1月20日(金) 〜その伍〜
「えっ、陽美、退職するの?」
「だって、この業界、もう落ち目でしょう…。無理してしがみついても仕方ないよ。それに私、五月に結婚するから…」
「え〜っ、マジで!」
「ちょっと、声大きいって…。ここ、社員食堂だから…」
昼休み、陽美と紫はいつものように一緒に昼食を食べる。この日は個人面談の話から始まったのだが、陽美の結婚発表により、話は思わぬ方向へ進んだ。
「前から婚活していたけど、今イチだったのよね…。でも、レーシックしてから、急にいい相手が現れて、話がトントン拍子に進んだの。だから、リストラがなくても、三月で辞める予定だったから…」
「どうして、もっと早く言ってくれなかったの? ああ、水くさいなあ…。寿退社かあ…。実にめでたい。しかも、リストラで辞めさせられるから、退職金二五%増しだ。いいこと尽くめだね。陽美…」
ちょっと皮肉っぽくなってしまったが、二日前に失恋した紫に対して、陽美は少し無神経に思われた。当の本人は全く気にすることなく話を進める。
「ああ、そうだね。退職金二五%増しか…。それはよかった。紫、結婚式に来るよね?」
「うん、是非。私も陽美にあやかってレーシックしようかな…」
「おっ、それはいい。レーシックやって、出向先でいい男ゲットだ」
昼からは午前中に密度の濃い時間が多かったせいか、仕事がいつも以上に見に入らなかった。それでも水戸あおいに仕事を押し付けたおかげで、五時半過ぎには一通りの仕事が片付いた、五時半になると金曜日と言うこともあり、もうすでに半分近くいない。必死で仕事をこなす水戸あおいを横目に紫は優雅に帰ることにした。




