴォクージュ』の王との謁見のための話し合いが行われているわけですが。
ソフィアさんはどうも、驚いたり動揺するとどの、白金色のウェーブのかかった髪が、ぶわっと膨らむようで。
初めは、獣人族ののように毛を逆立てているのかと思っていたのですが。
よくよく見てみるとそれは帯電、静電気が溜まっているようで。
今はローズの事を見てもらっているリーヴァさんの家に代々伝わると言う『時の書に書かれている、救世主のもとに集いし11人の乙女、その最後のひとりとなる『雷』に愛されし娘ではないか、というのは。
私たちの中で既に共通認識となっていて。
そんなソフィアさんがわたくしたちの担当となってくれることは。
いずれパーティーメンバーに誘うのにもちょうどいいと言えて。
当のラルさまは、恐らくそこまで考えてはいない、と言うよりも。
この『ヴォクージュ』の召喚魔法をめぐるルール、体系を体験するのが初めてではない事もあって、大分ご執心のようで。
当初の目的すら忘れていると言うよりは。
夢中になるその先に目的があると言わんばかりに。
わたくしとレミラさん、イゼリさんをお話のメンバーに指定してまできらきらの瞳で(仮面をしていても尚分かるそんなイメージ)、ソフィアさんの話を伺い、分からないところを聞いたりしていて。
「え、ええ。テイムモンスターと言うか、召喚者、魔物や魔精霊などとも呼ばれますが、『獣型』、『人型』、『神型』と大まかに分けて三種と聞いていますね」
「うーん。でもそれってどっちかって言うと魔物魔精霊さんのレベルわけでしょ? というか、召喚魔法ってそもそも契約できるのって、彼彼女らだけじゃないよね」
「と、言いますと? え? テイムモンスター以外に契約できる存在が外の世界にはいるんですか!?
そ、それってもしかして異世界の住人さん、とか!?」
ラル様としては、魔物魔精霊とは言えないリルさんたちを、召喚者として扱ってもいいいのか。
あるいは人間種でも契約相手として(こちらでも)成立するのかを聞きたかったのかもしれません。
しかし、ソフィアさんはお茶を一息で飲み干しつつ、大分興奮した様子でラル様に詰め寄っていました。
「異世界の住人とな。確かこの『ヴォクージュ』をつくった先祖は、異世界から呼ばれたものであったか」
「はい。今は召喚魔法と言えば元々この大陸で暮らすモンスターたちをテイムして契約したものを、『魔精球』の中から呼び出すものが一般的ですが、ここではない異世界に強い力を持つ召喚者たちが暮らす世界があって、私たち召喚術師は、生まれてすぐその世界と通じる、交信できるように教育を受けていました。もっとも、異世界といっても様々あるようで、私たちの祖先が暮らしていたと言う異世界と交信できたことはないんですけど……まさか、やっぱり、ラルさんてそれすら可能だったりしちゃうんですか!?」
先祖がその、力ある召喚者たちの暮らす異世界出身と言うのならば。
その召喚魔法でその世界へ帰るのが、『ヴォクージュ』に暮らす人々の本願なのではと愚考していましたが。
それは正しいのか、目指すうちに毛色が変わってしまったのか、今までその故郷となる異世界のものを呼び出せた人はいないと。
もしかしなくても、ラル様がその最初のひとりなのではないかと。
既にソフィアさんは、大分ラル様に期待を寄せているようでしたが。
異世界の住人の召喚と聞いてすぐに思い出したのは。
水の都にて『闇の一族』が召喚しかけてラル様に阻止された、中々に大きくて強そうな存在……
それこそ魔王や魔神の類かもしれなかったものの事でした。
実のところ、外国に趣いていた『闇の一族』リーダーの一人であるハーゲンさんには、何を召喚するつもりであったのかは伺っていたのですが。
何者であったのかはハーゲンさんも分かっていなかったようでした。
まぁ、最後まで召喚できなかった事ですし、もっと重要な目標は達成できてしまったからとのことで。
過去の事は振り返らない(大分私的に噛み砕いたもの)らしく、結局明確な答えは得られないままでした。
「え? そうなの? それじゃあ水の都で『闇の一族』が召喚しそうになったのは? すっごく魔王、いかにも異世界から来ましたって感じだったけど」
「あー、そうですね。恐らくですけど、それは異世界の住人ではないと思います。何でも地下世界……人によっては大地を貫いて反対側って言う人もいますけど、そこに暮らす巨人族の皆さんではないでしょうか。【地】属性のテイムモンスターさんたちですね」
「……」
それは、人族とも契約できると言う事なのでは、なんて思って。
ソフィアさん、少しばかり勘違いしているのでしょうかと。
【ヴォクージュ】の国にのっとって、召喚契約ができるのかどうか伺おうと思ったところで。
そんな事よりもですよ! とばかりに。
どこか確信持った様子で(何せラル様ですから、その気持ちも分からなくはないですが)。
強くって格好よくて伝説に謳われるような方たちの召喚は可能でしょうか女神さま、と言った視線と言葉がラルさまに降り注ぎます。
何度も言ってはいますが、しかしそのような自覚のないラルさまは。
仮面越しながらもやっぱり大いに狼狽えているようでした。
「いや、うん。申し訳ないけど、お、私にそこまでの力はないよ。仲間の中に何人かは従霊道士、召喚術士がいたから、彼女たちならできるかもしれないけれど」
「そ、そうなんですか!? そんな、異界の伝説のモンスターたちを召喚できる人物が複数人いるんですか? どなたですかっ!? ローサさん!? それともリーヴァさんですかっ? 是非とも後学のために教えていただけると!」
その時、私はそんな風に前のめりに興奮しているソフィアさんに、少しばかり違和感のようなものを覚えていました。
何だか、召喚センターで受付嬢さんをしていた時と様子が異なっているように見えたのです。
その様子は、まるで……。
「うう、ごめんよ。二人とも今ここにはいないんだ。実を言うと私自身、この世界の人じゃなくて、異世界から来ているわけだし」
その後に続く答えが詳らかになることは。
あるいは答えがお出しされるようなことは、この場ではありませんでした。
何故ならば、別に隠すつもりなどラルさまとしても毛頭なかったわけですが。
ラルさまがラルさまと兄さまの故郷からやってきたこと……
ソフィアさんからすれば異世界からやってきた、召喚されてこの地にやってきたと言うのは。
余程の衝撃であったようで。
まるで、長年の悩みから解放されたかのような。
つい先程どこかで見た気のするお顔をされていた事もありますが。
そのままラルさまがわたくしたちにとっても興味深い、こちらへとやってくる前の事をお話してくれたからで。
「そうか、そうだね。いつもなら『虹泉』っていう生きているとも言われるマジックアイテムを使って、
世界同士を移動していたんだけど、今回はちがったからね。急いでいたというか慌てていたから、こっちへやって来た手段、この世界の誰かに呼ばれた、召喚されたのかもしれないってことは否定はできないよね」
「ああ、やっぱり! 女神さまをお呼びになる宿願が、叶ったんだ!」
「いややっ、その、えと。そんなんじゃないってば」
仮面をしていても滲み出る、ラルさまの女神様オーラ。
感極まるソフィアさんに、そんな仮面越しでも分かるラルさまの狼狽えっぷり。
「ふむ、普段とは違う手法とな? その辺りのこと、詳しく聞いても?」
「あ、うん。見ての通り、今の私って分け身みたいなもので、本来の自分は動けないんだけど、そこにその、ええと、気まずいっていうか、できればあまり会いたくないなぁって人が来る気配がしてね。とりあえず、取るもの取らずそこから逃げ出そうとしたんだけど、その時に足を滑らせちゃって。随分高いところだったから、どうなることかと思ったけど、こうして無事だったのは、この世界の誰かが呼んでくれて、拾い上げて助けてくれたから、だと思うんだ」
「……ええと、その。だ、誰がラルさまを呼んだんだろうね?」
恐らく、イゼリさんはそんなラルさまが、まごまごもじもじしつつ照れている相手の事を聞きたかったのでしょう。
ですが、その直前でわたくしが、それ以上は兄さまが昇天して消滅してしまいそうなので、止めてくださいましと訴えると、そんな風に話を逸らしてくれて。
「誰、と言うのを特定するのはむつかしいかもしれませんね。何せ召喚の女神さまにご降臨いただくことは、この世界の召喚士たちの悲願であり夢ですから! 敢えて言うなら召喚士全員です!」
成る程、合点がいきました。
ハーゲンさんたちがラルさまに懲らしめられ会心したその後。
魔王某を召喚しそうになった事の動機を伺ったところ、最早目的は達した、などと口にしていましたが。
これもソフィアさんが感極まっているように、『ヴォクージュ』の召喚士たちが。
これほどまでに召喚魔法を追い求めていたのは。
祖先が異世界の存在であることも含めて、世界間を移動できる超越者、女神様を追い探し求めていたからなのでしょう。
「え、ええと。そのう、私そんな、ソフィアさんの言うような人じゃないんです。魔道具商人になりたかっただけのふつうの魔法使いですから」
「……なるほど。それが世を忍び救世行脚するための仮の姿と言う事なのですね!」
「ふつう? 普通だとラルどのが? ふむ、中々に面白い冗談を口にするものだ」
「普通って言葉、ボク間違えて覚えてるのかな。ホントは金輪際現れない、究極で至高の女神さまってことだったんだ」
「もう! レミラさんもイゼリさんも! そんな事言うならふつうにもふもふの刑にしちゃうからねっ」
もしかして、今回のメンツは宴もたけなわになってきたらラルさまがモフモフタイムをこなすために集められたのか。
最早身体の一部となっている、ラルさまからいただいたもふもふ装備を。
どさくさに紛れてソフィアさんにも渡しているのを目の当たりにして。
そんなラルさま本人にいろいろ自覚がない事も含めて。
やはりラルさまには『ふつう』と言う言葉が誰よりも似合わないなぁ、などとしみじみ思わずにはいられなくて……。
SIDEOUT
(第118話につづく)




