04 この程度?
04 この程度?
開始と同時に火の玉が飛んでくることはなかった。
予想していたような、開始の合図と同時の一斉砲火はない。
代わりに、杖を持った連中――魔法組が、静かに詠唱を始めた。
剣組は、ここで殴りかからないのか?
この詠唱時間なら、充分に攻撃できるだろう。
では剣組はどうしたか。
散った。
詠唱時間を利用して距離を取ったのだ。
四方へ散開し、的を分散させるためだろう。
魔法攻撃への対処としては正しいのかもしれない。
だが、戦場帰りの俺からすると、妙に間抜けに見えた。
残っているのは、中央付近で動かない俺だけだ。
動けないんじゃない。
動かない。
本当なら間合いを詰めて斬り込みたい。
だが今は様子見だ。
俺の知らない何かがあるかもしれない。
透明の腕が、俺の剣を支えている。
本物の手は添えているだけだ。
重さは感じない。
やがて詠唱が終わった。
ようやく、火の玉が飛んでくる。
十五個。
一直線に、俺へ向かって。
軌道は素直だった。
ただ真っすぐ飛んでくるだけ。
拍子抜けだ。
ジョナサンめ、脅しやがって。
魔法組の狙いは当然、俺だ。
だが、こんな単調な弾道なら、どうにでもなる。
俺は剣を盾のように構えた。
そして横薙ぎに振る――のではなく、押した。
斬らない。
押し返す。
だって今の剣は、武器じゃなく盾だからな。
魔法の手が、剣の腹を火球に当てる。
角度をわずかに変える。
弾くのではなく、押し戻す。
全部を返すほどの速度はない。
五個だけ押し返した。
残りの火球は、左手で軌道を逸らす。
俺の横を抜け、後方へ飛んでいった。
押し返された五個は、そのまま術者本人へ直撃した。
残りは闘技場の壁へ激突する。
「あちちっ!」
悲鳴が上がった。
ローブの裾に火が付き、杖を取り落とす。
観客席がどよめいた。
魔法組は慌てて水球を出し、仲間の火を消している。
俺は笑いそうになった。
こんな試合で、どうやって死ぬんだ?
笑い死にか?
だが、魔法組はすぐに立て直した。
再び詠唱を始める。
火球の詠唱だな。
俺はゆっくり歩き出した。
魔法組へ向かう。
近づき、杖を――叩いた。
透明な腕で剣を振り上げる。
乾いた音。
杖の中央に衝撃が走り、宙を舞った。
飛んでいった先は、剣組の側だ。
ひとりが、それを空中で叩き落とした。
そこから先は早かった。
剣組が、落ちた杖をバンバン踏みつけ始めた。
「やめろ!」
杖の持ち主が叫びながら駆け寄る。
素手で。
素手の魔法士なんて、ただの人間だ。
剣組のひとりが、ためらいなく斬った。
血が砂へ落ちる。
観客席が沸いた。
俺はその光景を冷静に見ていた。
この競技の勝利条件は、相手の死だ。
なら、ここで手を緩める意味はない。
それにしても。
ジョナサンは、こんな腑抜けた試合を怖がっていたのか。
怖がりすぎだろ。
どうもこの国では、魔法を剣の上位に置く教育をしているらしい。
だから剣組は、詠唱が始まった瞬間に距離を取った。
魔法は避けるもの。
近づくものじゃない。
そう思い込んでいる。
俺は調子に乗って、別の魔法士の杖も左手で弾いた。
端から見れば、うっかり取り落としたようにしか見えない。
近くにいたやつが拾おうとして、さらに蹴り飛ばす。
杖を追いかけて、魔法士が二人。
剣組の側へ近づいた。
二人とも、殺された。
さすがに魔法組もあっけに取られた。
だが、すぐに気を取り直して詠唱を始める。
俺は左手で、その脇をくすぐった。
「ひゃっ!?」
詠唱が止まる。
剣組も魔法組も、顔を見合わせていた。
意味がわからないのだろう。
だが魔法組は、再び詠唱を始めた。
今度は連携。
二人同時だ。
火と風。
俺は動く。
魔法が剣組へ飛ぶ直前、割り込んだ。
火球を押し返す。
風刃は横へ流す。
試しに、一度だけ斬ってみた。
魔法へ剣を振るう。
切れた。
だが、その瞬間。
魔法は霧のように消えた。
そこで俺は、わざとしりもちをついた。
魔法は斬れる。
だが、それを見せすぎるのはまずい。
俺は後ろへ下がった。
これ以上目立つのは困る。
その時。
詠唱中の魔法士が、突然くしゃみをした。
タイミングよく、剣組が斬りかかる。
だが、完成しかけた詠唱が暴発した。
火球が剣組へ襲いかかる。
「あちちっ!」
「うわっ!」
悲鳴が上がる。
剣組の悲鳴か、魔法組の悲鳴か。もはや関係ない。
血の匂いが濃くなる。
砂が湿っていく。
俺は呼吸を整えながら、状況を読む。
魔法組を全滅させれば、かなり安全になる。
だが、剣組も多少減ったほうがいいか?
それに、俺も疲れてきた。
息が上がる。
この体、本当に終わってる。
その時だった。
剣組のひとりが、後ろから俺へ斬りかかってきた。
反射で、やり返す。
副長だった頃の感覚が先に動いた。
ジョン。
味方に裏切られ、背中から焼かれて死んだ男。
だから今度は警戒している。
背後を取らせない。
簡単には死なない。
そして――生き残る。
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