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白い部屋と黒い過去  作者: 士ロ田
エピローグ
76/76

その3 噂

 階段を上って、神社の境内に私たちは足を踏み入れた。


「ここは全然人いないね」

「だから来たんでしょ?」


 今日は元日。私と日向ひなたは、冬休みに入る前から計画しておいた初詣に来ていた。


 初詣だからって、別に着物を着たりはしなかった。


 着物なんて持っていないっていうのもそうだし、「着物デートしたい」なんて言ったら日向のお財布に負担を掛けちゃいそうだったから今回はなし。


 きっとこれから先、まだまだ私たちにはそれくらいのチャンスは回ってくるはずだから焦らなくていい。


 日向は性格的にも心理的にも、人とぶつかったりふれたりする可能性がある人混みは、あまり得意じゃない。別に私も有名な神社に行きたい性分でもなかったから、近所の神社でお参りは済ませることにした。


 要するに私たちは今、白百合神社にいる。


 すべての始まり。日向の過去と私の恋をめぐる一連の出来事の起点となった場所。


 日向に白い部屋で告白をした日を最後に、私たちはもう白い部屋を使わないことを約束した。


 理由は2つ。1つは、心理的な余裕がなかったからとはいえ、未知の力を使い続けるのは危険だと改めて理解したこと。そしてもう1つは、私たちにはもう強制的な対話の場所を用意する必要がなくなったこと。


 だから、私たちにとって白百合神社でのお参りは今日で最後となる。


 約半年前。足しげく通ったこの神社も、今となっては懐かしかった。


 461円という手痛い出費を重ねて、優里ゆうり先輩を呼び出し続けた日々。


 先輩は、あの夏を過ぎても私たちに変わらず接してくれている。私たちの関係を告げたとき、先輩はそもそも気が付いていたみたいで、あっさり受け入れてくれた。どうして分かっていたのかは、未だに私には分かっていない。


 先輩は日向と同じ大学を目指していて、相変わらずふたりとも勉強漬けだった。意外なことに、引退した今も暇なときには文芸部に顔を出しているらしい。


 どうやら気にかけている(いや、むしろ向こうから気にかけられている気もするけど)後輩がいるらしく、私のときと同様、手を焼いているみたいだった。やっぱり先輩は面倒見がいい。


 優里先輩以外に私たちの関係を打ち明けたのは、美華みかとおばあちゃんのふたりだけ。


 美華は受け入れるスタンスを取ってはくれているけど、以前ほど美華の口から日向の話題は出てこなくなった。むしろこれが正常な反応だと思う。優里先輩がひょいひょい受け入れるからマヒしていた。


 そして、それはおばあちゃんも同じで、受け入れる姿勢は見せてくれているけど、やっぱり理解に苦しんでいて、自分の価値観と家族愛の間で葛藤していた。


 仮に受け入れられなくたって、この関係をやめるつもりはない。だけど、受け入れられる日を私は勝手に夢見ている。


小景こかげ?ぼーっとしてどうしたの?」


 日向の声で現実に引き戻された。いつの間にかお賽銭箱の前まで来ていたらしい。


「ごめん日向。いろいろ思い出してた」

「ほら、お財布出して。お賽銭」

「そうだった」


 それぞれ5円玉を握りしめて、一緒にお賽銭箱に放る。カランと音を立ててお賽銭箱に消えていく5円玉を見送って、手を合わせて目を閉じる。


(白百合神社の神様?おかげで日向と結ばれました。手を貸してくれてありがとうございました。あの場所をもう私たちの喧嘩の舞台にはしません。ご迷惑をお掛けしました)


 あの噂の正体が神様の仕業なのかは分からないけど、これまでのお礼と謝罪をしておく。その後、普通の新年のお願いをする。


(日向の受験が上手くいきますように。日向がずっと幸せでありますように。そして、その幸せを私も一緒に感じることができますように)


 日向を思いながら、日向との未来を夢見ながら真剣に手を合わせた。


 目を開けると、日向は既にお祈りを済ませていて、私のことを見つめていた。


「終わった?」

「うん」

「じゃあ、行こうか」


 そう言って差し出された日向の手を取り、私たちは白百合神社を後にした。


◇ ◇ ◇


 私、北川瀬奈(せな)には恋の悩みがある。


 同じ高校に進学した親友であるあおいに対して、友情以外の気持ちを抱いていることに気が付いてしまったのだ。


 葵は進学してから、バドミントン部に入ってずっと頑張っていた。それがまたかっこいい。いや、そんな惚気はよくて。


 葵は半年前、3年の先輩に振られてから、より一層部活に力を入れていた。私は傷心の葵に何もしてあげられなかった。


(はぁ、最近はふたりでゆっくり話す時間も取れてないな)


 何か、ふたりの仲が進展するようなイベントでも起きないだろうか。こんなことをぼんやり願っているだけだから進展しないんだ。なんて内なる自分の声を抑える。


 ふと、クラスの女子グループの話題が耳に入ってきた。というよりは声が大きいから勝手に入ってきたんだけど。


(うるさいなぁ)


 その声量を不快に感じていた私は次の言葉に興味を引かれてしまった。


「ねぇ、こんな噂知ってる?『白い部屋』っていうんだけどね」

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