10 眠る恐竜
ミトは、広々とした野原をあてもなく歩き回っていた。隣には巨大な線路橋が建っている。今夜は雨が降りそうだから早々に泊まる場所を決めて落ち着きたい。ミトは遠くにぽつんと建っている倉庫を宿に決めた。
近くまで行くと、屋根の下に寝転んでいる少年がいることに気がついた。ミトより年下のような、まだ十も越えていないんじゃないかとも思えるその少年は、目を閉じたまま
「ここ鍵が閉まってるよ。ほかの入り口も見当たらない。中には入れないけど、屋根の下でも夜露はしのげるよ。」
と言った。
見ると扉には大層重そうな錠前がかかっており、なるほど子どもの力では開きそうもない。でも、
「確かに頑丈な錠前だが、作りはそう難しくないぞ」
え、と少年が声を上げるのと同時に、ミトは足元に落ちている細かいガラクタの中から細い針金を一本拾って、鍵穴に突っ込んだ。
思った通り、古くて単純なタイプの錠前のようだ。かちゃかちゃと針金を出し入れするミトの隣に、いつの間にか先ほどの少年が起き出してやってきた。小型のライトでミトの手元を照らしながら、
「すごいや、本当に開くの?君、何者?僕と同じ孤児かと思ってた」
といった。
「正解だよ、ただの孤児だ。そう言えばお前、俺のことを見もしないで話しかけてきたけど、なんで孤児だとわかったんだ?警察とかだったらさっさと逃げないととっ捕まってたぞ」
ミトが手を動かしながら言う。
「ふふ、僕ね、見なくてもわかるの。足音とか、衣擦れの音とか、匂いとか、それこそ気配とかで。君のことは60メートルくらい先から、きっと大丈夫な人だって気づいていた。なんなら、寝てても気づくよ、本当にやばい人相手なら、ね」
「そりゃ、便利な能力だな」
言い終わるのと同時に、ガチャン、と重い音がして錆びついた錠前が外れた。
「わあ、開いた開いた!すごいや、ねえ僕も一緒に中へ入ってもいい?」
少年は興奮気味に尋ねる。
「良いも何も、ここは俺の倉庫じゃない。それに、先にここにいたのはお前だろう。俺の方こそ、聞くべきだったな。俺もここに入ってもいいか?」
「もちろんさ。君のことは、20メートルくらい先から、きっと僕と同じ孤児で、しかもすごく気が合っていい友達になれる奴なんじゃないかって、わかってたよ」
少年は満面の笑みをたたえながら扉を開ける。ミトは、その言葉が冗談なのか本当なのかわからず少し考えてしまった。
中に入って、二人は絶句した。どうせ持ち主も処分代を惜しむような、取り残された空っぽの古倉庫なんだとばかり思っていたが、中には何と小型の宇宙飛行船が眠っていた。
「…すごいや」
白くて巨大な翼を眺めながら、少年は感嘆の声を上げる。今朝、駅の出口で拾った新聞で見た船のような新しい型じゃない。それどころか、結構古いタイプなんじゃないだろうか。それでも保存状態は良好で、その立ち姿はまるでうずくまっている眠たくて寂しい恐竜のように美しい。
どこかの星から来て、そのまま乗り捨てられたのだろうか。こんな倉庫に入ってたってことは、この持ち主はまたこれに乗って自分の星に帰るつもりだったのだろうか。でも、この船や外の錠前の状態からしても、ずいぶん時間が経っているはずだ。
「あ、名乗り忘れてたけど、僕はトーマ。トーマ・ホールキン。君は?」
「…俺は、ミト・ジーノ」
「そう、よろしく、ミト」
その瞬間、俺は予感のような未来の想像をした。いつかこの船で、こいつと二人、色んな場所へ行って冒険して、この世界の禁じられた過去を捲ってみよう。二人でなら、それができる。
「起きて――、起きなさいよ―――!今日は研究所に行くンでしょ、せっかくポルおばさんが二人のこと紹介しておいてくれたンだから、遅刻しないでさっさと行きなさ――――い!!」
威勢のいいテンネの声に、ミトはベッドから転がり落ちそうになった。頭の中にはいつものもやもやした模様は見えず、さっきまで見てた夢の余韻が残っている。
何だって、今さらあんな夢を。もう4年以上も前になるのか、まだ俺は13歳だった。そうか、トーマが昨日『船を作るための部品のかっぱらいをしてた頃云々』とかいうからだ。あれ、でも、どんな夢だったっけ…
「おはようミト!さあさあ、早く支度して!今日は研究所だよ!」
ミトの真横では、もう着替えも済ませた2歳年下のトーマが、その童顔をますます幼く見せるようなきらきらした目でミトを待っていた。
「おはよう、トーマ。お前、いくらなんでも10歳は越えてるんだよな?」
「はあ?何言ってんのミト。僕は今年で16だよ」
さっさと顔でも洗って、目を覚まして来たら?と、トーマに半ば追い出されるようにして洗面台に向かうミトは、薄れゆく夢の記憶を何とかたどって、当時のトーマの顔を思い出した。どう見ても、12歳には見えなかったよな。




