表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まだ名もなき怪物達 第3部ー断翼の誓ー  作者: HANA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第5話 曇天


隊室は、いつもより少しだけ騒がしかった。


「蒼真さん!!復活っすか!?」


ガタンッ!!


勢いよく椅子を蹴って立ち上がった奏が、一直線に蒼真へ突っ込む。


「うるせぇ」

蒼真は奏をいつものように片手で制した。


「声でかい」

「いやだって!!死にかけたじゃないっすかこの前!!」

「死んでねぇよ」

「いやあれ普通死ぬっすよ!?」

横から白石がぼそっと入ってきた。


「うん、普通は死ぬ」

「やめろ」

「で、大丈夫なの、腕?」

白石が視線を落とす。

蒼真の腕は包帯は外れているようだ。


「まぁな」

握力と腕力は熱が下がると共に2.3日で元に戻っていた。

皮が剥けた部分は麗華がテーピングで補強してくれて、動作も問題ない。


「てか蒼真さん復帰早すぎじゃないっすか?」

奏がじっと見てくる。

本当にもう大丈夫なんすか?普通もっと休みますよ?という視線だ。

「暇だった」

「理由がヤバいっす」


その時だった。

ガチャッ。

扉が開き全員の視線が一斉に向いた。

「……あ」

奏の顔が一瞬でニヤける。

「来た」

白石が小さく呟く。

蓮は何も言わないが、視線だけが動いた。

雨宮は特に気にして居なさそうだ。


「……何」

麗華だった。

いつも通りの顔。

でも部隊室にいるのは、やっぱり少し珍しい。


「いや別に!?」

奏は挙動不審で慌てて自分の席へ逃げていった。


「仕事で来たんだけど」

麗華は短く言うと、そのまま蒼真の方へ歩く。


「…これ、薬品と治療器具の申請書お願い」

「ああ、了解」

「あと、薬忘れてたよ」

申請書と共に蒼真に手渡されたのは風邪薬の入った紙袋だった。


「……すんません」

久しぶりの出勤で荷物に入れるのを忘れてた。と言いたい所だが、実際は忘れてしまえば飲まなくても怒られないのでは?と確信犯で置いて来ていた。

「まったく」

呆れた顔をして麗華は部屋から出て行った。

そのやり取りを見ていた奏が、小声で言う。

「……なんかこの空気、久々っすね」

蒼真さんを茶化したいとでもような奏の視線に

「黙ってろ」

白石が即座に制した。


「さて、行くか」

「はーい」

「ぇ、何?」

蓮の声と共にみんなが装備の着用を始めた。

蒼真はきょとんと任務??と首を傾げている。


「合同訓練だと」

蓮が休んでいた蒼真に連絡するのを忘れてた。と言う


「他機関合同。山岳・都市混合想定合同訓練。だってさ〜警察消防がうちの訓練見たいらしいよ〜。渓谷と洪水の救助、メディアから総統もインタビュー受けて出たからさ、他も必死なんだよ」

白石が、でもめんどくさいね。と笑う。


「ちなみに救助する神代の猿姿は全国のテレビに流れたぞ」

ボソッと雨宮が呟いた。


「あのニュース、録画しました!蒼真さん、めっちゃかっこよかった〜ついでにSNSでも銀髪のイケメンヒーローでバズってます!!」

奏で目を輝かせている。


「……自分の知らない所で拡散されてる…」

蒼真はガクッと肩を落とした。

「……最悪だろ、それ」

しかし、すぐに顔をあげると首を鳴らした。

「……まっ、いっか」


「珍しく諦めた」

蓮が珍しい事もあるもんだ。と驚く。


「訓練で体動かして忘れる!」

「脳筋かよ……全力でやんなくていいぞ」

蓮が蒼真にだけ聞こえるようにぼそっと言う。

風邪薬をまだ飲んでいるということは体調は万全ではないのだろうと思うのは当然だ。

「はいはい」




演習場は、やけに静かだった。

整列した各機関の隊員たち。

その視線の先にいるのは——第一特務遊撃隊。


「……あれが黎明か」

「聞いてたより普通だな」

「いや、普通に見えるだけだろ」

ひそひそとした声が漏れる。


「視線がうるせぇな」

蒼真がぼそっと言う。

「見られる側だからな」

蓮は淡々と返した。

「まぁいい」

蒼真は軽く肩を回す。

その直後——

「……っ、コホッ」

小さく蒼真が咳き込んだ。

「おい」

蓮の視線がすぐに向く。

「平気」

即答した蒼真だが、体調にはまだ不安は残っていた。だからこそ麗華が薬を持ってきたわけだが…。

「蒼真さん、大丈夫っすか?」

奏が顔を覗き込んできた。


「近い」

「いや顔色悪いっすよ!?」

「うるせぇ」

「絶対無理してるじゃないっすか!!」

白石がため息をつく。

「……やめといた方がいいと思うけどな」

「何を」

「訓練」

蒼真は少しだけ考え込むと蓮に声を掛けた。

「俺、なんか1つでいいわ」

「……予定は滑降、登攀、組み手、射撃。まぁ射撃は雨宮さんが出るけど」

「……組み手」

蒼真がぽつりと呟いた。

「わかった。相手は俺な」

「おう」


自分が組み手を選べば、蓮も乗ってくるのはわかっていた。


「準備、開始!」

号令が響くと空気が一気に引き締まる。


最初の種目は、斜面降下。

ロープを使った高速滑降。

他機関の隊員がざわついている。

「結構な角度だな……」

「雨の影響で滑りやすいぞ」

高速滑降が出来るのは部隊でも蒼真と蓮しか居ないため、蓮が実践演習に入る。


蓮は1度大きく息を吸うと一瞬で、姿が消えた。

「は?」

「速っ……」

精度が異常だ、動きに全く無駄がない。

着地も殆ど音がしなかった。


「え、何あれ」

「人間?」

「いや無理だろ」

「……あの人!こないだ無線でさっさと降りろって言ってた人だよ!」


奏がニヤニヤしながら言う。

「まだまだっすよ?」

そのまま飛び出し、滑降していく。

高速滑降は出来ない奏だが、第一に配属されるだけの事はある。

全員が降りきった頃には、他機関の空気が完全に変わっていた。


「……次、登攀」

指示が飛ぶ。

今度は上へ同じ斜面を登る。

蓮を先頭に一気に登り出す部隊。

蓮のスピードは凄まじかった。


「奏はまだ届かねぇな…」

蒼真が1人、他部隊の隣で見守っていた。

蒼真の声が聞こえた他機関の人がビクリと肩を揺らした。


「テレビの人だ…」

「SNSのバズってた人…」

「銀髪イケメンヒーロー…!」

そんなざわつきが蒼真の耳に届く。


「……死にてぇ……」

「神代〜有名税だ〜」

白石が訓練中にも関わらず軽口を叩いていた。

「うるせー!!副隊長様からの命令だ!!あと3秒で登れ!!」

「鬼ー!」

第一特務遊撃隊の滑降と登攀が終わり、他機関の選抜も実践に入った。




空気が一段階、変わった。

さっきまでのざわつきとは違う。

——純粋な緊張。


「やるか?」

蒼真が軽く首を回す。

まだ少しだけ呼吸が荒い。

「……ゴホッ」

「え、マジっすか!?」

奏がテンション上がる。

「それ一番ヤバいやつっすよ!?」

「「今日こそ勝つ!」」

蒼真と蓮は2人同時に返した。


向かい合う。

蒼真と蓮。

距離は数メートル。

静かだ。


「……行くぞ」

蓮が低く言う。

「いつでも」

蒼真が返す。

次の瞬間—、動いたのは、同時だった。


ガッ!!


踏み込み。

距離が一気に消える。

拳がぶつかる。

受け流す。

蹴り。

捌く。


「速っ……」

「見えねぇ……」

周りがざわつく。

蒼真の動きは鋭い。

だが——

ほんの僅かに、呼吸が乱れている。


「……ハッ…」

一瞬の隙を見逃さず蓮の蹴りが入る。

「っ……!」

蒼真が後ろに流れる。

ギリギリで体勢を立て直す蒼真。


「ほら見ろ」

蓮が低く言う。

「万全じゃねぇ」

「関係ねぇ」

蒼真は笑いながら、そのまま踏み込む。

低い姿勢から一気に距離を詰め、フェイントで崩す。


ドンッ!!


蓮の体が半歩だけ動いた。

「……あの2人とは本当に組み手したくない」

雨宮が呟いた。

「あいつらマジの別次元なんだよね〜」

白石も呟く。

「昔よりパワーアップしてるっ……!!」」

奏が何年も見届けてきた2人の組み手。

勝敗はいつもつかなかった。


「……ゴホッ、ゴホッ!」

蒼真がまた咳をした。

これ以上は悪化しそうだが…止まらない。

いや、久しぶりで楽しくて2人とも止まれない。

数秒、いや、数手。

それだけで分かる。


——互角。


「……やめだ」

蓮が距離を取る。

手を下ろす。

「え、終わりっすか!?」

奏が叫ぶ。

「十分だ」

蓮が短く言う。

「これ以上は意味ねぇ」

蒼真も息を整えながら笑った。

「……はぁ……っ……」

周りは完全に静かだった。


「……レベル違いすぎるだろ」

「なんだあれ……」

「同じ人間か?」


その空気を切るように、

「次、射撃」

声が落ちる。

——パンッ。

音だけが遅れて響いた。

雨宮の放った弾丸は1mmの狂いなく的へ。


演習場のざわめきは、なかなか消えなかった。

「……マジでなんなんすかあの人達」

「理解しようとするな、無理だ」

そんな声があちこちで飛び交う。



「戻るぞ」

蓮の一言で、第一特務遊撃隊はその場を離れた。

本部へ戻る廊下。


いつもの風景。

いつものはずの空気。


「……静かだな」

蒼真がぼそっと言う。

「何が」

蓮が返す。

「人」

確かに、いつもより人の数が少ない。

「出払ってるんだろ」

白石が言う。

「任務が多い」

「……多すぎじゃね?」

奏が眉をひそめる。

「さっきも別の隊が出てったっすよ?」

「時期的なもんだろ」

蓮は淡々と返す。


だが——

ほんの僅かに、視線が動いた。

その時だった。

無機質な電子音が廊下に響く。


——ピピッ。


全員の動きが止まる。

「第一特務遊撃隊、至急応答願う」

無線からいつもの声が聞こえる。

いつもより焦りが含まれているように感じた。


「こちら第一」

蓮が応答すると

『任務通達』

間髪入れずに続く。

「山岳区域にて遭難者複数。3日前から降雪、悪天候継続中』

その一文で、空気が変わった。


「また山か」

白石が言う。

「……タイミング悪すぎじゃないっすか?」

奏の声が少しだけ低い。


『現地の救助隊では対応困難。第一、第二の出動を要請』

「第一、了解」

蓮が答えると通信が切れる。

「……連続か」

蒼真が呟く。


洪水の次に、山岳。しかも悪天候。


「まぁいい」

蒼真は軽く首を鳴らした。

「行くだけだろ」

「その状態でか」

「問題ない」

白石が小さく息を吐いた。

「……嫌な流れだな」

「何がっすか?」

奏が聞く。


「全部」


短い答え。

廊下の先。

外はまだ曇っている。

雨は止んだはずなのに——

空気だけが、重かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ