07 賭けは素敵だ
配当を受け取りに行った。剣組が生き残った試合は大穴だったみたいで、思ったよりお金が手に入った。
気が付かなかったが、最初に死ぬ奴を当てる賭け方もあるのか。
それと最後に勝っている十五人のなかの一人を当てるのだけじゃなかったか!
おっと次は十六人ってことは、その次から勝ち抜き戦か。
今日の最初の試合を振り返ると、一番に死んだのは魔法士だった。
あの開始直後の火球の押し返しから、杖を叩き落とし、素手になった魔法士が斬られるまでの流れ――あれが流れを変えた。
俺は控室に戻る途中で、もう一度あの場面を頭の中でなぞっていた。
誰も的中させていない。知ってたら賭けて――あっ!
観客も、賭け屋も、貴族席も。そこにいる誰もが、魔法組が剣組を焼いて刻んで終わる――それが既定路線だったはずだ。実際、庶民席の連中の歓声もその前提で沸いていた。
だが最初に砂が血を吸ったのは、杖を持っていた男だった。その時は杖を持っていなかったが。
賭け窓口の前は、ざわついていた。
「見ただろ? 最初に死んだの魔法士だぞ」
「ありえねえだろ」
「操作か?」
「そんなことが出来るわけないじゃないか」
「誰か大儲けしたんじゃないか?」
「そいつは偶然、買い間違えたんだ」
なるほど、そう考えるんだ。賭けの土壌は豊かだな。
勝つやつに賭ける――それが常識だと思い込んでいた。だが今日、初めて知った。
最初に死ぬやつに賭ける方法がある。
しかも倍率は高い。誰も狙わないからだ。だったら儲けさせて貰う。
俺は窓口の係に尋ねた。
「確認したい。一番に死んだ者に賭けた場合、条件は最初に死亡確認された者で間違いないか?」
係は書類をめくりながら答える。
「はい。競技開始後、最初に審判が死亡と認定した者が対象です」
「自分で殺しても有効か?」
係は一瞬だけ顔を上げた。
「規定違反行為でなければ、無効にはなりません」
なるほど。
つまり、戦術に組み込める。
出場者の使命を確認する。横に小さな肖像画もある。
アレクサンダー。
気に入らない。隊長と同じ名前じゃないか!
戦場で、俺を後ろからやったあの男と、同じ名前。
名簿を見た瞬間に目についた。
魔法組、上から三番目。
表情は自信満々。杖も上等だ。おそらく家も力がある。
俺はそいつに賭けた。
「アレクサンダー、最初に死亡」
周囲がざわつく。
「おい、正気か?」
「魔法組だぞ?」
「今日は剣が優勢だったからって、調子に乗るなよ」
俺は反応しない。
「ジョナサン、最終勝者の一人」
係の眉がわずかに動いた。
「両方ですか?」
「ああ」
ざわめきが広がる。
「真似するか?」
「いや、待て……あいつ、中央で動かなかったやつだろ?」
視線が絡みついて来る。
俺ははわざと、ゆっくりと札を受け取る。
案の定、あとから数人がアレクサンダーに賭けた。
「もし本当に最初に死んだら、笑えるな」
「今日の流れはおかしい」
流れは作るものだ。
もしかして。
俺を後ろから攻撃してきたやつ。剣組のやつは、賭けの関係で動いたのか?
だが、あいつは死んでいる。
確認はできない。
窓口の声は事務的だが、周囲の目は違う。
「次もやるのか?」
「明日も中央に立つのか?」
「お前、狙われるぞ」
俺は反応しない。
家へ戻る道すがら、街の空気が少し変わっているのを感じた。
酒場の前で、男たちが話している。
「あの剣のやつ、見たか?」
「押し返してたな」
「偶然だろ」
「剣でやることじゃないだろ」
「あぁ、あぁいう運のいいやつは、次で痛い目に合うのさ」
偶然ではない。位置取りと判断だ。
戦場でも同じだった。正面から撃ち合うな。
撃たせて、逸らせ。敵の力を敵に返す。
死んだら金はもらえない。
生き残らなければ意味がない。
俺は家の門をくぐりながら、空を見上げる。
明日は、開始後全員から一斉に狙われると思っていいだろう。
金と名誉がかかっている。
この世界は、血と金で回っている。
ならば、両方、取る。
明日は、全員が俺を狙う。
わかりやすくていい。
――それでいい。
狙われる位置に立てる者だけが、
流れを作れる。
砂の上に立つのは三十人。
だがこの闘技場を動かすのは一人だけだ。
明日は、俺の盤面だ。
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