3月2日(金) ※3※
「やっぱり、バチが当たったのかな…」
「武下君がそう思うなら、そうなんでしょうね。ところでさ、私、こんな愚痴を聞くために来た訳じゃないの!」
武下定秋はただ首を傾げていた。それから、どうすることもできず、グラスに残ったビールを一気に飲み干す。それから、決心したかのように、紫を凝視する。紫は視線を反らした。
「紫はメガネを外してから、本当にきれいになったよ。こんなことに今さら気付くなんて、俺は本当に馬鹿だな…。紫、俺ら、もう一度、やり直さないか? もう二度とこんな馬鹿なことはしないと約束しますから…」
紫はあきれて、何も言えなかった。男って、どうしてこんなに馬鹿なんだろうか。己の愚かさに気付いて、自ら水戸あおいと決別した上で戻ってきたなら、まだ分かる。
しかし、水戸あおいに捨てられた寂しさから、よりを戻そうとしているのだから、明らかにふざけている。馬鹿にするもの、本当にいい加減にして欲しい…。こんなことをされたら、百年の思いも一瞬で冷める。
「馬鹿じゃないの?」
「……」
「この二ヶ月間、武下君を大人しく待っていたとでも思っていたの? そんなはず無いでしょう…。私を馬鹿にするものいい加減にしてよ。武下君にとって、私の存在がその程度だってことがよく分かったよ!」
「違う…。違うんだ…。話を最後まで聞いてくれよ…」
「あらあら、それは都合が良過ぎるよ。私が前、どうして別れたのか説明して欲しいと聞いた時は、何も言わなかったのに、私が聞きたくない時は最後まで話そうとするんだね…」
「……」
「私、もう帰るから…」
紫は五百円玉を置いて、静かに席を立った。それなのに、何事も無かったかのように、武下定秋が紫の右手をつかんできたので、紫は力一杯振り払う。紫はそのまま駆け足で店の外に出ようとしたら、奴も追いかけてきた。
「ちょっと、止めてくれない? これ以上、追っかけ来るなら、大きな声だすよ!」
そう言うと奴は急に大人しくなり、弱々しい足取りでカウンター席に戻って行った。紫はようやく武下定秋を吹っ切れたと感じ、少しばかり誇らしげな気持ちで家路に着く。




