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戦場帰りの魔法少年  作者: 朝山 みどり


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05 見慣れぬ戦闘 ジョナサンの父親目線




石造りの観覧席の最上段。

そこは庶民席とは明確に区切られている。絨毯が敷かれ、背もたれ付きの椅子が並び、日除けの天蓋が張られている。


わたしはそこに座っていた。


――いや、「座らされている」と言ったほうが正確か。


隣には王太子殿下、その向こうに数家の公爵、侯爵。

誰もが穏やかな顔をしている。だが目だけが違う。


値踏みだ。今年の生贄に息子が入っている恥かしい貴族としてここに座っている。

恥かしい伯爵として座っている。




円形闘技場の砂地に三十人が並ぶ。

十五人が剣。十五人が杖。


剣を持っている者が魔法でいたぶられて死ぬ。


「ああ、今年はちょうど、半々ですね。実に分かりやすい組み分けですな」


隣の侯爵が小さく笑った。


「魔法士を磨くための場であるのに、魔法ではなく剣など……」


軽い嘲笑。わたしは


「生贄を出すのも忠誠だと理解しておりますので」


ジョナサンは剣だ。杖ではない。


それがどういう意味か、わたしは理解している。死ぬ定めの者だ。


剣を渡される者は、貴族が回り合わせで出す生贄だ。


養子などではなく血縁だ。血縁であれば遠い親戚でもよい。


息子は魔法を全然使えなかった。魔力もない。

わたしは失望して息子を見放した。

教育は家庭教師任せ。食事も部屋でとらせた。


死ぬ前に図書室の本を全部読もうとしていると聞いたが、どうでもよかった。


たまたま、我が家に生まれただけの存在。


現に今、久しぶりに息子を見た。ただ、籍を抜く書類をせがまれた時は胸が痛んだ。

死んだ後でもいいから、自由になりたいと願った息子が不憫だった。


だが、わたしがあの立場に追いやった。派閥の功績の為に息子を差し出した。


差し出すために息子を育てた。



……正直に言えば、一番に死ぬと思っていた。



砂時計が回された。


開始。


わたしは無意識に背筋を伸ばした。



魔法士たちは詠唱を始める。

その間に剣組が散開した。


この二・三年はこのやり方だ。距離を取って他の者を盾にして生き残ろうとするやり方だ。


「ほう……」


王太子殿下が小さく声を漏らす。


多分息子ジョナサンを見てのことだ。




ジョナサンは動かない。中央に立っている。


私は息を吐いた。動けぬのだ。あれは怖がりだ。


分かっていたことだ。


そのとき、火の玉が放たれた。



突っ立っているジョナサンへ向かって行く。



だが、火の玉が跳ね返った。術者へ向かった。


「あちち!」


観客席がどよめく。


仲間が水を出して消してやった。


魔法士たちは合同で訓練をしているから、それなりに仲間意識がある。


初回は好きにいたぶっていいと教えられ、理解しているのに、相手が思いがけない反応をして来て戸惑っているようだ。


「……偶然か?」


隣の侯爵が眉をひそめる。


わたしは目を細めた。偶然ではない。



剣の面で押し返した。


「斬っておらぬな」


王太子殿下が低く呟く。


その通りだ。斬っていない。


切断ではなく、制御。


ジョナサンが歩く。走らない。


悠然と、近づくと杖を打ち落とした。


剣組がそれを破壊する。


次いで、杖を持たない魔法士へ駆け寄る。


ためらわずに、魔法士を斬った。


血が砂に広がる。観客席の空気が変わった。


嘲笑から、興味へ。


「……あれは訓練しておったか?」


侯爵が私を見る。わたしは首を横に振った。


してないというか、させていない。無駄なことはしなかった。


だが、あの動きは、ゆっくりと動いているが、


魔法が飛ぶ前に完了している。


術式の構築時間を読んでいる。


魔法を切ることもできるようだが、切らない。


押し付けている。



「面白い」


王太子殿下が笑った。


「彼は盾をやっている」


盾。そうだ。


剣組が生き残れているのは、彼が魔法組を……


魔法を押し返しているからだ。


あの子は、あのようなことができたか?


記憶を辿る。


魔力がないとわかった日。剣を使えないとわかった日。


ならば、家の名誉のためにみじめに死んで貰おうと決めた。


直系を差し出すのは最大の忠誠なのだ。


そう決めてからは好きにさせた。


幼い頃、書物ばかり読んでいた。体を使う遊びは嫌っていた。


運命を教えたのは誰なのか? ずっと泣いていると連絡が来たが、今更だ。


泣いている生贄は民衆を喜ばせる。


だが、泣きやんだ。




魔法士が二人同時詠唱。ジョナサンを避けて反対側を狙っている。


剣を持った男が炎に焼かれて転げ回った。


ジョナサンはいつのまにか後ろに下がっている。


そのジョナサンに剣を持った男が、後ろから切りかかったが、あっさりと返り討ちになった。


ジョナサンはためらわない。


詠唱する魔法組に剣組が突撃。杖を弾き飛ばす。


また一人倒れる。


観客席のざわめきは、今や歓声へ変わっていた。


「剣組が優勢とは珍しい」




誰かが言った。


視線が集まる。わたしの息子に。


下から三番目に名を連ねていた、取るに足らぬ存在だったはずの少年に。


わたしは指先が冷えるのを感じた。


誇りか?違う。恐怖だ。


あれは、わたしの知るジョナサンではない。


歩き方が違う。目が違う。


一瞬、彼が観客席を見上げた気がした。


視線が合う。錯覚かもしれない。


だが、わたしは背筋が凍った。


そこにあったのは、


怯えでも、必死さでもない。


計算。


測定。


観察。


剣組の一人が近くの魔法組に切りかかった。


砂がまた血を吸った。場に立っているのは、十五人。砂時計はぎりぎりだった。


もう一組、バトルロワイヤルがある。それで残るのが十五人。


明日もう一度バトルロワイヤル。十六人残す。


それから勝ち抜き戦。



王太子殿下が私に問う。


「彼は以前からあのような戦い方を?」


「……いいえ」


声がかすれた。


わたしは気づく。


ジョナサンは明日の戦いで全員から狙われるだろう。


出場者に金が渡り根回しが行われる。


今日死んでいれば楽だったのに。



わたしは椅子の肘掛けを握りしめた。


自由になりたいと願った息子。


あの書類を嬉しそうに受け取ったと報告が来た。


視線が合った気がした。


違う、勘違いだ。ジョナサンはわたしを見ていなかった。


いや。最初から、見ていなかったのだ。


あれは、観客席全体を計算していた。


王太子、公爵、侯爵、そして――わたし。


わたしは気づく。


あの子は、戻らない。たとえ生き残っても。


砂の上に立つあれは、わたしの息子ではない。


わたしは、自分の息子を恐れた。






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