第57話 策略と誠意と私
「じゃあまた来るね、おばあちゃん。小景もおばあちゃんに迷惑かけたらだめだよ」
「分かってるよ」
「ひなちゃん、また来てね」
お昼前。私はまだ泊まるけど、お姉ちゃんは明日はバイトがあるから今日で帰ってしまう。
「あ、それと小景」
「何?お姉ちゃん」
「宿題。映画までに終わらせといてね」
「え~」
「え~。じゃない」
そんな普通の姉妹らしいやりとりをしながらお姉ちゃんを見送った。それにしても映画までに宿題を終わらせるなんて、いつもギリギリに終わらせる私には酷な話だ。まぁ、とりあえず今日は宿題持ってきてないし?明日から、ね。明日から頑張ろう。
「こかげちゃんも今日で帰ったら?」
おばあちゃんの言葉に私は耳を疑った。
「え?」
「もう、ここでしたかったことは終わったんでしょ?」
「な、なんのこと?」
一応とぼけてみる。確かに今回おばあちゃんの家に来たのは、お姉ちゃんのことを調べるためなんだけど、おばあちゃんに会いたいのも本当。
「まったく、それくらい分かるものよ。学校の話してるときもわざと友達の名前出したりしてたでしょ?」
「げっ」
私の些細な仕込みもバレてた。優里先輩はお姉ちゃんの中学のときからの友達って言ってた。だから、おばあちゃんが優里先輩を知ってるかを確認したのと、知ってたときのために、私が優里先輩と仲がいいアピールをした。今のお姉ちゃんの輪の中に私がいることをアピールできれば、おばあちゃんも少しは話しやすくなるかなっていう下心。
じっと私を見つめるおばあちゃんの視線に私は白状するしかなかった。
「分かった、降参。おばあちゃんにはかなわないや。お姉ちゃんが帰った後でいろいろ聞こうかと思ってたの。でも、今日は泊まっていくから。おばあちゃんに会いたかったのもほんとだから」
わざとらしく両手を上げて「参りました」をアピールする。私の悔しそうな表情を見ておばあちゃんは満足そうに口角を上げた。
「ひなちゃんはどこまで教えてくれたの?」
「ママがお姉ちゃんに暴力を振るってたってことと、優里先輩がおばあちゃんにそのことを伝えたってことだけ。なんでママがお姉ちゃんにって思ってるけど、そこは教えてくれなかった。おばあちゃんは教えてくれないの?」
ダメもとで聞いてみるが、案の定おばあちゃんは首を横に振った。でも、その理由は私が想像していたものとは違っていた。
「実はね、私も知らないのよ。なんで夕実がひなちゃんにそんなことしたのか」
そっか、おばあちゃんも知らないんだ。おばあちゃんは最終的にお姉ちゃんを救った存在ってだけで、すべてを知るキーマンってわけじゃないんだ。
じゃあ私がもっと詳しく知ろうと思ったら、ママに聞かなきゃいけないの?さすがにそれはできない。今は寮で一緒に住んでいないからいいけど、さっきの話を聞いてしまった以上、昔のように接することはできないし、隠せる自信がない。
「分かった。じゃあ他のこと聞かせて?」
「何かしら?ひなちゃんがまだ言わないって決めてることなら、おばあちゃんも言わないかもよ?」
「ダイジョブダイジョブ。そんなことじゃないから。優里先輩のこと知ってるんでしょ?そのときの優里先輩のこと、教えてよ」
「こかげちゃん、本当に優里ちゃんと仲がいいの?」
げっ、おばあちゃんは本当に鋭いな。私は内心渋い顔をしながら、それをなるべく表情には出さずに答える。
「うん。仲良いよ。勉強も見て貰ったりしたし、部活の大会見に来てくれたりもしたし、ここ最近なんか、お姉ちゃんより優里先輩との方が多く話してたんじゃないかな?」
嘘は言ってない。優里先輩とは、私がちょくちょく白い部屋に呼び出して雑談をしていたから、お姉ちゃんと話す機会よりも実際多い。それに先輩がお姉ちゃんにしてくれたことを知った今となっては、今までより尊敬できる先輩になった。
「そう?じゃあ話そうかしら。でも、あのときの話は長くなるし、そろそろ部屋に戻りましょ?」
そう、まだ私たちは玄関にいる。リビングに戻って、冷たいお茶をふたり分用意する。コップに入った氷が鳴らした「からん」という音を合図におばあちゃんは話し始めた。
◇ ◇ ◇
「おはようございます。優里先輩」
おばあちゃんの家から戻った次の日。ここは白い部屋。優里先輩はこの状況に「またか」という表情を浮かべる。
「一週間ぶりくらいかしら?どう?宿題は順調?」
「……はぁ、みんなしてそれを聞いてきますね」
「それは小景がやってなさそうだからでしょ」
「まぁ、その通りなんですが」
「それで?今日は何の用?何回聞かれても日向のことは話さ――」
私は優里先輩の話を遮るように頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「は?」
「私、お姉ちゃんから聞いたんです。中学のときのこと。優里先輩がおばあちゃんに助けを求めてくれたって。おばあちゃんからも聞きました。お姉ちゃんだと思って電話に出たら優里先輩が息切らしながら助けを求めてきたって。だから、ありがとうございました」
言い切ってもう一度頭を下げる。
「そう、日向から聞いたのね?」
「はい、お姉ちゃんから聞きました」
「日向が決めたのならもういいわ。でもせっかくだからはっきり言っておくわね」
そう言って優里先輩は一呼吸置いて私を睨みつける。
「私はあんたのことが嫌いだったわ」




