19 勝利
「……倒れたぞ」
歓声が爆ぜた。
砂に仰向けになった男を見下ろす。
ぬかるんだ砂が跳ね、びしょ濡れだ。湿った土と血の匂い。いつもの闘技場の匂いだ。
静寂は、一瞬だけだった。
「やれぇぇぇ!」
「焼け! 焼け!」
「とどめだ! 火だ!」
うるさいぞ。
酒臭い声が四方から飛ぶ。串肉の匂いまで流れてくる。
俺は杖を振りかぶった。
場内が沸いた。いいぞ。もっと喚け!
杖の先に火を出す。
「火を出せぇ!」
叫び声が重なる。
火を大きくする。
「いいぞ。やれーー」
俺はおもわず笑った。
あいつらは、焼くかどうかしか見ていない。
俺は口を開く。
「――降参」
小さく、だがはっきりと。審判に向かって。
歓声にかき消される。
それでいい。
審判がぬかるみを踏んで近寄ってくる。
顔が戸惑っている。無理もない。
俺はうなずく。
審判が倒れた男の喉元に手を当てる。生きているのを確認している。
観客がざわめく。
「死んだか?」
「まだだろ?」
「焼いてからだろ普通!」
普通?
俺にとっての普通は、金だ。
審判が立ち上がり、なにか宣言する。
俺は火を更に大きくして声が届かないようにする。
俺は背を向ける。
それでも勝負はついた。
俺がうなずいた時点で、な。
背後ではまだ叫んでいる。
「焼け!」
「次は焼けよ!」
「火だ火!」
次はない。終わってる。
俺は闘技場を出る。
歓声は背中に当たるだけで、意味はない。
あいつらは勝者を見ていない。見世物を見ているだけだ。
倒れた男は生きている。彼は明日、もう一度戦える。
がんばって欲しい。
俺は袖の内にある札を確かめる。そこには、あそこで倒れている彼の名前が記されている。
窓口に向かって歩き出した。
後ろに全部を置いた。前世もジョナサンも、俺はジョンだ。
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