第15話 花
読んでいただいてありがとうございます。
大団円にしたいです。
目が覚めるとそこは青いパステルカラーの空にぼんやり浮かぶ白い雲、その隅っこをスズメが二羽、じゃれあいながらちゅんちゅんと羽ばたいて飛んでいった。
ここは、どこだ?
俺は藤堂輝之、十九歳、まだどう……独身――
「お、目が覚めたか?」
空を遮り影を作ったのは、俺を見下ろすナダさんの顔だった。
「わあ」
びっくりして目が覚めた、俺は今まで倒れていたらしい、そうだ俺は、次郎さんと体をヒュージョンして、それで……。
「大クモは、それにナダさんも怪我は大丈夫でしたか⁉」
「クモなら完全に駆除されたし、俺の怪我なら心配ねぇ、ただのかすり傷だ」
ボロボロになっているナダさんのおでこも、出血は治まってかさぶたになっている。二の腕はまだスカーフが巻かれて血がにじんでいるけれど、ナダさんは平気そうに指をコキコキと動かして見せた。
「お前はどうだ、体は無事か?」
どうやら俺は、次郎さんと一緒に大クモを退治した後、そのまま倒れてしまったらしい、すぐに次郎さんから離され俺は夜通し眠っていたらしい。
「はい、まだ体は重くてだるいですけど、こうして横になってると大丈夫です」
きっと俺はリミッターを振り切り、限界を余裕で超えるくらいの体力を使ったのだろう、全力疾走でフルマラソンしてもそこまでしんどくはならないと思うくらい、今の俺のライフはボロボロだった。
俺の体にはナダさんのコートが掛けられていた、ナダさんだって寒かったのに、俺のためにごめんなさい。
「謝る必要はねぇ、おかげで大クモを倒す事が出来た」
「もう心配いらないわ、すべて終わったのよ」
ナダさんの向こう側にはくるみさんも座っている。
そっか俺たちは勝ったんだ――そう安心して改めて気が付いた、今俺ナダさんに膝枕されている。
俺たちは、黒く朽ち果て横倒しになった材木を椅子代わりにしている、ここは燃え尽きて瓦礫と化した民宿ひなたの跡地だ。
「な、何でナダさんなんですか、せめてくるみさんが良かっ――」
最後まで言い終わる前にナダさんに張り倒された。
「トド、おきた」
「はい、心配かけてごめんね」
俺が目を覚ましたことに気付いたサクラさんが瓦礫の上をぴょんぴょんと渡って駆け寄ってきた、後ろには人間の姿の次郎さんもいる。
「ナダ、おはなさいていたよ」
サクラさんはその手に小さな黄色い花が握られていた。
「ありがとう、サクラ」
それは、俺にじゃなくてナダさんに渡すんだ……。
「あの、もう大丈夫でしょうか?」
次郎さんが、未だに横になったままの俺を心配そうにのぞき込んできた。
「はい、体はまだダルくていまいちだけど、もう大丈夫です」
「そうですか、あ、あの時はとっさの事だったので、あなたの許可も無しに体を乗っ取てしまって、その、ごめんなさい」
体を半分に折りたたまん勢いで頭を下げるムカデさんに、俺は横になりながらなだめる。
「いや、いいんですよそんな事、結果的にあのクモ妖怪も倒す事が出来たんですから、次郎さんのおかげですよ」
「そんな、僕の力だけなら、あんなプロレス技なんてできませんでした」
「それを言うなら俺だって、ムカデさんの力が無かったら、あんな技を繰り出せなかったです」
お互いの力が重なって引き出せる事で初めて、大グモを倒すパワーが生み出されたんだ、すごいな、凄い体験をしたよ。
それにしても、人生初ハグがムカデだったなんて、女の子にさえハグされた事も無かったのに。
「チッ」
何でそこでナダさんが舌打ちするんですか!
その時、見知らぬバイクが、未舗装で不安定な道なんかもろともせず、颯爽と坂道を駆け上ってくるのが見えた。
誰だろう、ってかそのバイクは普通の原付バイクではなくて、フロントの透明カバーがヘッドライトの上からそのまま屋根になって伸びていて、後ろのタイヤが二つ付いている、ピザの配達なんかでよく見かけるやつだ。
こんな田舎でそんな面白バイクに出会えるとも思えなかったし、しかも運転している人はどう見ても普通の服装じゃない。
風になびく白いひげ、黒い着物にオレンジの前掛け、どう見ても住職の袈裟姿。
そんなバイクの運転手は俺たちのそばでバイクを止め、シワシワの細い腕で白地に真ん中にオレンジの太いラインの入ったハーフヘルメットを脱ぎゴーグルを外す、やっと顔が見えた。
「おう、これはこれは錦灘龍市とゆかいな仲間たち、こんなところで会うなんて奇遇じゃのう」
龍焔寺の和尚だった。
「わざとらしい挨拶してんじゃねぇよ」
「先日は楽しい元気な語り部、ありがとうございました」
「おや、君は龍市と一緒に来た派手なジャンパーと派手な茶髪の割には大人しくて目立たない、ワシの語り部を口ポカンで見ていた青年じゃな」
そんな説明いらない。
「おやね」
サクラさんだ、この屋根付きバイクが珍しいのか、バイクに近付き屋根を見上げたり中をのぞいたりと、興味津々だ。しかも次郎さんまで一緒になって眺めている。
それを見た住職はカカカと笑って言った。
「かっこいいじゃろう、この屋根があるおかげで、髪の毛が乱れずに済むんじゃ」
「――ぇ……」
次郎さんドン引きしないであげて、サクラさんも無反応なきょとんとした顔は止めてあげて、そこは笑ってあげて、住職渾身の自虐ネタだから。
きっと今までそう言って檀家さんたちの笑いを取っていたんだろうね。でも今は相手が悪かったんだよ落ち込まないで。
「お主に慰められずとも、落ち込んではおらぬ」
そう言うものの顔が引きつってますよ。
「ケガはどうじゃ、大丈夫かの?」
笑いを取るのは諦めて、ナダさんに近付き声をかけた。
「あぁ、あの時は恩に着る、助かったよ」
あの時、ナダさんが大クモ相手にけがをしてピンチになった時のあの矢は、やっぱり和尚の放った矢だったんだ。
「和尚、お久しぶりですわ」
和尚はくるみさんを見て目を丸くした。
「相変わらず変わらんのぅお主は」
「はい、おかげ様ですわ」
和尚はほっほと笑うと、懐から取り出したのは、立派な茶色い数珠だった。
「準備はよいかの、皆の衆」
「あぁ」
そう言ってナダさんは、俺を起き上がらせると、そばに置いていたスケッチブックを取り出した。
何だろうと思って見ていると、そこに描かれていたのは、民宿ひなたの女将さんとその娘さん、ひよりさんとひなたちゃんの絵だった。
鉛筆描きだったが凄く綺麗でそっくりに描かれている、二人共幸せそうに寄り添っていた。
ナダさんが書いた絵だ、そのページを切り離し、折りたたんで大きな鳥の姿に仕上げた。先ほどサクラさんが摘んできた小さな花を添えて。
「では今から、送って差し上げます、皆もちゃんと見送ってあげて下され」
和尚が数珠をじゃらじゃら鳴らしながら、お経を唱え始めた。
優しい風は吹き、ナダさんが差し出した掌から、大きな鳥が羽ばたき空に舞う母と娘。
「そら、安心して成仏しろ」
「僕の力が至らないために、何度も苦しい思いをさせてごめんなさい」
「気持ちのいいお風呂ありがとうございました、ご飯もすごく美味しかったです」
「天国でも楽しく過ごしてね」
「バイバイ」
皆思い思いの言葉で母と娘を見送る。
鳥は何度か俺たちの上空を迂回していたが、やがてその羽根を大きくはばたかせて高く高く天に舞い上がり、光の中に溶けていった。
「逝ったようじゃな」
和尚の声も光に中に溶けていった。
「ところでお前さん、これからどうするつもりかのう?」
数珠を懐に仕舞いながら和尚が言った目線の先は、俺たちじゃなく、くるみさんだけに向いていた。
少々お節介かもしれんが、と前置きしたところを見ると、和尚もくるみさんの正体を知っているんだな。
和尚だけでなくみんなの視線を一身に受けたのに気付いたのか、くるみさんは「そうね」と言いながら立ち上がって、眩しそうに空を見上げた。そこはさっき民宿親子の逝った先だ。
「私も、いつかはそこに行くことになるんでしょうけれど」
手で廂を作り空を仰ぐくるみさんの体は、今にも光になって溶けてしまいそうな、そんな危うい儚さを感じる。
「くるみさん……」
「実際、いつそっちに行ったとしても、後悔もないし未練も無いわ、今でもあの子が現れて、ひと思いに連れて行ってほしいと思った事だってあったのだけど……」
そう言うとくるみさんは静かに手を降ろして、俺たちの方に向き直った。
そして、瓦礫の隅に置かれたくるみさんの荷物を取り出すと、中からいくつかの包みを取り出した。それを俺とナダさんとサクラさんにひとつずつ手渡してくれた。
パシャパシャと軽やかな音のする包み紙をほどくと中から現れたのは、茶色のもこもこマフラーだった。しかも手編みだ。
この間からくるみさんが編んでいたのはこれだったんだ。
「わぁ、凄く温かいです、くるみさんありがとうございます」
首に巻いてみたらふんわりと暖かい、しかもナダさんとおそろいだった。
「わぁーい、マフラー」
サクラさんにはピンク色で、両サイドには可愛いポンポンまでついている。凄く似合って可愛いなぁ。
一人無い人がいますよね。
俺たちのマフラーを、羨ましそうに見ている次郎さんが居た、ムカデ次郎さんの分が無い、出会ったのは昨日だ、まだ編めるはずがない。
「だから、もう一つ編まなきゃいけなくなったの、悪いけど、もう少し待ってね」
そう言うくるみさんは、でも見ていたのはナダさんでも次郎さんでもなく、目線はもっと別の方、俺のまだずっと後ろを見ている。
俺は慌ててくるみさんの目線の方へと振り返る、そこはもう何もない民宿ひなたの跡地が広がるだけだったが、でも一瞬見えた気がする、黒い影が――。
「だから次郎さんの分も今から編んであげるわね、待っていてね」
次郎さんに笑顔を向ける。
「ぼ、僕なんかに、有難き幸せにございます、でもこのムカデ次郎、たとえ十年二十年かかろうとも、いつまでも待っている所存にございます」
ムカデさんは感動したのか、くるみさんの手を取りながら泣いているよ、よっぽどうれしいんだろうね。
「馴れ馴れしく触ってんじゃねぇよ!」
ナダさんが割って入った。ナダさんってもしかしてマザコンなのではないだろうか。
村を去る電車には、乗客は俺たちだけだ。
和尚に見送られながら、俺たちは静かに駅を離れる。
俺たちが去った後も、この村はこの村であり続けるのか。
俺たちが見た事は誰にも言わない、何も言わない、事件の真相は闇の中だ、誰も彼らを裁けない、だからその罪は永遠に消えない。
この美しい昇龍山は、この村の罪業をそれでも包み込んでゆくのか、山に住む竜は何を想いこの村を守るのか。
電車は山との別れを惜しむかのようにその麓を周回してやがて次の駅を目指して進んでゆく、車窓から徐々に遠ざかってゆくその山は、やっぱりそれでも壮大でたくましくそして美しい。
「おかえりなさい皆さん、お土産をください」
芝さん直球すぎ。
俺たちが到着すると、ログハウスの前で芝さんが待ち構えていた、しまった、芝さんへのお土産なんてすっかり忘れていたよ、でもナダさんがちゃんと買ってくれていたので良かった。
「これはこれは、伊勢の名物『〇福』ではないですか、これ美味しいんですよねぇ、流石ナダさん私のし好をよくご存じでいらっしゃる」
伊勢なんか行ってないし、おそらくそれを買ったのは最後の大きな駅だったような気がする、つまりいつでも気軽に行ける駅だ。
「おや、見知らぬ方がご一緒ではないですか、どうされたんです?」
小柄な芝さんは、〇福の赤い包みを大事そうに抱えながら、背の高い次郎さんを見上げた。
民宿の問題も大クモ駆除も解決し、俺たちが村を後にするときになって、民宿がなくなった今、次郎さんはこれからどうするのかという話になった。
次郎さん自身はこれからもここで一人で生きてゆくと言ってはいたが、人生の目的を無くしてしまったのだ、落胆は大きい。
それに何より、サクラさんがなついてしまって離れたくないと言い出し、くるみさんもマフラーを編むという約束までしてしまったのだ。
ナダさんは勝手にしろと言うし、俺自身も置いて帰るという選択肢は無かった。
最初は遠慮していた次郎さんだったが、ここに来ればまた新たな人生の目標も決まるかもしれない、と伝えると、ぽろぽろと涙を流して喜んでくれた。
家族が増えた。部屋は、もう一つだれも使っていない物置代わりになってる部屋があるから、そこを片付ければ大丈夫と、ナダさんが言ってくれた。
そんなわけで芝さんには昇龍山の村にいた若者と意気投合し、この町で新たに生まれ変わった気持ちで暮らしていきたいと決意して、新たな家族の一員になったと伝えると、芝さんは「それはようございましたね」と言いながら、次郎さんに言った。
「よかったらウチで働きませんか、わたしの仕事を手伝ってくださるととても嬉しいです、」
「えぇっ、いいんですか⁉だってこの人は……」
ムカデ妖怪なんですよと言いかけて、俺が勝手に人の秘密をしゃべってはいけないと口をつぐんだ、でも芝さんだってこちら側の人間なのだから、少しは免疫があるのかもしれないと思いつつ。
「この方の正体などとっくにお見通しなのですから、安心してください、こう見えてわたしも妖怪なのです」
「あ、あそうなんだ、だったら安心――って――えぇぇっ⁉」
びっくりした、妖怪が普通の人間と同じように暮らしているんだなんて、なんだ、俺が気を使わなくてもよかったんだ。
「わたしは、人の姿をしていますけれど、しばすべりという妖怪なのです、周りの人間たちには内緒にしていますが、大丈夫今のところ誰にもバレていませんし仕事も順調です、イケメン画商として周囲の人から認知されていますし、ちょうどもう一人従業員が欲しいなと思っていたところなのでちょうどよかったです」
しばすべり……
「でも僕、仕事なんてしたことないし、何のとりえも無いですから……」
次郎さんが下を向いてモジモジしている、ここは俺がびしっと背中を押してやろう。
「後ろ向きな性格は駄目ですよ、何事もチャレンジあるのみです」
「そうそう、腕がいっぱいあるのですから、荷物がいっぱい持てそうですわ!」
俺の言葉に、くるみさんもさらに後押しする、いやいや普段は人の姿だから腕は左右一対しかないですよ。
「あ、この姿は人間に合わせているだけです、必要とあらば腕はたくさん出せます」
そう言ってムカデさんは、脇の下から腰から脇腹から、たくさんの腕をニョキニョキと出してきた、ムカデ人間の出来上がり――ってキモイよ!服が破れたじゃないですか!
画商に訳アリ、ムカデに手アリ
「それ、人前でするんじゃねぇぞ」
「貴方に何が出来るかはこれから見つけて行けばいいのです、でもナダさん家のトド君のように、次郎さんを下僕だなんて思っていませんから、仲良く楽しくやりましょう」
地味にデスられたような気がするけれど、芝さんはいい人そうだし、同じ妖怪同士気が合うかもしれない。
そうだ、芝さんが妖怪だとしたら、もしかしてあの和尚も実は妖怪だったのかもしれない。
「残念だが、あの和尚は正真正銘、元気な人間だ」
逆におそるべしでございます。
その後、村人からの告発をうけ、民宿ひなた放火事件は再調査されることになった。
事情を聴かれた数人が、宿に火を付け、引きこもりの若者にその罪を擦り付け、沼に落として殺害したと自供した、そのうえで二年前のひなたさんの夫の死因についても追及していく方針だと付け加えた。
実行犯としてあの時火をつけた二人と他に八人が逮捕され、犯人隠避の疑いで二十数人が取り調べを受けたという、村ぐるみの犯罪として、各種マスコミはこぞって取り上げた。今テレビを付けるとこの話題で持ちきりだ。
放火の実行犯として、実際火をつけたあの男が護送されていく姿が画面に映る、なぜか顔面に大きな怪我の跡があった、まるで誰かにケリを入れられたかのような……。
報道という名のもとに昼も夜もお構いなしに我がもの顔で闊歩するマスコミ関係者たち。
民宿ひなたの跡地を土足で踏み荒らし、嫌がる村人にマイクを向け、放火犯の極悪非道ぶりにわざとらしく顔をしかめ、殺された青年にまでも、ニートのオタク引きこもりがもたらした悲劇などと面白おかしく報じているが、この青年、実は真面目でちゃんとした在宅ワーカーだったことは誰も伝えない。
昇龍山が再び以前のような落ち着きを取り戻せるのは、いつになることやら。
「それはともかく、村人からの告発って、あの和尚だったんでしょうか?」
「さぁな、でもあのしたたかな和尚がそんなしおらしい事をするとも思えねぇけど」
ナダさんからの和尚のイメージ悪すぎ。
「だとしたら、村の誰かが、罪の意識に耐えかねて――って事なのかな」
そうだといいな。
その日はちょうどナダさんと二人で買い出しに出てきた、今夜は何にしようかとスーパーの駐車場で車を降りた時。
前の道路を、選挙の宣伝カーが通る。
あぁ、例のあの県会議員が、事の責任を取って辞任したんだ、その補欠選挙だ。
と思ったら、選挙カーに乗ってにこやかに手を振っていたのはあの時のヒステリックママだった、その横には少しおでこの広い禿散らかした小太りの男性。
「な……」
『片桐健三っ、片桐健三をっ、どうかよろしくお願いいたします!』
うるさいくらい声を張り上げてマイクでしゃべっているのあの小太りこそが、片桐健三本人だった。
禊選挙って言うんだっけ、議員は辞任はしたけれど、それに伴う補欠選挙に何人かが立候補して、その中に紛れ込む形で性懲りもなく何食わぬ顔で改めて立候補したんだ。
ちょっと息子の評判が悪かったというだけで、犯罪を起こしたわけではないから、と。
いやいや、万引きは犯罪だろ。
『わたくし片桐健三、命を懸けて、犯罪のない豊かで平和な町造りを進めてまいります!』
やかましいわ。
「大丈夫だ、あの議員は通らねぇ」
横に立つナダさんも選挙カーを見送りながらボソリとつぶやく。
きっとそうでしょう、俺にもわかる。だってあの後ろには――。
俺たちを通り越してゆく選挙カー、満面の笑みで手を振る夫婦。
そのすぐ後ろには、俺の元職場の、首を吊ったはずの店長が、それはそれは恐ろしい形相で佇んでいるのが見えてしまった。
どす黒いオーラをまき散らしながら、寄り添って離れない。
おかげであの黒いオーラは夫婦の体も飲込んでいる、あのままだときっとこの先不運にみまわれて、票だけでなく人気も運気からも見放されて、一家の明るい未来は見込めない。
俺はまだ除霊する術を知らない。
誰かさんのせいで見えてしまう体質になってしまったではないですか。
「安心しろ、お前はきっと元々見える側の人間だったって事だ」
しかも俺よりも感度が良さそうじゃないか、とナダさんが俺の肩に手を当てて、慰めるつもりなのだろうが、その顔は今にも笑い出したいのを必死で堪えているようだ。
「よし、大クモ事件を解決した祝いも兼ねて、今夜は皆であの例のビストロに連れて行ってやろうじゃねぇか」
霊の……。
「落ち武者と仲良くなれる自信ありませんから~」
俺は、これから起こりうるミステリアスなオカルトホラーで波乱に満ちたスリリングな未来を想像して、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
今まで読んでいただいてありがとうございました。
今回で最終回となりました
これからもトド君たちの活躍、応援よろしくお願いいたします。




