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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第3章 決着
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71/150

3月4日(日)  ☀1☀

「おはよう」


「おはよう、紫。ごはんできているから、顔洗っておいで」


 休日なのに、珍しく八時過ぎに目を覚ました。たまには実家で朝を迎えるのも悪くない。普段の生活でのあらゆるやっかい事から離れて、心をのびのびさせる事ができる。武下定秋にふられてからの一ヶ月半…。こんなにリラックスできたのは初めてかもしれない…。もっと早くここへ来ればよかったな…と納豆をかき混ぜながら感じた。やっぱり、納豆はひきわりに限る。


「紫、お見合いの日は二週間後の十七日でいいかしら?」


「昨日もそれでいいって言ったじゃん…」


「そうだったね。もう、この歳になるとすぐ忘れるから、母さん、嫌になっちゃうよ」


「いやいや、人に何かを教える人が物忘れひどいとか、マジであり得ないから…。母さんはまだまだ現役なんだから大丈夫だって…」


「そうね…。確かにそうかもね…」


 狭い一軒家とは言え、一人で暮らすには広すぎるだろう…。紫はふと、テーブルで一人寂しく食事をする母の姿が浮かんだ。そりゃ、高校で臨時教員をするだろう。休みの日にはひんぱんに娘に電話するだろう。そうでなければ、短歌や俳句の集まりに顔を出したり、芝居を見に行ったりするだろう。


 元気なうちはまだいい。もしも、急に病気で倒れたり、ぼけ出して介護が必要になったりした際は、紫が全てを投げ出して、母のそばにいないといけないだろう。


 ビオランテ出版の井出のように…。ましてや、父のように突然違う世界へ行かれてしまった際には、紫は独りぼっちになる。別に天涯孤独になる訳ではないが、これまで大して親戚付き合いもしてないから、母がいなくなったら、残念ながらもっと疎遠になるだろう。


 遠くの親戚よりも近くの隣人の方がよほど頼れるに違いない。こんな時、兄弟姉妹が一人でもいれば、また違っただろうにと思わずにはいられない…。少なくとも結婚すれば、もしものときも独りぼっちになる心配はなくなる。

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