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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第1部 東京編  第1章 発端
31/150

1月29日(日) ◆2

この場面でラジオから流れている曲です。

実際に聞いてみると臨場感が増します。


【誰もいない台所/高橋優】

http://www.youtube.com/watch?v=klPQR_GzswQ

 何なの、この曲は…。心の一番もろくなっている部分を力強くわしづかみされるような不思議な感覚…。紫は「誰もいない台所」を聞いて、急に涙が止まらなくなった。なんて切ない曲なんだろうか…。「誰もいない台所を見て急に苦しくなる」と言うフレーズと武下定秋が重なる。


 かつて、武下定秋がこの台所によく立っていた。彼は料理が得意で、ずぼらな紫によく手料理を振る舞ってくれた。そんなこと思い出したくないのに…。どうして、そんなことが鮮明に記憶からあふれてくるのだろうか…。かつて、二人で一緒に料理したことや、彼が紫のために見た目は悪いけどおいしい自作料理をふるまったことなど…。今となっては思い出すだけでも吐き気がするぐらい、嫌な思い出だ。


 台所からあふれた記憶は台所だけで収まるはずもなく、リビングや風呂場などからもたくさんの思い出があふれる。そりゃ、そうだ。五年も付き合って来たのだ。部屋の至る所に武下定秋との思い出があるに決まっている。何で今頃、思い出してしまったのだろう…。


 今更ながらに、紫は強がっていた自分に気付かされた。突然、一方的に別れを告げられた。しかも、長年かわいがっていた後輩にも裏切られた。今まで発狂せずに、いつも通りに生活できたことが不思議なぐらいだ…。


 そうならないように無意識のうちに目をそらしていた。でも、いつまでも逃げ続けることはできない。次に進むためには、必ず一度は現実を直視しなければいけない。それが今だと紫は感じた。まだ、心の傷は深く、心から流れた血で、心は真っ赤な血に染まっている。


 このままではいけないと思って、思い切ってレーシックをして、新しい自分を手に入れたと思っていた。自転車が見つかって、また一つの区切りがついたと思っていた。そうやって、一つずつ区切りをつけていけばいいと信じていた。そうすれば、いつか立ち直れる日がやってくると信じて疑わなかった。


 でも、違った…。「誰もいない台所」を聞いて、実は全く武下定秋のことを全く吹っ切れていない自分に気付かされた。


 本当は付き合っていた頃に戻りたい…。別れたくなんかなかった…。自分を守るために無意識のうちに、自分に嘘をついていた。でも、もう戻れない…、武下定秋の心にはもう紫はいない。彼の心は水戸あおいにとって変わられた。どうすれば、取り戻せるのだろうか…。取り戻せないことが分かるからこそ、一層つらい…。


 紫は食事中であるにも関わらず、音も立てずに泣き続けた。ラジオの音だけがただむなしく響き続ける。もう、そこには休日の優雅な雰囲気は全くなかった…。

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